伊藤と工藤の亀裂
上、上、下、下、右、左、右、左まで辿りつけたはいいが、最後にそびえるB、Aの高い壁にはばかれた伊藤は、途方にくれている。
「ねえ工藤。B、Aに対する最善の対処法を思いついたかい? 仮面ライダーBLACKのBを声高に叫ぶことも許されず、Armored Scrum Objectこと、地上、空中を2Dで見せつけるゼビウスタイプのシューティングゲームの特に決定版とも言えないASOならなんとかできるけど、Aは分からないよ」
「B-WINGはどうかしら?」
「B-WING? なるほど、仮面ライダー倶楽部じゃなかった……えっと仮面ライダーSDでもなかった、えっと、なんだけって、もういいや……とにかく頭文字がBだ。よしBーWINGと声高に叫ぶぞ!」
勢いはすこぶるよろしいが、悲しいが伊藤の快進撃はここまで。伊藤ははたまた、複雑怪奇な運命の糸に絡まれる。
「BーWING……って叫ぶだけでいいの? 今まで体を酷使して事を進めてきたのに、B、Aの偉大なる締めの二文字は言霊に替えて、動きは省略っていかがなものなのか」
「気にしなくてもいいわよ。妖精物語ロッドランドの長老は、伊藤にそんなことを口添えした?」
「いいやしてないさ。ならBーWINGと叫ぶことでコナミコマンドのラスト一つ前にかえる。BーWING! よし叫んだぞ。それじゃ、最後はAだ」
「エイリアンシンドロームかエイセス・アイアンリーグ3のどちらでもお好きな方でどうぞ」
「むむむ、最後は究極の二択か。どっちのゲームにもまったくの思いれがない僕だけれど。あえてエイリアンシンドロームを選ぶぞ」
「その心は?」
「特にないと今言ったじゃないか。どうした工藤、君は集中力に欠けるきらいがあるぞ。まるで燃えるお兄さんn原作者の佐藤正のように、物事をきっちりと収められない」
「しょうがないじゃないの。たまに飽きるんだもの」
「飽きる? 何を?」
「こうして伊藤とファミコン話を延々としていることよ」
「そんなバカな。僕と工藤は頭の先からつま先までどっぷりとファミコンに染まった今時珍しいというか絶対いない高校生だぞ。そんな工藤がファミコン話に対して飽きを感じるわけがない。ダービースタリオンが当たりすぎて、ゲーム制作に熱意が消え失せた薗部じゃないのだから。君はいつまでもファミコンに囚われの身のはずだ」
「そうでもないわよ。ブームで終ることもあるわよ。光GENJIローラーパニックと謳いつつも、民衆は光GENJIにもローラースケートにも冷めたわ。それと同じよ。私だって、いつまでもファミコンを自分の中心に置いておかないわ」
この時、初めて、伊藤は工藤との微妙な温度差を感じることになる。
「ま、まさか」
まるで自分ひとりが奇妙な世界に置き去りにされたかのように、伊藤は不安げな表情を浮かべる。伊藤が心地よくファミコンの世界に浸れるのも、工藤のような良き理解者はいるからだ。もし工藤が伊藤を見捨て、ファミコンに何ら関心のない世界へと身を投げたなら、伊藤のアイデンティティは崩壊することは当然として、根品的な精神世界までにも被害が及ぶ可能性がある。それだけ伊藤にとっては、工藤の存在が大きいのだ。
「そ、そんなはずは……、トム・クルーズに何一つ触れずに、トップガンを純粋なるコクピットシューティングゲームとしてゲーム化したような気分だよ。二作目のデュアルファイターズでも確信犯的に映画と無関係な第一作目を踏襲したんだ……」
「だから何? なんでもファミコンで例えるのいい加減にしない?」
「何だい急に……ラストハルマゲドン近づく世界の終焉に君は、何を風向きを変える? いまさら、ぱられるワールドに逃げ込むつもりかい? この世の中は、百の世界の物語じゃすまないんだよ」
「私は悲しいわ。今、伊藤がしれっと3つのファミコンソフトを消化したことが分かることを。ムリヤリにタイトルを絡めるから、今の伊藤の気持ちを正確に、私に伝え入れないことを。もう辞めない? 無駄にファミコン話をするのは?」
「いったいどうしたんだい……!」
工藤はたまらなく冷めた眼をしている。伊藤は、そんな工藤の眼を直視できずに下を向いて問いかける。
「僕は不安だ。世の中が終わろうとしているのに、こんなつまらない不安に身悶えするのはバカバカしと思うけれど……!」