バッキーオヘア
切り込み口から流れてくる白い紙は、けたたましい印刷の音をお供にする。
「何が僕と伊藤の目の前に現れるだろうか。僕の想像するところだと、おそらく覇邪の封印に付属する布製の地図ではないことはたしかで……残りのファミコンソフトの数を大きく書き出すのは当たり前すぎて、Jリーグファイティングサッカーに収録されたオリジナルのJリーグ10チームを当時から物心がつくものがいえるくらいに当たり前すぎる」
伊藤は、早る気持ちを押えきれないように、奪い取るがごとく紙をもぎ取る。
「えっと何々~ 時は西暦3200年。 地球ではバイオテクノロジーの発達で人間の平均寿命が180歳にもなっていた。 人口制限法令も効き目が無く、地球上の人口はどんどん増え続けていく…… もう地球上に人類が住める場所を見つけることは限界だった ……ってなにこの大胆不敵な筋書き、パルサーの光のストーリーじゃないのよ。こんなもの何の役に立ててばいいのよ」
「反面教師だよ。今の世の中と真逆じゃないか」
「そうだけどさ、この筋書きの何を教訓にすればいいのよ」
「う~ん、やりすぎはよくないってこと」
「そうか、ファミコン話もそこそこにしないとね」
「それは違う。極めるべきことは極める。これこそ人道。というかまた流れてきた」
伊藤は、パルサーの光の筋書きが書かれた紙を投げ捨てると、新しい希望を見出すように、また流れてくる紙をもぎ取った。
「ロボットテクノロジーの発達によって登場した汎用多足歩行型作業機械「レイバー(Labor)」は急速に発展・普及し、軍事・民生を問わずあらゆる分野で使用されるようになった。……またなんか誇大妄想的なあらすじだなあ。ファミコンらしいよ」
「って伊藤、大丈夫? 前言撤回しなくてさ、それ機動警察パトレイバーのすじよ。大ヒットアニメ・漫画の筋を誇大妄想だの荒削りだのってファンにどやされるわよ。あ、あと、魔神英雄伝ワタル外伝の悪口も辞めてね。安易にいドラクエタイプでゲーム化ですか? とかさゲーム性を叩くのはまだしも、キャラやストーリー自体に振れるのは、私と伊藤の著しいイメージダウンにつながるわ」
「え……これパトレイバーなんだ、かの有名な……有名だけど僕は、あまり詳しくないけれど」
「もう、危ない橋をすぐ渡ろうとするのだから。前も咎めたでしょ? リトルマーメードって人魚姫なのに、いつのまにかディズニーのオリジナルキャラみたいだねと伊藤がいうから、私は、ディズニーの悪口だけは辞めてと全力で止めたはずよ」
「そうだっけ? まあいいや。僕はバッキーオヘアみたいなキャラ設定はどうにも認めたくないほどの、アメリカキャラに違和感あるのは、正直な気持ちだけどさ。キャッ党忍伝てやんでえみたいなタツノコプロ制作のキャラに親近感をおもえるべきであると思うんだ」
「あらタツノコプロの創始者でもある吉田竜夫は、伊藤の嫌いなアメリカナイズされたキャラセンスと思うけれどね」
「そうなの? 和洋折衷は肌に合うけど、洋もの単品は受け付けないたちなのかな」
伊藤は、白い紙に書かれた情報が、自分にはまるで必要ないと断罪するかのように丸めて破り捨てると、新たに印字される紙を待った。
「えりな もう おきなよ」
「なにそれ? 私のどこが、えりなよ」
「がんばって しらべなきゃ」
「なんであなたが私を上から見るのよ」
「めかにっくに いってみよう」
「はい? 伊藤、ファミコンソフトに溺れすぎて頭がどうにかしちゃったの?」
「つぎは つきだね」
「伊藤は、いつラッパーになったのよ。韻を踏むのは今時、ラッパーくらいよ」
「せっけいしゃ さがさなきゃ」
「伊藤の設計者ってご両親? ご健在だろうけど、この次々人が消えるおかしな世の中、生きてらっしゃらないかもね」
