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愛する者の死を乗り越えて


「でもいつまでも壁に寄り添ってはいられらないわ」

「分かってる。僕と工藤には、目指すべき場所がある……えっと、どこでしたっけ?」

「もう……電撃ビッグバン!でしょそれは。え? 悪の軍団ローブレイカーを倒すために立ち上がったのでしょ? 秘密戦隊サーベルタイガーに属する、私と伊藤がどうして、そんな見知らぬ悪と対峙して退治しなきゃいけないのよ」

「一人でボケて、一人でツッコミ、それでいて、ボケとツッコミの順序を入れ替えて、最初に答えを出すことにより、摩訶不思議な世界を作るのを辞めていただきませんんか。工藤」

「どうでもいいわ。まあそういうことよ、いくわよ、伊藤。ファミコンショップに」

 工藤に気負うところは何も無い。ただ純粋に、ファミコンショップを目指すのだ。そして、忘れられた切り込み口から、100円分の印刷物が出続けてるのも気にせず、伊藤と工藤の二人は、ようやくに壁の呪縛から解き放たれる。

「工藤。いいのかい? 印刷物がまだ出続けてるよ」

「いいのよ、どうせ、ろくな情報は書かれていないわ。どうせ、残りのファミコンソフトの本数が出てくるんだけど、だからなにって感じよ。リアルタイムに刻々と変化するデジタル数字ならまだしも、印刷された紙の数字にそんなもん期待できやしないし。それにさ、壁が私と伊藤を試す時間は、とっくに終わったはずよ。私と伊藤は、認められたのよ。ファミコンソフトを出し尽くし、世界の終わらせるに、ぴったりの人材ってね」

「また、勝手にズンズンと前に進むな。愛戦士ニコルだって、突然切り込む谷底を気にしい、気にしい進むのさ」

 伊藤と工藤は、歩を進めた。ただの下校のはずが、立ちはだかる壁に、行く手を遮られて、学校と往来を強いられる。ようやく、壁を乗り越えたと思いきや、伊藤と工藤に、もはや安息の場所は存在しないのだ。

「私の家。そして、私の家から、ちょっと行ったところ、ものの数分だけど、テグザーみたく、ちょっと飛び上がれば、飛行機に変身できれば数十秒の距離だし、ソルスティス 三次元迷宮の狂獣の世界観みたく、微妙に2Dと3Dの要素が入り組み、行く手を阻むようなら、いつもよりも時間がかかるわ」

「さらに僕と工藤を足止めさせそうな人物が登場したよ」

「え? あ、お母さん」

 工藤の家、ちなみに一軒家の二階のベランダに現れたのは、工藤の実のお母さんだ。工藤と目元がよく似ていて、一緒に街を歩いているなら、誰しも母娘と疑わないだろう。

「工藤のお母さんは、なにやた挙動不審だ。特に目がつくのが、歩行のたどたどしさ。失礼ながら、聞かせてもらうが、工藤のお母さん、足腰、悪いの?」

「いいえ、全然元気よ。ただお母さん、今、シュミレーションゲームにはまってるのよ」

「シュミレーションゲーム?」

「ええ。今、お母さんSD戦国武将烈伝に夢中だから、1ターンごとに決められた範囲しか動けないのよ。だから、多少、動きにお見苦しいところがあるのは致し方ないわ。この前まで、フリップルにはまってたらしく、無闇矢鱈にモノを投げつけてたけどね。お父さんを消そうとして、お父さんを投げつけようとしたけど、お父さんは、あいにく二人いないから、諦めたようだけどさ」

「あ、急にしゃがみこんで、足払いしたかと思うと、ナイフでも投げる真似をした」

「スパルタンX2の影響じゃないかな~。お母さん、スパルタンXに続編があるって知らなかったのよ。今更見つけて、だから今更やりこんだわけで」

「工藤のお母さん、すぐにゲームに影響されるんだね」

「影響されるくらいじゃないと、ゲームをやる価値なんてないわよ。見なさいよ」

 工藤の視線は、もうベランダでコミカルな動きをするお母さんになかった。工藤の悩ましげな両眼が向いた先には、そこそこ広いグラウンドが広がっていた。

「野球やってるね、それがどうしたの工藤」

「よく見てご覧なさいよ。ちなみに、このスポーツ公園の名称は、ジャンピンキッド ジャックと豆の木ものがたり公園よ。ジャンピンキッド ジャックと豆の木ものがたりの発売を記念して、宣伝含みで、このスポーツ公園のネーミングライツを買ったのよ」

