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深まる闇と亀裂


「どうしてだ、どうして工藤は急にファミコンに対しての興味を失った?」

「なんとなくの一語ですませてよろしいかしら?」

「なんとなく?……」

「なんとなくじゃいけないかしら。人間の心理なんてそういうものよ。ダックテイルズ2みたいに、いきなり2になるのよ。わんぱくダック夢冒険の続編と気づかせずに、いきなり2になるのよ。1から順序立てて2になるわけじゃない。私の心理も一緒なの。いきなり2、つまり飽きるにつながったのよ、いけないかしら?」

「そういいつつ、君は今もファミコンソフトにまぜこぜにして、僕に説明したじゃないか」

「わざとよ」

「わざと?」

「ええ、わざとファミコンソフトを混ぜたの。どうムリヤリにファミコンソフトを入れたから、私の真意がぼやけて、伊藤に伝わりづらかったでしょ?」

「う……」

 図星とばかりに、伊藤は口を窄める。

「飽きたのよ、こういうのにね。まともなストレートな会話がしたいと思ってね……」

「まとも? 13日の金曜日を変にリアルにせずに、ファミコンの容量に合わせて、コミカル風味に仕立てたスプラッターハウスの製作者くらいにまともな感性の持ち主のはずだ、僕も君も!」

「いいからコナミコマンドを完成に向けたら? せっかくBまでいった後もう一歩の状況なのだから」

「う……まあいい、いざこざの後始末は後回しにして、とりあえず最後のAの処理に取り掛かろう。A列車で行こう……だっけ……まあなんでもいいAがつけば……えい! A列車で行こう!!」

 伊藤はやたら目っぽうに空に向かって叫んだ。薄暗がりの空は伊藤の言霊を優しく受け止める。

「終わった。コナミコマンドの再現は終わった。まるでグリーンベレーのように滞りなく任務を遂行した」

 伊藤はただひたすら待った。何かが起きることを。

 工藤はひたすらに待ちくたびれた。あくびを噛み殺し飽きたファミコン話の最後を見守るために。

 ただ時は伊藤と工藤に何ら変化をもたらすことなく残酷に過ぎていく。

「何も起きない」

「何も起きないね」

「方法に手段にどこかに間違いがあったのか」

「そうかもしれないわね」

「もう一度やり直すべきかな?」

「勝手になさいよ」

「かってにシロクマと言うのなら勝手にする」

「それは漫画の方のかってにシロクマかしら?」

「ファミコンの方に決まってるじゃないか」

「漫画の方なら、いくらでも語ってもいいのに。かってにシロクマが4コマ漫画に及ぼした影響とかならいくらでも語れるのに」

「僕は、不条理漫画の成り立ちには至って興味がないんだよ」

「あら残念ねえ」

「無関心過ぎる。ドラクエの発売日だってのに、魔界村を選んだ当時のゲームユーザーのようだ。当時の売り上げ一位が魔界村なんだ、ドラクエじゃなくてさ……」

「そう」

「そうって……もっと喜ばしい反応を見せてくれないか」

「どこの女子高生が25年も前のゲームの売上に興味を抱くのかしら」

「ダーティペアがもたらしたオリジナルアニメへの影響を語る女子高生よりはましだと思う。超時空要塞マクロスを見て、なにこの変な女が歌ってるだけのアニメと思うよりはましだと思う」

「そうやってわざと間違えて、無駄にゲームを消費させる……。ファミコンに飽きたよりも、伊藤に飽きたのが正解かもしれないわ。己の欲望と野望の赴くまま物事を進めていこうとする姿勢が、私を伊藤から乖離させるのかもしれないわね」

「ダウボーイのようにコツコツと話を積み上げてるつもりの僕に、なんたるや暴言! いったいいつ僕が強引に物事を進めた?」

「……どうでもいいわ。なにか伊藤にもファミコンにもね」

「……。それでもコナミコマンドの件は見届けてくれるんだね?」

「行きかけた駄賃よ」

「そうか……。コナミコマンドのご利益はいつ僕と工藤に舞い落ちてくるのだろうか。その時まで、僕はファミコンウォーズの歌を歌い続けることにしようか」

 伊藤はむっくりと立ち上がると、軍歌を嬉しそうに歌い上げる酔っぱらいの親父にように、右手を振り振り歌い始める。

「ファミコンウォーズが出~たぞ。こいつはドえらいシュミレーション!♪~」

 薄暗がりの中、妙なほど朗らかに歌い上げる伊藤と、薄暗がりのそのまま、伊藤を冷たい眼で見つめる工藤のコントラストは、世紀末にこそ相応しい。 

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