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二人の行方

 伊藤と工藤には、待ても暮らせどコナミコマンドのご利益らしいご利益は舞い込まない。

「今、あまりにもコナミコマンド待ちで暇だから、僕の頭の中で脳内ボールブレイザーをやっているところ。よし! そこだ! シュートだ あ~外れたー」

「おめでたいことね。どうしょうもなく無駄な待ち時間もほどよく消化できるなんて」

「話しかけないでくれ。今、集中しているところだ。って~ あ~もう他のゲームにしよう……。よし、今度は、マッド・シティだ。ほれ撃て、やれ撃て……クソ、やられた。次は、100万$キッドだ。原作は某世紀末煽動漫画と同じ作者だ! ここに賭けるぞ! よし、こい、あ~」

「……脳内ギャンブルゲームってどんな風に贖いつけるのかしら……」

「ふう……。いい勝負だった、よっしゃ引き続き、ゲームパーティーだ。脳内ファミコンとはいえ、パーティーゲームを一人でやるのもなんだなあ……」

 伊藤が頼るべき人間は一人しかいない。言うまでもなく工藤がその人である。ただ工藤は承知の通り、ファミコンへの興味を失っている状態。しかも、脳内同士でゲームのやり取りをするなどという奇妙奇天烈なムチャぶりに工藤はついていくのだろうか。

「ねえ工藤。良かったら、君もゲームに参加しない?」

「……通信ケーブルもないのよ」

 工藤のツッコミは一見、正確無比でかつ端的に伊藤の行動の異常さを示しているようで、実は工藤自信も非常識の塊であると言い表しているようなものなのだ。

「そうか、通信ケーブルがなかったんだ」

「でしょ?」

 工藤はていよく伊藤を撥ねのけたつもりであるが、 もしこの場に通信ケーブルがあったとしても、ケーブルをつないで、脳内でゲームをやりあうことは土台無理なこと。

「それ以前にファミコンの基本概念に通信機能はないよ。ファミコンの多人数プレイは同じ画面を見つめながら、放射線状に伸びたコントローラーでプレイを共有することだ」

「そうね……。今の携帯型ゲームやネットを通じて遠隔対戦をする通信対戦とは、ファミコンは違う。ファミコンははあくまでも、同じ場所にいる人々が、一つのファミコンで同じ画面を共有しながら、ゲームを楽しむものよね。そこには通信ケーブルなんて必要ない」

「だろう? だから僕と工藤は通信ケーブルなしで脳内ゲームが楽しむことができるんだ」

 伊藤はずいぶんと発想の飛躍をする。

「さあ、僕と工藤で地底戦空バゾルダーをしよう。通信ケーブルなんて必要ない。ファミコンを愛する心さえあれば通じ合うはずだ」

「ってどうでもいいけどさっきとゲーム違うじゃないのよ。どうでもいいパーティーゲームからどうでもいいアクションゲームにすり変わっているわ。それにそんなゲームやりたくないわよ。アスミッくんランドならやってもいいわ。女の子向けのかわいらしいゲームだし」

「……今、工藤はなんていった? 自らファミコンのソフトをあげなかった? あれだけ毛嫌いしたファミコンソフトをどうして?」

「そんなことはどうでもいいことよ。さあ脳内アスミッくんランドやりましょうよ」

「せっかく君が乗ってきたところで申し訳ないが、大の男としてアスミッくんランドを楽しむことはできないな。それよりもコナミコマンドだよ、問題は。僕の時間つぶしはコナミコマンド待ちだったはずだ。あれだけ見事にコナミコマンドを再現してこれだけ待ち続けても、なんら変化もない。未来を描いたジェットソンと古代を描いたフリントストーンって結局どっちも同じじゃないかって文句をつけたいくらいに変化がない。そりゃ変化しすぎるのも困りものだよ。ドラゴンバスターがドラゴンバスターⅡになって横スクロールから俯瞰型スクロールになり果てるほどの変化は困るけどさ。もしかして神様はコナミコマンドを再現した僕のことを笑っているかもしれない。変化がないってオチかもじゃないかな」

「魍魎戦記MADARAみたくコナミコマンドがないと見せかけて、下、下、上、上、左、右、左、右、A、Bと意地悪ごころを働かせたいわけじゃない。ただ何も起きない」

「悪魔城すぺしゃる ぼくドラキュラくんと同じギミックね……。悪魔城伝説やドラキュラⅡでもできたから、ぼくドラでもできるはずと思わせておいて」

「何も起こらないか……あ~あ」

「うふふふ」

「工藤、どうした何がおかしい?」

「まだ伊藤は気づいていないのね」

「何が?」

「コナミコマンドのご利益は私に降りかかったことを」

「え?」

「だってあれだけファミコン話に飽きて、ファミコンソフトの名前を出すのも嫌悪感があった私が、気づいたら、平気でファミコンソフトの名前を出すどころか」

「語っている……。あ……これがコナミコマンドのご利益か。神様は、、アフターバーナーをファミコンに忠実に再現したくらいのハッタリ含みの再現度であるコナミコマンドを忠実に再現した僕に報いてくれたのか」

「そうみたいね」

 伊藤はまっすぐに立ち上がった。

「なんだか希望が湧いてきた。今にも朽ちそうな世界で一人ぽつんと置いていかれると思ったけれど、工藤という格好の理解者であり、仲間が戻ってきてくれて」

「うふふふふ」

 工藤はひたすら含みのある笑い方をしている。伊藤は工藤がコナミコマンドにかこつけて、ファミコンの世界にすんなりと戻る理由付けにしたことに気づいているだろうか。

 コナミコマンドのご利益でもなんでもなく、ただ工藤の意思で、伊藤と共倒れになる結末を望んだことに。

「日が暮れる一方の世界がなんだか明るく見えてきたぞ~」

 それでも、伊藤にとって理由はなんでもいいのかもしれない。ただ工藤が戻ってきた事実が、伊藤にとって大切なことなのだろう。

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