「へえ~。なんとも嘘くさい話で、実際、嘘だろうけど、まあいいや。で野球やってる少年たちがなに?」

「この野球少年たちは、ひどくファミコン野球に影響されてるの」

「なんだって?」

「みて、ご覧なさいよ。あの打席に入ってた子。ちょうど三振したけどさ。なにか、満足げにぶつぶついってるでしょ?」

「ほんとだ。三振してもどこか爽やかだ」

「あれは、三振しても打撃内容に満足したことからの笑顔。なぜそれがわかるっていうと、あの子の唇の動きを読心術するのよ」

 工藤も伊藤も読心術の心得はないが、ハッキリとした短い口の動きくらいは理解できる。

「あ! 71点とつぶやいたように思える!」

「そうよ。今の打席結果を点数化してるのよ。燃えプロ!’90 感動編の影響よ!」

「あ、日本初の採点機能つき野球ゲーム! 野球は明確に結果が出るスポーツなのに、カラオケみたいなしょうーもない採点してどうするんだっていう気もしないでないけどさ」

 採点結果をつぶやく子どもが打席から去ると、また次の子どもが打席に入る。初球、その子どもは、当てただけのファウルを放つ。するとどうだファウルを打つやいなや、打席の子どもは、ありえないほどうなだれて、投手と捕手のバッテリーは、勝ちを確信したように、無邪気に喜んでいるのではないか。

「どういうことだ、それにファウルをしたあとの捕手の動き! 敬遠するかのように、立ち上がった。まさか、あれは明らかに、燃えろ!!プロ野球独自のルール! ファウルを打った後は、どんなボール球もストライクなるルールで行われているのか!」

「そのとおりよ、さすが伊藤ね」

「まさか! 燃えろ!!プロ野球にルールの影響を受ける子どもがいるとは! これじゃあファウルを打つことは、アウトに等しいのではないか!」

 それでも子どもは、飛びついて敬遠気味のボールに食らいついていく。だが、どうしたことか打った子どもは、走らない。

「ど、どうして!」

「ベースボールの影響よ。かわいそうにベースボール、ファミコン野球の元祖だけどさ、あれに影響されると、打つ投げるはこなせるけれど、守備と走塁は完全オートと思っちゃう子どもが生まれるのよ」

「まさか……ベースボールで野球を覚えたとすると、セリーグのチームしか知らない子どもの可能性が高い。それこそエモやんの10倍プロ野球の悪夢の再来じゃないか! セリーグ編と銘打ってパ・リーグ編の発売を匂わせておきながら、ゲームシステム自体があれすぎてパ・リーグ編の制作が宙に浮いたいわくつきのゲームの!」

 新たに打席に入った子どもは、果敢に初球を打ちにく。それもそのはずめちゃくちゃなストライクゾーン相手にするには、初球攻撃しかないのだ。

「あ、結構、パワーある! 外野にとんだぞ!」

 レフトの子どもが前に出てくる、ライナー性の打球に関わらず、レフトの子どもは、小器用に、この打球を処理するのであるが、なんと、このレフトの子ども、打球の勢いに負けて、10メートルほど後ずさりするのではないか。

「あ! 後ずさりした!! まさか、あの打者の子ども、超人ウルトラベースボールに影響されて、ミサイル打法でも会得したの??」

「そんなわけないでしょうよ。そんな打法をマスターできるわけがない。むしろ影響受けたのレフトの子どもの方よ」

「ああ。なるほど、時代劇の殺陣は、切られ役の方が熟達した技術が必要なように、あのレフトの子どもが、後ずさりを過剰に演出することによって、超人ウルトラベースボールを再現してるわけか」

「ところで、攻守交替、攻撃側は守備につくはずだけど、一人ぽつんと攻撃にも守備にも参加しない子どもがいるけど、どうしたの? 燃えろ!!プロ野球'88 決定版のバイオリズム機能に悪影響受けて、今日体調優れないから、僕休ませてもらうと、ただの草野球にも満たない遊びを放棄したのかい?」

