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工藤さんはあらゆる裏が気になる


「どうしたんだい? まさか名前じゃなくて、パスワードとか記されてる? オリュンポスの戦いのラスボス前のお得なパスワードとか」

「違うの、バーズテイルって書いてあってさ」

「バーズテイル? 例の3Dダンジョンの? まさかファミコンソフトの裏にファミコンソフトの名前って……なんだか奇妙。大きなプレゼントの中身がどこまでいってもプレゼントで最後に出てきたのが小さな宝石ってくらいに奇妙。エポック社ファミコン参入第一弾はもちろんファミコン野球盤! あれでもファミコンにしちゃったら、もはや野球盤じゃないじゃんってくらいに奇妙」

「違うのファミコンソフトのタイトルが記されてるだけなら、不条理に要因を押し付けることができるだろうけど、違うのよ。バーズテイルのマップを書こうとしてるのよ」

「マップだって? まさか限られたロムカセットの裏面に名前やパスワードを書き込むスペースがあっても、マッピングするのは、いかにも無謀」

「無謀と思いつつ、手を伸ばした先にメモ帳の広告もなければ、手元のロムカセットの裏面利用せざるを得ないかもよ。でもやっぱり無茶な試みだったようね。わずかな道筋が記されてるだけでそれからのマッピング放棄してる。ⅡかⅠかな~バーズテイルの。Ⅲは自動マッピング機能つきだし」

「しかし、興味深い。カセットの裏面に人生が読み込まれてるなんて」

「そういうことよ。ファミコンソフトは、ユーザの手にわたった瞬間に、その持主の人間性を反映するの」

 工藤は投げ捨てるように持っていたロムカセットを箱の渦に返すと、また別のファミコンソフトを引き上げる。

「続いて、ヘラクレスの栄光Ⅱ タイタンの滅亡……」

「肌色使うセンスを疑う」

「これまた好都合よ。Ⅰは語っても、Ⅱは抜け落ちてたの気にしてたところなのよ。でも私は、オモテ面に興味がないのよ。私は、イラストされた三人パーティー構成がドラクエⅡと酷似されたことにも気を止めず、躊躇なくひっくり返す……なにこれまた、すごいわ!!」

「どうした」

 伊藤は思わず、前かがみになる。しゃがんだ工藤が、時折、意識をスカートに配れず、無防備になったとしても、臨戦態勢をとらない伊藤が、工藤の驚きに思わず、体を前に倒す。

「苗字と名前が書いてあるのは普通なんだけどさ、むしろ名前だけじゃなくて、苗字まで記す辺りに用心深さがにじみ出てるんだけどね、苗字にばってん印が記してあって、上に違う苗字が書かれてるのよ。ヘラクレスの栄光Ⅱを所有している間に人生の転機が訪れたのよ。親が離婚したか、再婚したか、それとも復縁したか、あるいは養子にもらわれたかなんだか分からないけど、とにかく新たらしい苗字になったのよ。だから、持ち主はいちいち書き換えたのよ、律儀にね。プライバシーや個人情報保護の観点から、名前は伏せて、ファミコンソフトに替えさせてもらうけど、フォーメンションZがセクションZにかわったようなもの。Zが名前で、フォーメンションやセクションが苗字ね」

「僕は、悪い方に人生が転んだとは思えない。なぜなら、持ち主が意気揚々と苗字を書き換えたことから、苗字の変更は、持ち主にとって嬉しい出来事であると伺える。だって、離婚とか悲しい事実の前に、ファミコンソフトの名前なんていちいち変えやしない。持ち主の悪くない人と再婚とか、あるいは両親の復縁かもしれない

。とにかく、苗字の変更に嬉しさ余って、思わずファミコンソフトの名前さえも書き換えたと見る」

「そうならばいいかもしれないけど、このロムカセットから伝わってくるのは負のエネルギーよ。私はこう推測するわ。このロムカセットは、持ち主の意図しない理由で手元を離れたの」

「どういうこと?」

「苗字と名前が書かれたことを用心深さの賜物と表現したけど、違うのよ。正しくは、仕方なく苗字と名前を記したの。おそらく、ガキ大将みたいなファミコンソフトを取り上げる輩がいてさ、そいつの下の名前が持ち主と一緒なの。だから下の名前だけ記してると、漬け込まれやすいのよ。これオレの名前じゃんって感じで取り上げるとか」

「だから苗字を記したわけか」

「ええ、でも、ガキ大将の前には、そんな小手先の技術は効かないわ。やっぱり取り上げられたソフトはガキ大将の所有物になって、その結果、苗字にばってん印がなされて、上のガキ大将の名前が書かれた。だって、元の苗字、名前とばってん印、新しい苗字の字体が明らかに異なるのだもの」

「なんだか、君の誇大妄想な気がするけど」

「そんなことはないわ……この推理力は……えっとなにで培っていうべきかしら? 残ってる推理アドベンチャーゲームなんかない?」

「そうだな……クレオパトラの魔宝で培ったってどう?」

「残りも少なくなると例えも微妙ね。アドベンチャーゲームだけどさ、なんかこう推理力が磨かれるってかんじがあんましないのは、スクウェアが無駄にグラフィックに傾倒するため? ムーンボールマジックは、一味違った俺たちがピンボール作るとこうなるぜって気合だけが空回りして、ハオ君の不思議な旅は、魔法学校ものを先取りしてやったぜって感がぷんぷんするけどさ。それでも、スクウェアのやりたいことは、ファミコンじゃ到底できないことばかりって感じなのよ」

