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耐震偽装、感情も偽装?!

「壁の存在は知ってた。オレが出勤してる途中の妨げだったしな。ルールも知ってた。だが、信じやしなかった。当たり前だ、誰が信じる? ファミコンソフトを口にする度に、世界が死に近づいていくなんて。でもな、店の備え付けのテレビやケータイを通して、いやでも伝わってくる世界が終りに近づくさまを見て、確信したよ、事実とな。それで、オレも地獄への合い言葉に手を出したくなったんだ」

「それで、あんた。なんのファミコンソフトを口走ったのよ?」

 工藤は後退りしつつも、店員が何のファミコンソフトを口にしたか確かめるのに必死だ。

「MOTHERさ」

「MOTHER! なんていうメジャーなソフトを口走ってくれたのよ! あんた、意味もなくMOTHERと口走って、どれだけの人類の命が失われたことか! いいこと! あんたはわかってないからいうけどね、ファミコンソフトの販売数や知名度に、命を落とす人類の数は比例するのよ」 

「ほうなるほど、確かにMOTHERの破壊力は甚大だったな、なにせ、テレビ中継していた全滅したものな、オレがMOTHERと口にした瞬間に」

「でもね、MOTHERと口にしただけじゃ、ファミコンソフトと認定されないのよ、MOTHERなんて言葉、世界の破滅に怯え逃げ惑う英語圏の子どもさんが、いかにも叫びそうでしょ?」

「ああ……ただ口走っただけじゃないぜ。MOTHER、糸井重里の人気コピーライターとしてのセンスが随所に鼻につくって、批評入りさ」

「!! まさしく、ファミコンのMOTHERを断定する! MOTHERと言った瞬間、テレビ局が全て吹っ飛んだといったわね!」

「ああ、全てとは言わないよ、テレビ神奈川は無事に今でも放送し続けてる。つまり、東京だけがふっとんだのかな!」

「東京が堕ちた! さすが、MOTHERね、東京を壊滅するくらいのビッグソフト!」

「面白くなったり、怖くなったりだ。店の奥の事務所のモニターで、何も買いやしない男女高校生を監視し続けてるのもヒマだ」

「ないよ、あんた、店員なら、客がいるときくらいカウンターに顔を出しなさいよ」

「まあいいじゃないか、」で、オレは、仲むつまじい高校生カップル相手に嫉妬に狂ったのか、暇つぶしなのか、それとも終末の世界、オレも一人くらい殺したくなったのか、もう一つのファミコンソフトを口走りたくなったんだよ」

「もう一つってなによ!?」

「クロスファイヤーだよ。もちろん、ファミコンソフトのクロスファイヤーとわかるように、ちゃんと注釈つけて語ったぜ。するとなぜか、手元にあたファミコンソフト入りのパッケージを持って、あの男の子の頭をぶっ叩きたい衝動に駆られたんだ。ファミコンソフト消化がもたらした運命、男の子が死ぬ順番が回ってきて、トドメを刺す役目がこのオレなのか、それとも、法則にかこつけたオレの本能が、男の子の処分を望んだのか分からない、とにかくだ、オレは君と話がしたい。どうせ終わる世の中の最後に、趣味の同じなかわいい女子高生のガールフレンドくらいいても、なにも撥が当たらないだろうってね」

 店員は、右手を差し出した。

「なによ、その手、私があんたなんかと付き合うとでも思ってるの?」

「選り好みする余地なんて、この世の中には、もう存在しないぜ。趣味が同じの男で妥協するのも無理はない」

「ふん、なんで、あんたなんか。私には、地球が終わる最後まで、選り好みできる立場なのよ。だって、伊藤、つまり、あんたが気絶させた男子高校生と私は、神に選ばれた立場なのよ。だから、最後まで、伊藤っていう選択肢があり続けるの、あんたなんて、用はないわ」

「ふん、そうか。自分とあの子は、最後まで死なない運命ってことか。都合いいな、それじゃ、オレも都合よく考えようか。最後まで生き残るのは、オレだ。次にあるファミコンソフトを口走ると、あの男の子、伊藤っていうのかい? は死んでしまう。東京が陥落した今、首都圏のこのあたりも、いつ堕ちてもおかしくはない」

「……鬼畜よ、あんた」

「なんとでもいえよ。それじゃ、ちびまる子ちゃん うきうきショッピングでどうだ? まだ出てないかな?」

「出ていないわ……」

「そうか、出ていない」

 工藤と男の背後にそびえ立つ壁のランプのひとつが点灯する。

「点灯した、出ていないし、ファミコンソフトであると認定してくれたのか。今の破壊力は、けっこうあるだろうよ、ソフト自体が、ややマイナーだろうと、ちびまる子は、国民的漫画だからな、首都圏均衡のこの辺りにも、ダメージがあって、当然さ」

「……」

 工藤が、男の不気味さに一瞬、言葉を失ったその時、突然、耳をつんざくような爆音が鳴り響く。

「ドーン、ドーンってまるで花火が打ち上げられたような爆音。まさか、この地球の一大事のご時世に花火大会を開く間抜けな地元の商工会はいないだろうよ。おそらく、どっかの火山が噴火でもしたか? 首都圏均衡のこの辺りの火山って、いえば、あれしかないのな」

「わ、地震……」

 グラグラと揺れる地面に、思わず、工藤はバランスを崩す。

「おっと、伊藤って子を地獄送りにするつもりが、オレや君に危害が及びそうだな。でもね、君。オレの店、つまり、伊藤って子が気絶してるファミコンショップは、耐震偽装された建物なんだよ」

「耐震偽装?」

「だから、オレみたいな男でも、店舗を安く借り入れることができた」

「だからなによ」

「今の地震、君がバランスを崩すくらいだから、震度5くらいか? それも火山噴火に伴なう地震だ。続発性が強いだろうよ、今くらいの震度の地震は、短時間に何度も繰り返すとみていい。つまりね、伊藤くんは、何度目かの地震でぺっちゃんこになる運命なんだよ」

「!?そ、そんな」

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