嫉妬
よく漫画やアニメで、主人公がわざと視覚を絶つことで、とんでもない境地からの生還を果たすことがあるのだが、伊藤に目をつぶる必要性がどこにあるのだろうか。
「見えてきた」
視界を絶つことで見えるものが、暗闇以外にあるはずはないのであるが、伊藤はどうやら見えている気らしい。
「少年アシベのスガオ君は現西武の監督渡辺久信に似たことは当時からいわれていたことであるが、スガオ君のお父さん、つまりネパールに飛ばされて、アシベとスガオ君の交流をたった張本人であるが、彼は巨人の捕手山倉に似てると思われる」
日中の暗闇の中で見えたものは、扉の開閉とはまるで無関係だった。それでも伊藤はヘコタレない。
「いけない、いけない。僕が考えるべきことは、パロディウスだ!の明るく朗らなシューティングのコンセプトは、ツインビーとかぶりまくっているじゃないか。そもそも燃えろ! ツインビーなるタイトル付けは、燃えろ! ドラゴンのありきたりな踏襲なのであるが、後発のジャレコの燃えろ! シリーズが力づくで定番化してしまったために、第三作目は、燃えろの冠を外したのは、遠慮なのか、ジャレコと一緒にしないでくれとのコナミの意地なのか……。おっと違う、違う。ワギャンランドの定着度だよ。どらだけ売れたか僕は知る由はないが、2やら3を出すほどの魅力的なキャラだったかどうかは、スーパーファミコンに舞台を移して二作でその役目を終えたことからも伺える。いわゆる次世代機でやるほどのゲームじゃないが、もしもワギャンが受け入れられていたら、ナムコはしつこく展開しただろう。人気キャラのデットゾーンをさまよい、結局、定番キャラのSPOTにはまらずに、第二のナムコの看板キャラというドリームマスターのGOAL!!に到達せず、コンシューマーゲームのビジネスウォーズの表舞台から退場して、やや懐かしいキャラクタゲームのたいむゾーンに落ちたわけだ。哀愁、哀悼、哀願。僕は、ワギャンになんて声をかけていいかわからない」
瞑想しながらも、いつもどおり迷走の妄想をする伊藤であるが、さらに伊藤は、瞑想の禁も自ら破る。
ファミコンソフトをムリヤリ重ねて、勝手なワギャンランド論を語り尽くした伊藤は、ちらちらと壁のランプに眼をやるのだ。どうやら意図どおりのランプ数がついたか気になるらしい。
「……。おかしいな……ランプの点灯数が3つほど足りない、ファミコンソフトと認識されてないのか。仕方ない、補足するか。同じファミコンソフトを語るのは、時間の無駄なんだけど……。えっと、SPOTってのは、テトリス成金になったBPSが世に出したパズルゲームで、GOAL!! ってのは、あのジャレコが、しぶとく出したこれまた奇妙な角度のサッカーゲームで、えっと、ビジネスウォーズってのは、その名のとおりのまあそのお高いゲームで、値段分のセレブなゲーム時間をユーザにもたらしてくれるかといえば、非常に微妙で……。お、ついた3つもぽんと! 文脈に飛び出た言葉か、ファミコンソフトの名前か審議のランプから、ファミコンソフトであると確定のランプだ! よし、この調子で都合よくファミコンソフトを消費していこう! って僕は何、道を間違いたんだろうか。そうだ、僕は、工藤に告白をするんだった。扉の向こうであいたがらない、工藤! 僕と爆笑!愛の劇場を送ってくれないか」
なにをどう間違えたのか、伊藤は興味のないはずの工藤にプロポーズをしてしまう。ファミコンソフトの固い絆に結ばれて、登下校をする仲であるが、伊藤にも工藤にも付き合っている意識なんて、さらさらないのだ。それが、段階を何段も飛び越してのプロポーズ。
「え? なに、急になに、いってるの? ねえ伊藤、どうして、私が伊藤なんかとせっかくの土曜日に外出もせずに川のぬし釣り、日曜には、ゲートイン 競馬必勝学で空虚な競馬予想。そして、伊藤と私の大切な日である結婚記念日に、桂正和くらいしか日本人に愛好者外装もないバットマンの一気解きをやらなけいけないの? そんな結婚生活はすぐに破綻するわ」
どうして急にプロポーズしたのか、伊藤もわからないのだから、答えようもない。それ以前に伊藤は、工藤を女とも見てもいないのだから。
「わからないよ、わからない。僕にもわからない。ただ競馬予想なら勝馬伝説を使用したいと思う」
「わからない? わからないの? わからないのにどうして、そんな突拍子もないことが言えるの? そんな伊藤との結婚の日々は、すぐに闘いの挽歌が流れかねないわ、つまり終わりなのよ」
「わからないんだ…」
思わず伊藤は、頭を抱える。だが、悩みは人を大きくするという。伊藤の悩みはなんだったろうか、それは、扉の向こう側に行くことだった。伊藤の工藤に対する奇妙な感情の落とし所に比べれば、扉の向こう側に行けない謎なんて、ちっぽけなものだ。
「そうか、そうだ! スーパースターフォース 時空暦の謎にスーパーゼビウス ガンプの謎もそうだ! 本格的なシューティングに半端なPPG要素はいらないんだよってことは、当時から重々承知だったけれど、扉の謎は、今、解けた! なぜ、か弱い女子高生である工藤が、僕との力比べに勝って、向こう側の世界を一人占め出来るかを。それはしごく単純なこと。扉の向こうで、ドアノブを握るものは、工藤だけじゃない。二人だ。おそらくもう一人の力を借りて、僕の扉の開閉を阻止してるんだ!」
「うふふ……。よく分かったわね」
「それで、誰なんだ。どうしてその誰かは工藤に協力をするんだ?」
「やだ、嫉妬してる? さくまあきらが一儲けして、チキショーオレもゲーム作るって虹のシルクロードをこさえた榎本……今何歳か知らないけどみたく」
「そうじうわけじゃないけどさ……」




