データックとは
「そうか、君は覚悟があるのか」
伊藤がなにかを言いたくても、続けられないもどかしさに工藤は慰みの言葉を送る。
「人生ってそんなものよ。どこに谷底が待ち受けているかわからない。今日だってそうじゃない。いつもなら二人とも帰宅しているはず。それが奇妙な壁に塞がれて立ち往生」
「壁に押し返されるならまだマシとも言えるね。オバケのQ太郎 ワンワンパニックなんて地獄に通じる谷底が広がっているんだ」
「犬に支配された町。大の苦手で飛んで逃げる犬相手に立ち向かうQ太郎の勇気には思わず脱帽よね。一歩間違えれば、地獄に堕ちるというのに」
「安易、あまりにも安易。オバQのゲームを作ると決めて、犬を敵方としてフューチャーするのはあまりにも短絡的」
「それでも忍者ハットリくんよりましといえるわ。どうしてボーナスチャンスでハットリくんの父上がチクワと鉄アレイの雨を降らせるの? 獅子丸の好物のチクワに目をつけるのもどうかとおもうけど、それ以上に鉄アレイになんの意味を見出せばいいの? 忍者特有の小道具でなければ修行で使うとも聞いたことがない。それなのになぜ、鉄アレイ? どうして鉄アレイをよけつつチクワを追い求めないといけないの?」
「意味を見いだせないといえば、涙の倉庫番スペシャルだ。倉庫番だけで十二分のブランド力とインパクトがあるのに、なぜよけいなものをつけたがる? スペシャルと銘打つのはいい。特別感を出したい気持ちはわかる。分からないのは、涙の部分だよ。一人で時に何百にも及ぶ荷物を押さなければならない倉庫番の彼の気持ちも分かる。おそらくいくら入り組んだ倉庫を整理しても、時給換算なんだろうから。てきぱきと頭と体の労力駆使して、手早く仕事を終えた日には、いくら片付けても一律の時給が虚しく、涙が一切れ落ちるだろうよ。だからといって涙と装飾するのは間違っている」
「涙、もしくは怒の一文字の方が似つかわしいかもしれない。バイト君の心象をひとまとめにすることもないわよね、たしかに」
「ランプの点灯係が困っているよ。君の今の怒とは流れで出た言葉なのか、それともゲームタイトルを意識してのことか」
「ランボーみたいなゲームを作ろうか。権利関係の取得はめんどうだから、それを模した設定にしようと思い立ったわけよ」
「それだけ説明加えたなら、迷うことはないね。暴れん坊天狗のように、独創的すぎる設定で首を締めるなら、模造品でもいいじゃないか」
「そうよ、パジャマヒーローもその線ね。オリジナルは独創すぎると誰もついていけない」
「え? パジャマヒーローは映画原作が元でしょ? リトル・ニモっていうアメリカの漫画が元だよ」
「え、ウッソー知らなかった」
「それもその映画の日本語スタッフが無駄に豪華で。僕らは、映画にはなんの興味がないから割愛するけどね」
「知らない映画とタイアップ。なんの意味があるのかしら」
「なんだ君のその言い草。時の旅人を小馬鹿にしている。それなりの話題作だぞ」
「まあまあ。ニホンジンにとってアメコミなんてそんなもんよ。思いれがないものに心は響かないわ。ガーフィールドの一週間といっても、浮かぶ造影はクソ生意気な猫の顔よ、それが日本人」
「ちょっとは売れただろうロジャーラビットだって、映画の内容云々置いといて、日本人の心には響かないものな。かわいくないウサギだ。蹴飛ばしたくなる」
「それは言い過ぎよ、伊藤」
「ふ~ん。君はアメリカナイズされた洋物のコミックキャラクターに心を許せるんだ。僕とは違う人生の歩みをしてきたとしか思えない。ミッキーマウス 不思議の国の大冒険。ミッキーマウスⅢ 夢ふうせん。ドナルドダック。ドナルドランド。ええい、もうやけだ。禁断のディズニー嫌いの本性を現してやる」
「ディズニー嫌い。猫も杓子もディズニー大好きのこのご時世に勇気あること。でもあなたは大変な間違いをかましたわ」
「間違い? なんのことだ」
「ドナルドランドのどこがディズニーよ。それじゃあゲームを理解しているとはいえない。知識だけの頭でっかちよ」
「まさかそのドナルドとは、マクドナルドのキャラクターの? ああ僕はなんて愚かなんだ~。ディズニーにケンカを売るだけでなく、マクドナルドまで否定しようとしていたとは……。これで現代に生きる若者といえるだろうか。なにかズレてきてる」
「もうズレてるわよ、十分」
「どうして? 僕がズレてる? ファミコン末期に、一段落ついたバーコードバトラー対応のデータックを発売しちゃうバンダイくらいズレてる? ドラゴンボールZ。ウルトラマン倶楽部。SDガンダム。幽☆遊☆白書。クレヨンしんちゃん。とバンダイ誇る人気キャラを投入しつつ、前出のJリーグゲームでブームに添い寝しつつ、バトルラッシュとかいうオリジナル要素たっぷりの意欲作を混ぜ、間違ったやる気を見せるバンダイくらいずれてる?
「こっそりとデータックといった難儀なモノを処理してきたわね。いいわ、あたしにも考えがある!」