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伊藤と工藤の気持ちは微妙に袂を分かつ



「工藤、工藤、工藤、工藤!!」

 古来飛脚がしていたのに同じ走法、、いわゆる足と手の方向が同じになるナンバ走りをいつのまにかマスターしていた伊藤は、帰宅部のわりに理想的な走りをしながら駆け寄ってくる。

「工藤、どこだ! 工藤、君のことだから、きっと壁に逃げ隠れると思ったけど、壁が半壊してて、ああ~もう訳が分からない。もしかして、工藤はぺっしゃんこ!? ファイナルコマンド 赤い要塞の戦車に踏み潰されたみたいに無残な姿に成り果ててる?」

「ここよ、伊藤、私は、ここよ、ここな、ココナワールド」

「そのムリヤリにファミコンソフトをかぶせる物言いは、工藤しかないない! どこ工藤、どこなの」

「壁が朽ちた辺りよ」

「え? どこどこどこどこどこ? あ! そこ」

 工藤が足を引きずりながら、伊藤の元ににじり寄ってくる。

「伊藤が磁界少年メット・マグだとしたら、私はさしあたり磁界少年マット・メグよね。引き裂かれても、つながる運命にあるみたい」

「あ、いた、無事だったかい?」

「なんとかね」

「それで、あの店員は、僕をファミコンソフト、なんだっけな、落ちてたファミコンソフトのパッケージは、ええと、ほら、あの、太陽の勇者ファイバードかな、かっこいい、ロボット3台のイラストつきだったから……で僕を気絶させた男に、工藤は危害を及ばされなかった?」

「なにいってるのよ、助けてくれたの伊藤自身でしょ?」

「え、僕が?」

「たぶん、あなたがひとり言でファミコンソフトを消費させたでしょ? そのおかげで、男の店員は、運悪く、私にとって運良くだけど、この通り、壁の下にぺっしゃんこよ。戦場の狼のスーパージョーに蜂の巣にされたみたいにくたばってるわよ。ありがと、私を思って、この男をくたばらせるくらいの威力のファミコンソフトを選んでくれたのね」

「え、別に、君の安否を案じて、ファミコンソフトを消費させたわけじゃないけど」

「もう、てれちゃって」

「いや、確かにここにたどり着くまでの道ほどで、たしかに4本のファミコンソフトを消費させたけど」

「4本も?」

「うん、地震が起きたでしょ? その時に、ちょうど目覚めたんだ。で、僕は口走った。スペランカーの主人公なら死んでるぞって」

「もう、スペランカーなんて、ネタになり易いソフト、ひとり言で消費させないでよ!」

「ごめん、ごめん、ついさ。それで、僕は立ちがって、急いで店を出たんだ、今度地震が来たら、店ごとぺっちゃんこの危険性を感じたから。で、店出たその瞬間、運がいいのか、また地震が起きて、店は全壊さ。あ~ファミコンソフトの大群もったいないな~ ってけっこう大きな地震が起きた事実より先に、ファミコンソフトに頭がいくなんて僕らしいでしょ? それでもったいないと思って、記念にっていうか、全壊した瓦礫の山の中から、ファミコンソフトを一つ見つけてきたんだ、ほら、これ」

 伊藤がブレザーのポケットから、ファミコンのロムカセットを取り出す。

「まあ、その水色のカセットが恭しいのは、からくり剣豪伝ムサシロードじゃないの。ガンダムが描かれてのも商売根性凄まじいわ」

「うん、別にガンダム好きでもないし、からくり剣豪伝ムサシロードに思いれないから微妙だったけど」

「これで2本。でも男をやっつけたソフトとは思えない、スペランカーはメジャーすぎるし、からくり剣豪伝ムサシロードはタイアップ臭が匂い立つ。どっちも一撃必中、一人一殺のソフトと思えないわ、あと、残りの2本はなによ?」

「えっと、なんだよ、からくり剣豪伝ムサシロードかって、つぶやいてるヒマはないと、工藤を助けなくちゃと、どこだ、どこだと工藤を探索したんだよ。でもさ、地震が繰り返し起きるでしょ? 街中、土砂崩れで行き止まりだらけ。土砂を片付けながら、先ゆく自分を、まるでバルダーダッシュみたいだなと口走ったのが3本目」

「バルダーダッシュか~ マイナーだけどミスタードリラーの先駆けでいわゆるマイナーメジャーの範疇ね。一人一殺のソフトと違う気がする。それで、あと一本は?」

「でさ、途中にピザ配達してる兄ちゃんがいて、なんだよ、この終りかけた世界でピザ頼む輩に運ぶ輩、同じ輩なら、ピザポップとつい口に出ちゃって……」

 工藤は、思わず膝を打つ。

「それよ、伊藤。おそらくピザポップが、男をやっつけた一人一殺のソフトよ。いかにもマイナー洋ゲーの悲哀が、男を殺めたのよ」

「なんだい、その価値基準は、完全に君の憶測じゃないか」

「いいじゃないの、私と伊藤の前に広がる事実は、やっつけられた男と助かった私と伊藤なんだからさ」

「助かったのかな……?」

「なによ、言葉を濁して」

「うん、死んだほうがましとはいわないけどさ、僕と工藤がいなくなったら、この地球はどうなる?」

「どうにもならないわよ、死に近づいた地球は、遅かれ早かれ全滅する。私と伊藤が死んだとしても、ファミコンソフトがスイッチであることに変りなく、いつしか誰がきっと必ずファミコンソフトを口にしてしまうわ。それに、ここまで朽ちた世界、復興は、すでに不可能よ。燃えプロ! 最強編と謳っても、ユーザーは食付きやしない。売り上げと評判をみて、燃えろシリーズの復興は不可能と見切ったジャレコのようにすっぱりと諦めるべきよ。地球の復興は無理なのよ、もうすでにね。燃えプロブランドの終末は、新燃えろ!!プロ野球の独特すぎる斜め視点が致命傷だったのかしらね」

「復興は無理? どうかな?」

「無理に決まってるでしょ、日本なんて東京が壊滅したのよ。日本の機能がどれだけ東京に寄りかかってるっていうの? PCエンジンの開発発売に寄りかかってた1989年にハドソンが出したファミコンソフトが星霊狩りのたった一本ってよりもよほど集中してるわ」

「不可能なんてないんじゃないかな、人間はいつだって絶望から復活してきたんだよ」

「急になによ、伊藤の責任が半分でしょうよ、地球の壊滅は」

「僕は反省した! 瀕死の状態を味わって、といっても気絶状態だけど、なにか死生観が変わった! 生きようよ、工藤」

「はあ?」

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