「めもの ばしょにいくよ……ってさあ工藤、早くつっこんでよ、分かってるでしょ? 僕が読み上げてるのが、メタルフレームサイバスターのパスワードであることをさ」
「まあいいじゃないのよ。地球の終りだからといって余裕がないのはダメよ。余裕を持って生きようよ」
「余裕ねえ……おっと、また紙が流れ落ちてきたわ」
「あらすじにパスワード、今度は何が印字されることか」
「楽しみにしちゃだめ。メジャーリーグのタイトルに引かれて、本邦初の大リーグゲームか、あるいは映画に忠実な、それこそ大仁田の登場曲がバンバンかかって、ワイルドシング登場のするゲームを期待させておいて、なぜか当時定番の実名をもじった日本のプロ野球チームで、球団水増しして、なんだよ、大リーグのチームがちょっとしかないじゃないかよ、それもこっちも実名じゃないしって、まあアイレムだしと思うが吉であってね」
「あらあんた、アイレムバカにすると、重力装甲メタルストームの惑星ギガデスに反乱起こされるわよ」
「けっこう、けっこう……よし、僕がもぎ取る! 僕が拝見する! 僕のなけなしの100円だからと……」
「あら! 三桁の数字よ! 今度こそ、残りのファミコンソフトを知らせる印字よ」
「……工藤が、横からチラ見で僕に先んじることもなかろうよ」
「ごめん、ごめん、で……肝心の数字よ、数字よ! 013!! 13ってこと? ちょっと待ってよ 13ってありえないわ!」
「僕と工藤の他の第三者がファミコンソフトを無駄に消化させて、400弱あると思われたファミコンソフトの塗りつぶしが行われていない数が、一気に13本まで減ったっていうこと? STED 遺跡惑星の野望がどうのとか、この2010年の時代に語るマヌケな暇人が、この世の中のどこかに他にいるってこと? 嘘だ、信じられない。」
「そんなはずはないわ。第一、壁のランプの未点灯は、さっきからかわらず400弱の勢力を保っているわ。昭和の遺物みたいにおもわれがちなゾイド、ええ、RPGだかシュミレーションだか忘れがちになるゾイドやらゾイド2やらゾイド黙示録で完結したとおもわれがちなゾイドが、今でも地道に一定の勢力を保つように、400弱の未点灯のランプは、意固地に明かりを灯さず保っているわ」
「じゃあ13ってのはなんだよ、意味ありげな数だけどさ」
「ラビリンスよ」
「ラビリンス? ああラビリンスの制限時間13時間の13? ……そうかな、なにか、ものすごくコジツケのような、麻雀とブロック崩しをムリヤリ組み合わせたジャンボウみたくな納得のしなささだよ」
「じゃあ13ってなんなのよ」
「意味なんてないんだよ。適当な数を印字させて、僕らの連想力を試しただけだよ。挑戦状さ、一種の」
「挑戦状? 誰から」
「仮にMとしよう、Mからの挑戦状……。というかさ、壁だよ、壁、壁、頭文字がMなわけない、この壁が僕と工藤に挑戦状を叩き込んだわけさ」
「壁に意思はあるの?」
「分からない。壁に意思があるのか、それとも壁を操る誰かの意思通りに壁は動いているのか」
「操るって誰が? なんのために? スーパースタープロレスリングは、梶原一騎のプロレススーパースター列伝のオマージュなの? なんのためにオマージュ?」
「プロレス世代じゃないからよくわからないよ。それはそうと、壁は僕と工藤を試している。僕と工藤のファミコンにかける情熱を。僕と工藤は、世界滅亡の命運を担うに値するのかを」
「いやあね、プロレス世代とファミコン世代は、世代の端と端でかぶるといわれてるのよ。リッキーのサソリ固め~」
「それタッグチームプロレスリングで得た知識だからさ。実際にリッキーなんてレスラーいないから。長州力はいるけどさ」