「工藤、能書きはいいから箱に返せ。ヘラクレスの栄光Ⅱのロムカセットの役目はもう終わったんだよ」

「そうね、それじゃあこれ、どうかしら?」

三回目の引き上げにして初めて、工藤は意図的にファミコンソフトを選びとった。ほかのロムカセットと明らかに異質な形状をしたそれは、ワゴン売りソフト群の中で、ひときわ強いブランド力を発揮してるように見える。

「ファミコンジャンプよ」

「ついに来たか、ファミコンジャンプ 英雄列伝……」

「ええ、当時の子どもが好きなもの二つ、それはファミコンとジャンプ。その二つが融合したんだから、これは売れない方が変よ」

「売れない方が変か……たしかにね、でも制作してるのが……」

「その先はいわないことよ。ピッコロを倒しにいくのよ。ジャンプヒーロー総がかりでね、原作じゃ悟空一人で打倒できたピッコロを、総がかりでね。ピッコロの名前だけでブランド、求心力あるのに、ドラゴンボール 大魔王復活で、なんで名前隠すのかしら、ピッコロ大魔王復活って名前つけた方が売れたんじゃないかしら。ドラゴンボールZⅡ 激神フリーザ!!とかドラゴンボールZ 強襲!サイヤ人は、いい感じよ、うん、いい感じ。ドラゴンボール3 悟空伝……悟空に求心力があるといっても、悟空伝はないわよ。悟空の総決算をまとめたゲームだからといって、このセンスは疑うわ。ドラゴンボールZⅢってサブタイトルないじゃないのよ。人造人間編がいくら焦点の定まりきらない作品だからってこれはないわ。ラッディウォリアーズ ジャンゴーの逆襲。ジャンゴーってなにかしら? こういうサブタイトル付けはいかがなものよ。エッガーランドシリーズなんてもっとあれよ、単純さが売りのパズルゲームなんだから、2とか3でいいのに、エッガーランド 迷宮の復活、エッガーランド 創造への旅立ちってどっちが先に発売されたのかも分からないじゃないのよ。タイムズ・オブ・ロア 失われたメダリオンってメダリオン自体こっちは意味不明よ。メダリオンで検索すると、ジャッキー・チェンの映画が、私のメダリオン知りたい探究心を邪魔してくれるし。機動戦士Zガンダム ホットスクランブルなんて、場合によっちゃ、ガンダムの名前を小さくしてまで、ホットスクランブルが大きく表示されるファミコンカタログもあるほどよ、浸透力としては間違った方向性でもないけれど、初ガンダムでこれはどうかしら思うのよ」

「アスピック 魔蛇王の呪い。魔蛇王ってなんだよ。ディーヴァ ナーサティアの玉座。どうして、僕が、存じえぬ女王の玉座を狙わないといけないんだい」

「風雲少林拳 暗黒の魔王、魔王に注釈付けなくても、ゲームの魔王なんてどうせ、暗黒撒き散らすものでしょうよ。DANDY ゼウオンの復活ってこれもサブタイトルにタイトルが力負けしちゃってるわよ……ふう……こんな感じでいいかしら」

「OK。やっかいなサブタイトルついたの一層できわよ。それじゃ、本筋に戻ろう。ファミコンジャンプⅡ 最強の7人じゃ、そこに堀井雄二のブランド力を注ぎ込んだんだけど、時すでに遅し。第一弾で失った信頼はもう取り返しのつかないものになっていた……。ジャンプ+ファミコン+堀井雄二ドラクエのトリプルブランド、しかも、ジャンプには、ドラゴンボールやこち亀、ジョジョや男塾、おぼっちゃまくんを内包して、これだよ。販売のバンダイがどれだけマイナス力があるかってことだとだよ」

「しれっと間違った事実を織り込んだでしょ? おぼっちゃまくんがあるわけないわ。小林よしのりは、確かにジャンプ出身の作家だけど、おぼっちゃまくんはジャンプ追放後にコロコロで書かれた作品だわ。もしかして、伊藤、そんなに、私にともだちんこして欲しい?」

「して欲しいかして欲しくないか、女子高生にともだちんこされたくない男子高校生がいたらお目にかかりたいよ。それがたとえ工藤のようなルックスでもね」

「いってくれたわね~」

 伊藤は、瞬時に股間をガードした。怒った工藤が、感情の向くまま、股間を握りにくるとでもおもったのだろうか。

「しないわよ、かからないわよ、そんな作戦に……。私をわざと怒らせて、ともだちんこ作戦にはさ」

「作戦じゃないさ」

「ふん、どうかな~」

「もう~! 伊藤の股間をスーパーピンボールさせちゃうわよ」

「おっと、それはごめんだ。工藤のルックスじゃスティックハンターが精いっぱいだよ」

 無邪気に笑いあう伊藤と工藤。新たなる恐怖が迫っていることを知らないで。

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