アストロロボ・ササの女房
「あ、そうだ! 見忘れた」
「急に何よ」
「朝の連続テレビ小説だよ! ゲゲゲの女房だよ。毎朝8時の本放送を見てたのに、今日は見逃した」
「何よ、急に。てゆうかさ、朝の連続テレビ小説ってNHK総合で8時、12時45分、BS1で7時45分、そして19時30分って、日に何度もやってるでしょ? 家に帰って、BSの再放送みるといいじゃないのよ」
「19時30分まで、地球は存在してるのか?」
「私たちのファミコンソフト消化ペースをゆっくりめにすれば? なんとか夕方過ぎまで地球の寿命は持ちこたえるんじゃないのかな」
「工藤、君は甘いよ。放送局はNHKだよ。有事にはNHKにチャンネルを合わせるのが常道。巨大移動要塞ダイバダストにこってりとやられたリフレクトワールドみたいな現在の地球の危機を、NHKは伝える義務がある! 世紀末の地球の危機は、NHK総合、NHK教育、BS1、BS1、BSハイビジョンのNHK主要5局で繰り返し伝えても間に合わないぞ! だからBS1の再放送を取りやめる可能性は高い!」
「なら土曜日の一週間まとめてやる再放送まで我慢すればいいんじゃないのかしら?」
「土曜日まで持つわけがないよ」
「あ、そうね。ところで、なんで、急にまた、朝の連続テレビ小説なんて思い出したの? 週末間際の終末の世界だし、頭の中にはファミコンソフトが一杯だし」
「悪魔くん 魔界の罠のパッケージが目に入ったんだよ」
「ゲゲゲの女房ってタイトルで印象つけてるのに、水木しげるの代表作といえば、ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大魔境なのに、どうして、伊藤は、悪魔くんから朝の連続テレビ小説を連想するの?」
「水木しげるがノータッチだろう、ファミコンの鬼太郎を代表作風に語るのよしてくれ」
「ならゲゲゲの鬼太郎2 妖怪軍団の挑戦でおなじみの水木しげる」
「もっとマイナーな方につなぎ合わせるのもよくない。あ~それにしても朝の連続テレビ小説を見逃したのが残念、これから見れなくなっちゃうかもしれないのも、なんとも残念。ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大魔境の女房が当たったら、の制作をガンガンラブコールしようと思ってたのに、アストロロボ・ササの女房とかさ、工藤も見たかったろ?」
「え、あの変なピンク色のロボットの女の一代記?」
「そうそう。ボンバーキングの女房よりはいいでしょ? 爆弾魔の女房の苦労なんてお話は、普通の主婦は食いつかないよ、絶対」
工藤は、それとなく真実に近づいていた。地球は、もはや伊藤と工藤の手にあるといっても過言でなく、地球の滅亡を早めたり、遅めたり、全ては伊藤と工藤の自由であるのだ。
伊藤と工藤は、類まれなるファミコンソフトへの執着心によって、世界の実質的の支配者になりえたが、伊藤と工藤の瞳は、征服欲でぎらつかない。
伊藤と工藤の視線の先にあるのは、ファミコンソフト全網羅だけなのである。
「よし、覚悟を決めた? ひさびさに ふぁみこんむかし話 遊遊記に手を伸ばして、ディスクカードにゲームプレイの支障をきたすような損傷がないかとドキつかせながら、前編のシナリオをクリアし、さあ後編だ。こっちのディスクカードの保管状態のが危ういぞ。どうか、起動してくれと覚悟を決め、ディスクカードをディスクシステムにインサートしたあの時の気持ちを思い出さないか?」
「いや別に」
「あそう、それじゃあドア開けるよ。僕と工藤の閉塞感を演出するかのように、ドア中貼られたファミコンソフトのステッカーや宣伝ポスターは、ちょうどいい外界との遮断になっている。なんだよ、ガーディック外伝 1月29日 戦闘配備完了って、いつの1月29日なのさよ。しかも、ガーディック外伝は2月5日に発売された事実が確認されてる! 公式発表された仮の発売日から、わずか一週間の遅れですんだけど、一週間遅れた謎が、僕の探究心を呼び起こさせる。重大なバグでも発見された? それとも戦略的に発売日を避けた?」
「いいじゃないのよ、どうでも」
「なんだか、急にまた冷めてきたね、工藤」
「別に、前みたいにファミコンにも伊藤にも飽きたワケじゃないから安心して。ドアノブに手をかけてから、一向に進まない伊藤にちょっと苛立っただけよ」
「ならいいか。よし、それではいくよ。開け……ドア……シルヴィアーナとシルヴァサーガが瞬時に判別できるような優れた頭脳をおくれたまえ」
「なにドアに願い事してるのよ」
「それなら、工藤。君は、シルヴィアーナとシルヴァサーガがどっちがどっか、すぐに分別できる明晰な頭脳だってこと?」
「いいから、いいから、私は特別かわいい上に、頭も結構いいから。アドベンチャーズオブロロは、エッガーランドシリーズって知ってるし」
「ええ、それじゃあ、アドベンチャーズオブロロIⅡもエッガーランドシリーズ!!……知ってたよ……ドア開けよ」
「急にあっさりになったわね」
「……あれあれあれれれ?」
「どうしたの?」
「開かないんだよ、ほら」
「またこのパターン? ドアの開け閉めに日に何度かかってるのよ」
伊藤を押し出すように工藤はどかすと、自らドアノブに手をかけた。
「私に任せてごらんなさい。JUJU伝説でどうも猿の操作に戸惑う弟に見かねて、私に任せなさいと啖呵を切った以来だは、この自信」
「ああ、ちょっと待って……」
工藤がドアノブをひねると、扉はあっさりと開かれた。
「ほら、開くじゃないのよ」
「まったくもう……わざと開かないふりをして、あれれ、合い言葉がいるのかな? ファミコンショップだけに、なんかのゲームのパスワードとかって具合に適当にかこつけて、ファミコンソフトの消費を目論んでたのに、ああもう……マジックジョンの師匠マジックポンもびっくりのマジックを工藤は仕掛けたてくれたよ……。扉を普通に開閉するなんてさ……」
「急ぐこともなくてよ。もう残りのファミコンソフトは200を切ったんだからさ、そういたずらにむやみにファミコンソフトを消化させる必要性はもうないのよ」
「なに? 200を切ったって?」