発想の転換
「押してダメなら……。おかしい、おかしいよ。ドラゴンボール 神龍の謎でなぜか、亀仙人の周りでギャルのパンティーがくるくる回るシーンをしつこいくらいにフューチャーするくらいにおかしいよ。僕の胸に刻まれる格言が通用しないなんて」
伊藤は扉を押してもダメ。かといって引いてもダメなら途方にくれるしかない。
「敷戸の可能性は根本からない。そういう形状じゃないからだ。どうみても引くか押すかで未知なる世界に僕を連れてく扉の形……」
「もう伊藤。いい加減にしてよ……。壁にダーツの的をかけて、マジックダーツごっこしちゃうよ?」
「え? それはよしてくれなんらかの拍子で扉が開いた瞬間、君の投げたダーツの矢が僕の額に命中なんて、必殺仕事人もびっくりの殺害方法だよ」
「というか伊藤。私がどうやって扉を開いたか見てなかった?」
「見てたよ、見てた。扉は引かれて開いたように記憶しているが、あいにく人間の記録なんてあてに出来るもんじゃないんだ。扉は引いて開けるものという固定観念に囚われているだけかもしれないんだ。」
「源平討魔伝をボードゲームで出したナムコの妙な思い切りの良さくらいの発想の転換が必要よ」
「発想の転換か……。ワールドカップサッカー、ワールドスーパーテニス、ワールドボクシングの三作が同じソフト会社のワールドなる定番スポーツシリーズと見せかけて、てんでバラバラの会社から出たと聞かされた時に覚えた脱力感こそ、発想の転換のヒント……」
「どう? 謎がとけた? 開かない扉の謎が。ソロモンの鍵2で必死こいて鍵を集めても、この扉は開きはしないんだから。というか、元々、鍵穴なんてないしね」 」
「解けたよ……。マーダークラブJ.B.ハロルドの事件簿のハロルド並の完璧な推理を披露して差し上げよう。解けるきっかけになったのは二つのヒント。ひとつ扉は立て付けが悪いはずはない。なぜなら、か弱い女子高生である君が楽々開けたし、なによりも今日、そびえ立った扉、そんな扉の立て付けが悪いとは考えられない。僕と工藤がファミコンソフトを上げると過敏に反応する精巧なランプが備わった最先端の壁の扉が手抜きのわけがない。そして二つ目は、工藤の声が妙に近く聞こえることだ。扉を開て向こう側にいったはずの工藤が壁に張り付くようにいるままの不自然さ……。なぜ壁にくっ付くようにいるかというと、工藤は、僕が扉を引こうとすると、力いっぱいに向こう側に引く、逆に、僕が押そうとすると、向こう側からこっち側に押し返す。つまりだ、開かない扉の謎は、工藤、君が扉の開閉の邪魔をしているからだ……」
「……。そうよ、よくわかったじゃないのよ、でもおかしいと思わない、か弱い女子高生である私が、男子高校生である伊藤の扉の開閉を邪魔する力があるって……」
「そうだ、僕はそれが引っかかったたんだ……。いくら僕が、平均的男子高校生の握力も背筋力もなく、パワーサッカーを実現できるパワーもなければ、聖剣サイコガリバーも引き抜けやしない。それでも、か弱い女子高生であり、プレデターを彷彿させる髪型をした工藤との力比べに負けるわけがない……!」
「何度もいうわよ、伊藤……。発想の転換が必要よ。それも思い切ったものがね。そうね、サンソフトがバンダイの縄張りというか、バンダイだけが張り切ってた印象のあるバーコード業界に乗り込んで、バーコードワールドの発売を決めたくらいの発想の転換が必要よ……」
「うむむむむ……転換? これ以上なにをすればいいんだよ。ドラゴンボールZ外伝を出したバンダイの気持ちだ! 漫画にもアニメにも使える題材がもうないのにゲームを出せっていわれても、なら外伝でも出しとけってくらいの思考回路の袋小路であり、大迷路なのに……」
伊藤はフェイントをかけて、押すと見せかけ、扉を引いたり、その逆を試してみたが、工藤がものの見事に呼応し、強行突破にはつながらない。
「クソ……。どうして、僕の考えを先読みする? 僕と工藤は相手の考えが読み取れるくらいの人間関係なのか?」
「そうよ、当然じゃないのよ。伊藤の考えることは手に取るように分かるの」
「なら僕も工藤の考えが分かるはずだ……。工藤がどうして扉の開閉を阻止できるのか、意思疎通のできる僕が分からないはずがないのに……。絵描衛門をいくら労力を重ねてもデザエモンと読めずにいる僕だけど、工藤の考えることは必ずわかるはずだ!!」
「うふふふ。早くわかってよ……。うふふふ。もはやカオスワールドなこの世の中、男子高校生と女子高生の間に奇妙な友情が咲いたっていいじゃないのよ。がんばれゴエモン外伝2 が、お年玉狙いに正月の3日に出たからって、目くじらたてないわよ」
「発想の転換……発想の転換……」
一転、伊藤は目を閉じて、瞑想しだした。
「瞑想して何が見えてくるわけじゃないけど、五感のうちのひとつである視覚を絶つことは、他の四感を研ぎ澄ますことにつながる!」
「どうしたの、伊藤? なんで急に静かになったの?」