コブラコマンド
あれからどれくらいの時が経ったのだろうか。伊藤はなにかバカバカしくなり歌をうたうことで時間をつぶす事を辞めたことにより、時間計測の役割を失したために、コナミコマンドをやり遂げた後、自分がどれだけ待たされているのかわからないでいる。
「まだかな」
「まだでしょうね」
工藤も工藤だ。伊藤に呆れ果て、ファミコン話に限界を感じた工藤であるが、伊藤に付き添いコナミコマンドのご利益を待ち続けている。永遠に待たされ続けるかもしれないのに工藤はどうして、伊藤とともにコナミコマンドの効果を待っているのだろう。
「いつまで待てばいいのだろう。あ~早く家に帰ってシャッフルバックカフェでもヤリたいよ。月曜日はフレンドパークのエアホッケー対決を指加えて見つつ、ファミコンで擬似エアホッケーするのが、僕の習わしなのに……」
「え、今日、月曜日だっけ?」
「え、違った? 朝、新聞のテレビ欄を眺めたら、水戸黄門が目に入ったから、てっきり月曜日だと思ってた」
「水戸黄門は、再放送で毎日……といっても月曜日から金曜日だけれど、私たちが学校に通う曜日には毎日やっていることは違いなく、伊藤が目にした水戸黄門が午後8時からやる本放送でなく、午後4時からやる再放送の可能性も捨てきれないわよ」
「なるほど」
「確かに、僕は時間確認を怠った。僕の脳裏で佇む水戸黄門は再放送か本放送か、調子に乗ってがんばれゴエモン2のまんまなのに、水戸黄門Ⅱ 世界漫遊記なるものを出してしまうわけだ。うふふふ。ていよく残っていたゴエモン二作目を処分できたぞ。あやうくファミコンソフト塗りつぶし大作戦の地雷くんになるところだった……ふう」
「というか伊藤。こうして、伊藤と取止めのない話をしていると、まるでビーバップハイスクールのようね。ビーバップハイスクールの末期は、高校生はこうして道端で邪魔くさくただしゃべってる話だったのよ」
「取止めのない? どこだよ。僕と工藤はファミコンソフト塗りつぶしという途方のない夢に向かって突っ走ってるのじゃないか。今だって工藤がビーバップハイスクールの名前を上げて、首尾よく潰してくれた」
「漫画のほうよ。イヤね……」
伊藤は気づいていた。工藤がコチラの方に帰りたがっていることを。ファミコン話だけではなく、伊藤すら嫌悪しかかっていた工藤が伊藤とコミュニケーションを取りたがっているからだ。
「漫画の方か……残念だ。しかし僕と工藤は離れたがっても離れならない運命にあるらしいね。89電脳九星占い byJingukanでもタロット占いでも、僕と工藤の相性はぴったりと出るんだ。ゲームだからといってあながちデタラメでもないようだね」
「そうなの、へえ~。伊藤との相性の良し悪しを深く追求するつもりはなし、それ以前に伊藤なんて興味もないし、水晶の龍の水晶で占った、伊藤との相性なんて信用できないわ」
「水晶の龍? 何を言ってるんだ工藤。水晶の龍はアドベンチャーゲームだぞ。水晶で占うゲームじゃない。それ以前に、もう飽きたファミコンをどうして会話に混ぜてかかる?」
「興味がなくなった事柄を話に混ぜて、何がいけないのかしら? 飽き飽きしてファミコンのファの字も出したくない感情の起伏を経て、飽きたファミコンも会話のスパイスに入れ込んで、話の幅を広げる、過去にこだわらない余裕なレベルに自分を上げたということよ」
「ふ~ん」
「それよりもコブラコマンドよ。コブラコマンドのご利益は何かしらね??」
「コブラコマンド? コナミコマンドでしょ?? わざと?? それとも勘違い? 工藤はどうして毛嫌いするファミコンソフトと混同した? コナミコマンドをコブラコマンドと取り違えることは話の幅を広げることにも繋がらない! パックマンとパックランドを混同して、子どもに頼まれたパックランドではなくパックマンを買ってきてしまったお母さんとは違う! いかにも最先端のように見えて半月で古くなるパックランドではなく永遠に語り継がれるパックマンこそ子どもに買い与えてしかるべきゲームだったんだ! バトルフォーミラとバトルフリートを買い間違えるのは致命的だけど。だってF1ゲームと海上シュミレーションだよ」
「で? 手っ取り早くコナミコマンドの効力出してよ」
「出してよと言われてもねえ。こればっかりは僕だけの力じゃどうしようもない」
「もう早く帰らないとファンタジーゾーンやる暇なくなるじゃないの」
「ファンタジーゾーン? ほらやっぱり君は今でもファミコンの虜だ!」
「ファミコン? 誰がファミコンのファンタジーゾーンをやるかしら。セガマークⅢよ! ファミコンとはデキが違うわよ」
伊藤は確かに感じ取っていた。工藤がこちらの世界に戻ってくる感触を!
「そうか、そうか、セガかセガ……。サラダの国のトマト姫も映像の出来が違うパソコンでやった方が幸せだとおもう。でもやっぱりファミコンなんだよ。みんなが持ってるっていう安心感が子どもの心を独りにしない……」
「……そうかしら? チップとデールの大作戦2を1993年の年末にやってる子どもはなにかしらの寂寥感は感じてたはずよ。チップとデールの大作戦は1990年発売でいまだファミコン健在なりの時期だけど」
伊藤はもう一押しで工藤が再び伊藤と同じ世界の住民になることを確信したが、ゴリ押しはしない。
「ファミコン末期だからしょうがないよ。逆にスーパーファミコンに完全に移行した末期にあえてファミコンをやることでなにかしらの感情を会得できたかもしれないじゃないか」
「独りにしないことがファミコンの醍醐味と語ったクセに適当よね」
「それよりもコナミコマンドだよ。僕がコナミコマンドを忠実に再現してから、どれだけの時間がたったのだろうか。マグナム危機一髪 エンパイアシティ1931の銃口を脳天に向けられて、なかなか発射に至らない気分だ」