「違うのよ、あの子は、ベストプレープロ野球の影響を受けたのよ。つまり、一人監督気分なわけよ」

「まさか! それじゃあ、グラウンドに散る友人たちを、こいつ選球眼Dとか安定度Eとか、特に制球やスピードに優れた特徴がないけれど、なんとなく抑えちゃうから技術Aでバランスとっておくかみたいに、勝手に査定してるの?」

「ええそうよ。しかも、彼、ベストプレープロ野球スペシャルから入った口よ。ベストプレープロ野球スペシャルといえば、有名な初期不良の作品よ。選手データ閲覧画面で、選手の入れ替えすると、名前だけ入れ替わって、成績が入れ替わらないっていうとんでもないバグが生じた作品よ。選手の名前、データ、エディット自由だけでなく、成績さえいじれちゃう自由度のあきれるほどの高さがうりの作品だったのに、さすがに、ゲームの肝である成績いじれるのは、まずいとスペシャルじゃ、成績エディットを自粛した途端にこれよ」

「知ってる、初期不良騒ぎがあったことを。でも、当時はもうスーパーファミコンの時代。ファミコンの地味めなゲームの初期不良なんて、たいして話題にはならなかったよね。おかげで、初期不良と知らずに、泣く泣くゲームをしてたユーザもいるらしいよ」

「うん、だから、ベストプレープロ野球シリーズの最高傑作は、ベストプレープロ野球’90といわれてるわ。ベストプレープロ野球Ⅱは、元祖で消化不良だった、投手のスタミナがどれも同じだったとか、パ・リーグでプレイするのが、一種の裏技だったりした、どうみてもかしな面を消化させて、新データみたく、データの入れ替えだけで終わらせなかったの。さらに、90では……。あら、ごめん、たいして進化なわったわよ。自由にエディットできるくせに、たいした進化もなく、データ入れ替えの作品作るとはね」

「といいつつ、工藤からは、ベストプレープロ野球に対する情熱を感じる」

「まさか、私が見てるだけの野球ゲームやるわけないでしょうが。私は、バトルベースボール派よ。現実の野球選手もどきより、SDヒーローの野球のがいいわ」

「本当かなあ。まあいいや、ところで、あの子たち、将来、甲子園とか夢あるのかなあ」

「そうよ、甲子園に出て、甲子園のデータに入る。これが、野球少年の僥倖よ」

「甲子園? あれ、たしかに、88年の夏の甲子園出場校49校のデータが入った思い切った野球ゲームだったけどさ。当時高校三年で88年の甲子園に出場した現中日の谷繁は、たにしげとして、高校生にして、もう野球ゲームに登場するなんて偉業を達成したんだよね。よくプロ入りの時に、ファミコンに名前が出るような選手になりたいと抱負を述べる選手がいるけど、谷繁は、プロ入り前にあっさりと到達してたんだよね」

「ええそうよ。甲子園のこだわりは、後発の究極ハリキリ甲子園もかなわないわ」

「甲子園か……」

「なに、伊藤。悩ましげな顔してさ」

「いやもう、夏は訪れないと思うとね」

「訪れないかもね。だって、今日、この地球の歴史が閉じてもおかしくないのだもんね」

 伊藤と工藤の目の前に広がるスポーツ公園には、相変わらず、楽しそうな子どもたちの笑い声が響いてる。

「向こうでは、サッカーやってるわ。ファミコンの初代サッカーに影響されたのかしら」

「いやキャプテン翼でしょ。だって自由の象徴であるサッカーの割に指示待ち族ぽいよ。キャプテン翼に影響されたならしょうがない。いちいちプレイを止めらせて、シュートするかどうかの指示を待ってる」

「漫画やアニメのキャプテン翼に影響されるならまだしも、ファミコンのキャプテン翼に影響されるのはまずいわよね」

「ああ。水島新司の大甲子園もキャプテン翼Ⅱ スーパーストライカーと同じようなシステムだけど、あのコマンド選択方式に影響されたスポーツプレイヤーの末路ときたらさ、大変悲惨なもので。だって指示があれば、こなせるけど、自分で考えることができないプレーヤーに大成はないよ」

