高校生が複数プレイ
「何の意味もないんだよ。6枚のソフトには、なんの関係性もない。ただ僕を惑わし、足止めをするための罠。名探偵ホームズ 霧のロンドン殺人事件やシャーロックホームズ 伯爵令嬢誘拐事件の理不尽な推理に耐え忍んだ僕は、これしきの引掛けにはかからないんだ。同じトーワチキのホームズゲームなのだから、タイトルはきれいに統一しろよ!」
伊藤は、ロムカセットとディスカード、説明書を箱に戻し、いっそのこと投げつけようと思ったが、すんでのところで思い踏みとどまった。
「そして分かったことがある。工と共謀する誰かは、いや誰かもファミコンに興味を持った、つまり、僕と工藤の同士であること。そうでなきゃ、こんな凝ったファミコンソフト詰め合わせを用意して投げれるものか」
伊藤は、壁の向こう側の工藤に話しかける。
「どう工藤? 僕の推理は当たってるだろう? 君は、いつ、いかにして、ファミコンに詳しい誰かと出会ったんだ? 今の僕は、ちょっと好戦的かも知れないし、ちょっと年上にたとえば大学生あたりに年を誤魔化したい時に、幼少時代何の戦隊モノを見ていた? っての問いに、僕が生まれるちょっと前に放送された鳥人戦隊ジェットマンを見ていたとか、適時答えられる融通性はないかもしれないし、平成天才バカボン見ていましたよ。バカボンシリーズは、誰しも通る道ですが、平成天才バカボンを見たかわいそうな世代は昭和末期の生まれくらいですよとこれまた誤魔化しに誤魔化しを重ねれる度胸もないかもしれない。だけど、僕は、工藤を弾劾する! 工藤、君と誰かは、僕をどうして貶めようとする?! 僕に飽きた工藤は、新たなるファミコン好きに乗り換えた。だから、僕を壁の向こう側に追いやって、工藤と誰かの二人だけの世界を作ろうとしているでしょう?」
伊藤は、見えもしないのを承知の上に、工藤に向かってまっすぐと指先を向ける。伊藤はその気だ。
「どうだ、工藤。なにもいえないだろう? 僕を捨てて、誰かの元に走るなら、それはそれでいい。ファミコンにロボット登場と大々的に宣伝しつつ、ジャイロセットやブロックセットで撤退した苦い過去を消し去るみたく、さっきしたプロポーズは忘れてくれ」
「意味のないプロポーズをする奴なんて、なんか疑わしいわねえ」
「そうだろうよ、そうだろうよ。僕は疑いの人だ」
「すねなくていいじゃない」
「銀河の三人は、文字通り三人がかりで宇宙に挑むRPG。だが、僕と工藤と誰かは、なんて表現すべきか。壁のこっち側に僕が一人。向こう側に工藤と誰かが二人。別れ別れの3人が、や4人対戦の変なパズルのWitsや少々まっとうなキングオブキングスやガンヘッドの爽快感やシャッフルファイトをどうして楽しめる? モノポリーやCAPCOMバルセロナ92なんて8人対戦だよ? オリンピックゲームはコナミなる印象があるためか、ご丁寧にカプコンを頭につけてるけどさ。対戦と言いつつ、実際は、仲好し小好しが仲むつまじくやるもの。それが心がバラバラの三人がどうして楽しめる? ファミコンで複数プレイやるのは、ジョイペアが必要。もしなければ備え付けの二つのコントローラーを皆で共有せねばならないんだ。つまり、回し回しだ。それなのに、3人の心がバラバラならどうして、コントローラーを使い回せる?」
「伊藤がⅠコン、私と伊藤が知らない誰かがⅡコンを使い回せば、それで見事解決よ」
「う! 痛いところをつかれたなあ。2対1で僕は孤立するんだ。いいよ、いいよ、ふん」
「あらまた拗ねた。興味なくプロポーズした失態を悔いたはずなのに、私を取られて嫉妬の炎を燃やしてる?」
「ふん」
「悪かったわ、伊藤。悪かったと心から謝るわ。伊藤のまだ見ぬ誰かと一緒にね」
「ちょっとまってくれ。僕は、誰かの胸くそが悪くなるほど一定しない鼻息しか認識していない! 一言も発せない誰かが、扉越しでどうして謝れる?」
「それもそうねえ。よし伊藤の知らない誰か……って言い辛いから、仮の名前を中嶋悟F1ヒーローにちなんで、なぜちなむかっていうと、この伊藤の見知らぬ誰か、F1サーカスと大きく印字された柄のTシャツを着てるのよ。かといってF1と呼ぶのもサーカスと呼ぶのも、転じて隠れた名作サーカスチェリーと呼ぶのもはばかれるから、F1つながりで、中嶋悟F1ヒーロー2にむりやりつなげるわ、なぜ急に2が出てきたかっていうとムリヤリよ、2を消化するために無理やりなの。で謎の人物をヒーローと呼ぶのもなんだし、中嶋悟と呼ぶことにするわ……あらあらあららら、中嶋悟と呼ぶのもへんねえ。かといってジャンボ尾崎のホールインワンからジャンボと呼ぶのも尾崎将司と呼ぶのも変よ。謎の人物を固有の人名で呼ぶのは、なかがおかしいわよ。ねえ、どうすればいいの?」
「しらないよ、工藤。それこそ誰かと協議すればいい」
「コードネームを名付けられる張本人と協議するなんて変よ。それこそターミネーター2のゲーム化の舞台にファミコンを選ぶくらい変よ。最新技術を敷き詰めたターミネーター2をどうして、すでに前時代だったファミコンでする? シュワちゃんが聞いたら、怒って、ロボコップとロボコップ2のロムカセットを二本同時に蹴り潰しちゃうわよ」
「なら僕に呼び名を決めさせてくれ」
「伊藤が?」
「ああ。話を迅速に進めるには、コードネームを決定するしかないんだ。だから僕が決める。つべこべ言わせやしない。遊メイズ、遊メイズと僕は呼ぶから、君もそう呼べ」
「遊メイズ?」
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