表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/69

残り180強のファミコンソフト


「うん、200を切った。ゴールはもうすぐよ」

 扉は開かれ、外界とつながりをもった伊藤と工藤であるが、外界ばかりに気を向けては、、背後がお留守になるのは否めない。

「200を切った! もうすぐだね、長い旅路だった。ところで、工藤。君に弟がいたとは……」

「うん、いたわ。私と同じくファミコンソフトに傾倒した子でねえ。アルマジロとかウエスタンキッズとか、ファミコン後期のマイナーアクションゲームが特に好きだった子なのよ」

「だったとか、いたわとか、なにか過去形なのはどうしてなんだ!」

「あまり、運の強い子どもじゃなかったのよ。例えば、私と鉄道王でもするとしたら、弟はいつもサイコロの出目が悪くてねえ、決まって、私に大敗したものよ」

「だからどうして過去形含みなんだ! 現在進行形で、運の悪い弟をいじってもいいじゃないか!」

「だって運の勝負よ、もうこうなったらね。地球の全人類がロシアンルーレットに参加してるようなものよ。それも、全員朽ちゆく運命にある虚しいロシアンルーレットをね。運が悪いものから、この世から消えていく。弟が生き残ってるとでも?」

「わからないじゃないか! 店を出た瞬間に、お姉ちゃん怖いよー、世界の終りだよ、ガンナックのオープニングで出てきたような巨大うさぎが襲ってくるよとか、工藤を頼りに駆け寄ってくるかもしれない!」

「自分の生まれた年に発売されたファミコンゲームを、ワインのそれと同じく愛好するなわらしを伊藤も知ってるでしょ?」

「は、知らないよ、そんなの」

「知ってるとして、話を進めるは、面倒だから。それで1992年生まれの私と工藤はぎりぎりファミコンソフトをビンテージソフトとして愛することができるの。私は、1992年7月3日に発売されたTHE GOLF ’92をビンテージソフトとしてあげてるの」

「また渋いね、ゴルフゲームとはさ。1992年は、ファミコン末期とはいえ、まだ96本のゲームが元気よく発売されてるんだよ。なにも、普遍性が高いゴルフゲームにしなくてもさ、もっとファミコンらしい作品をさ、例えば、1992年なら聖鈴伝説リックルを僕はあげたい。ゲーム自体への思いれよりも、6月26日が、僕の誕生日にほど近いのが理由だけどさ」

「私と伊藤は、ビンテージファミコンソフトを選択できるけど、私よりも3個下の弟は、どうすればいいのよ?!」

「3個下? 1995年生まれ? あ、もはや、ファミコンのソフトが発売しない時代の、まさしく幕開けだ!」

「そうなのよ、だから運が悪いっていったでしょ、生まれ年にも恵まれてない弟が、どうしてこの運次第の世の中を生き残れる?」

「なるほど……。ベランダで息を引き取ったお母さんと同じく、工藤の妹も非業の死を遂げた可能性が高いのか……」

「覚悟を決めれば、襲いかかる暗い現実も怖くないのよ。もし弟が、元気よく私の目の前に現れたら、それはそでいい。とにかく、平常心が必要なの、この終末の地球を生き残るにはね」

「気の持ちようか……。覚悟を決めれば、これから起こる地獄の恐怖もたしかに軽減されるかもしれない。僕と工藤が、ファミコンソフト全網羅大作戦を辞めようとしない限り、近い未来にきっと訪れることなのだから」

「残り180本強……。破壊力があり、話に乗せやすいメジャーソフトもたいがい出尽くして、まだ生き残ってる私と伊藤は、まれに見る強運の持ち主なのか、それとも、神の恣意的な選択、つまり、ファミコンソフトを

べらべらと並び立てる役は、世界の最後まで必要不可欠……」

「強運なのか、それとも陰惨たる地球の最後を見届けなければならない、ある意味不運な立場にいるのか」

「それはわからないわ。手っ取り早くわかりたければ、先を急ぐことよ。ファミコンソフト全網羅大作戦……。一度、くだった指令を遂行するのは、私と伊藤の宿命なのよ。さあ外界よ、今にも終わりそうな世界で、今にも終わりそうな大作戦の仕上げといきましょう」

 作戦完全完了にあとわずか。飽きるほど普遍的な日常で広がってたファミコンショップから、危険な外界に身をゆだねる覚悟を決めた伊藤と工藤。だがしかし、ファミコンショップの日常も終りをつげようとしていたのだ。

「僕と工藤は、本当に神に選ばれたものなのであろうか。世界の終りを決めた神が、僕と工藤の異常なるファミコンへの興味につけこみ、僕と工藤を滅亡への先導役に選択した事実がどこにあろうか? 僕は思う。次、ファミコンソフトの名前をあげた瞬間、いつ僕、いや工藤にも命の終わりが訪れてもおかしくないってね。もし僕と工藤が世界の終りより、前に命を落すことになったらどうなる? 終わりかけの地球は、加速度的に滅亡に向かわず、ゆっくりと滅亡に進むのだろうか? それとも、奇跡の復興で、地球は、世界は、熱狂の日々を再構築するのだろうか」

「ぐだぐだ語るわねえ。ファミコンソフトのひとつも入れないで、そんだけあなたが語るのも珍しいわ。ココロンのキャラ作りみたいに、伊藤のぐだぐだとした話を、ファミコンソフト語りにカスタマイズしたいわ、もう」

 伊藤は急に、肩を落とし、下を向く。

「怖いんだ、怖いんだ、今更だけど、怖いんだ、次、ファミコンソフトを口走ったら、僕か、工藤が標的になるかもしれないってね」

「第2次スーパーロボット大戦……ってさ、第2次世界大戦のパロディみたいなもんでしょ? SDゲームでさ、人類の記憶が新しい歴史をパロっちゃうってどうかと思うのよ」

「またいった、僕の恐怖を知って、意味なく、工藤はまたファミコンソフトを口走った」

「だって宿命の指令……」

 工藤の話しが終わらないうちに、事態は急展開を見た。工藤の口走ったファミコンソフトがスイッチだったのだろうか。

 伊藤と工藤の背後には、得体の知れない人物の影が迫りつつあったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