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挨拶に代えて


「わかったわ、私は、伊藤のわからない誰かをオーバーホライゾンと呼ぶことにするわ」

「いけしゃあしゃあと僕が指し示したコードネームとまるで違った呼び方をする君は、とても素敵だ。だからこそ僕は、君を断罪する! 断罪するために、扉の向こう側に、僕は行かなければならない。これは使命だ、宿命だ」

 伊藤は、ふたたびドアノブに手をかけた。ゆっくりと正常な呼吸のペースくらいに、おだやかにドアノブを回した。

 そして、急ぐでもなく、扉を引くと、それまでの苦闘がなんだったかといいたくなるほど、扉はあっさりと開かれた。

「工藤は観念した。僕が扉の向こう側に行くことを。そして、僕が、コードネーム”スーパーボーイ・アラン”に遭遇することを許可したに同じ」

 伊藤は、せせこましく、ファミコンソフトを消費したのだが、工藤はそれに言及することなく、時間は流れていく。この際、どうでもいいのだ、誰かの呼び名なんて。誰かは、伊藤の目の前に姿を現すのだから。

「僕の見た世界。数分ぶりにみた工藤の姿。そして初めてみる、僕と工藤の関係に亀裂を生じさせた張本人を」

 伊藤の見た扉の向こう側の世界は、見慣れた風景だった。

「慣れた風景、見慣れた空。それも当然、突然、大きな壁が、僕と工藤の前に立ちはだかったが、壁がなければ、普段の通り道。見飽きた木々の影から、僕が飛び出して、工藤が指鉄砲で、バーン。ロウ・オブ・ザ・ウエストごっこをしたり、木の枝を拾って、舗装漏れしたでこぼこに、石を転がして、ミニパット遊びをした地面。すべては、ただの通り道だった。壁が、僕と伊藤を分かつように、立ちはだかる今日の午後までは……」

 伊藤は、扉を開閉して、初めて工藤の顔を見た。それまでは、勿体つけるかのように、工藤を凝視することを避けていたからだ。

「工藤も同じ。当然そうだ。たったの数分の間に人の顔なんて変わるわけがない。おもいっきり探偵団 覇悪怒組がじゃあまん探偵団 魔隣組 に装い新たに初めたって、変わるわけがない。どっちにしろ石ノ森章太郎原作、フジテレビ制作、日曜の朝、小学生が遅い目覚めをするその時間に、脚本家である浦沢義雄のくだらないギャグが炸裂すると同じ。わずかな時間の経過は、わずかな変化しか及ぼさない」

「こんにちわ、伊藤……っていうのも変ね。だって、私は、先に壁の向こう側に来ただけ。なにも改めて、挨拶する必要性もなかったかしらね」

「いや、工藤は、違った世界に先に来ていたんだ。だから、僕をエスコートする必要がある。来客に、丁重な挨拶はいるものさ」

「そう、そうね」

「ところで、僕は工藤だけでなく、見たくないものも見なきゃいけないはずだった。でも僕の視界には、工藤しかいない。それは何故か?」

「謎よね。謎はつきものよ、人生には。ゴーストバスターズが、幽霊に怯え隠れて、階段の上をただ目指すのと同じ良。謎よ、謎。ファミコンは幼児がやるものと決めつけて、デフォルメファイナルファイトであるマイティファイナルファイトを出したカプコンみたく、謎なの」

「僕は分かっていた。釣りゲームなるジャンルが発展性があることを。だから、いくらショボイグラフィックと呆れられても、ザ・ブラックバスを世に出す意味はあった。だからといってザ・ブラックバスⅡになっても、進化がないことに腹がたつんだ。あとザはいらねーだろと思うんだ。ザ・ブルーマリンといい釣りゲームはどうして、ザをつけたがる? もしもあいうえお順に並ぶゲームショップがあるとしたら。ブラッグバスと記憶していたユーザは、迷いたどり着かないじゃないか。釣りゲームを買い求めるのは、ライトなユーザに相場は決まってる。ライトなユーザは、一度探しつかれたら、二度とさgさない。サンサーラナーガのパッケージイラストみて親近感を覚えるヘビーなユーザばかりじゃないからね。わざわざかっこつけてザにこだわって、大切なユーザを失うことにならないのだろうか?」

「何がいいたいのか、あいかわらずファミコンに埋まらせてぼやかせるけど、何がいいたいのか、よくわかるわ。誰かの喪失でしょ?」

「喪失じゃない。誰かは最初からいなかったんだ」

「……。そんなわけないわ。あれでしょ。伊藤がむやみやたらにファミコンソフトを消費するから、誰かは、この世から消えてしまったのよ。」

「アーバンチャンピオンみたいに_?」

「ええ。アーバンチャンピオンみたく、マンホールに転げ落ちたのみっともなくね」

「必殺道場破りの主人公の蹴りでも食らったかい?」

「そうそう。転げ落ちたのよ。協力者の消えた私は、伊藤の扉の開閉の邪魔を諦めて、伊藤を通すことにしたのよ」

「マンホール? どこにマンホールがある?」

 見渡す限り、伊藤の言うとおりマンホールらしきものはない。

「マグマックスのロボットが地下の敵を倒すといって、潜ったときに、一般人が間違って入ってこないように、マンホールごと消し飛ばしたのよ」

「わずか数分の間に? 誰かは、ザ・トライアスロンに出走中のアイアンマンにぶつかってマンホールに落ちて、それを都合よく地下の敵を倒しにマンホールを使用した地底大陸オルドーラがマンホールごと消し去っていったって? そんな目まぐるしい動きが、わずか数分の間に巻き起こるとでもいうの?」

「それじゃあ伊藤は、私一人の力で、伊藤の扉の開閉を阻止したとでもおっしゃるの? ファミコンソフト詰め合わせをぶん投げたとおっしゃるの? この呆れるほど高くそびえ立つ壁を乗り越える遠投力があるとでもおっしゃるの?

RPGブームに乗じて、ピンボールクエストなんて、クエストつけてりゃいいだろって時代の空気感を許容できるとおっしゃるの?」

「うん。すべては工藤の自作自演だよ。スパイVSスパイのように、壁を起点に二分割した世界は、工藤の演技をアカデミー賞クラスにさせた」


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