「そうそう、だから、もし将来、私に子どもができたら、自分で考える能力を磨かせるために、日本一の名監督でもやらせるわ。永遠に監督をし続ける呪いにかかった悲しげなバックグラウンド持つゲームだけどね。あとゴルファーの母親もいいかな。ならパットパットゴルフをやらせるわ。いかいにもみみっちいゲームだけど、300メートル飛ばすのも一打なら、数メートル転がすパットも同じ一打。一打の大切を知らしめるためのパットゲームよ」 

「僕は、キックアンドランでもやらせるかな、ヒットエンドランみたいだけど、サッカーゲーム。ウィナーズカップ、これも競馬ゲームと見せかけてサッカーゲーム。ダイナマイトボウル。なんとなくアメフトゲーム? と錯覚させて、その実、ボウリングゲーム。そう言われてみると、近所の寂れたボウリング場みたいに思えてくるから不思議」

「子どもか……、伊藤と私に、子どもなんてできるかなあ」

「できるんじゃないの」

「どうして? もう今日にでも世の中は終わろうとしているのに、どうして、清純な高校生である僕と工藤に子どもができる?」

「できる。妖怪倶楽部が、燃えプロ大人気の時に、足りなくなったロムカセットの替りになったみたいにさ」

「誰の子どもだろうね」

「伊藤の子どもも私の子どもも似ていたりして。ビックリマンワールド 激闘聖戦士の戦闘シーンがドラクエと瓜二つ見たくさ」

「仕方ないことさ。いいものの模倣するのは。僕の子どもは、どうせ優等生、僕に似て。そんな子どもを見て、羨ましがる工藤が、僕と似たような子どもを育ててもおかしかないよ」

「そうね。私は、バイナリィランドみたいな恋愛がしたっかの。障害があっても乗り越えて、結実するみたいなさ」

 伊藤は、工藤の気持ちがわからない鈍感な心の持ち主なのか、それとも全てを理解して、はぐらかせているのか。伊藤と工藤の思いが、もし結ばれるなら、その結婚式、誰が工藤の横に座るのか。それは、ベランダにコミカルな動きを見せていた母親のはずなのであるが。

「お母さん」

「どうした工藤。スポーツ公園ウォッチングに飽きたの?」

「そうじゃないわ。お母さんが倒れてるのよ」

 ベランダで今の今まで、コミカルな動きを見せていたはずの工藤のお母さんがいつのまにか絶命している。

「ええ~ ちょっち待てよ! はやく助けなきゃ~」

「……覚悟の上なんでしょ」

「覚悟の上……そうか、僕と工藤は覚悟の上でファミコンソフトを語り尽くしてるんだ。ゴルゴ13 第一章 神々の黄昏といった次の瞬間、工藤が息絶えるかもしれないし、ゴルゴ13 第二章 イカロスの謎と言い放った瞬間、僕が死ぬかもしれないんだ」

「そうよ、覚悟の上で動いてるのよ。ナイトガンダム物語は、ガンダム+西洋風RPGなんて、安易で売れ線狙いすぎって思われるのわかって制作してるのよ。やっぱりそこそこ当たったからナイトガンダム物語2やら3まで出しちゃう商売根性、見習わなきゃねえ」

「根性、執念は、肉親の死も振り返らないか」

「なにが引き金? 人、一人を殺す殺傷能力しかもたないソフトは、何? スポーツ公園に顔を向けてる最中に飛び出したどのファミコンソフトが、私のお母さんを殺めたの? 犯人探しをしたい気持ちもあるけど仕方がないわ。私と伊藤は、前を向かなきゃいけないの」

「トップストライカーかめざせ!トッププロ グリーンに賭ける夢あたりじゃないの?」

「そんなスポーツファミコンソフト飛び出してないわよ。きっとゴルフグランドスラムのせいよ! もう!」

 工藤は強がっているが、明らかに母親の死に動揺していることは、伊藤にも強くわかっている。それでお前に進むしかない伊藤と工藤は、過去を振り返らない。

「行こうよ」

「ああ……」

 伊藤は、工藤のお母さんに別れの一瞥をして、工藤の家の前をあとにした。

 工藤は、振り返りもしない。なぜなら、流した涙を伊藤に見せたくない強がりの一心からだった。


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