挙動不審
「でも僕と工藤は、どうやってコナミコマンドを再現すればいいんだよ? まさかゲームを起動して打ち込めなんて野暮なことじゃないよな?」
「なわけないじゃないのよ。おそらく上にいけばいいのよ。下にいけばいいのよ」
「は? 上に行く? 下に行く? どういうことだよ。右と左にいけはわかるけど、上と下にどうやって進めばいいんだよ。19と書いてヌイーゼンと読ませるほど不可能に近い」
「上は飛ぶんじゃないの? よくわからないけど」
「じゃあ下はかがんでみればいいのかい? なにかそれでいいのかと疑問符が列になって現れるよ。解決ヤンチャ丸の二作目どころか三作目まで出す勇気、それもファミコン末期に、くらいに疑問だよ」
「つべこべ言わずにやってみなさいよ」
「仕方ないな……」
伊藤は渋々飛んでみた。
「イメージはロストワード・オブ・ジェニーで犬に追いかけれるジェニーがひらりとかわすところだ」
伊藤は腰に腕をやりながら、遠慮気味に飛んでみたのであるが、当然のごとくなんら手応えがない。
「上上だから、二度繰り返すのよ?」
「もう一度飛ぶのかい?」
「ああもう躊躇しちゃだめ。コナミコマンドはテンポの良さが大事。もう一度、一度目のジャンプからお願い」
「また一度目のジャンプをさせる気? 仕方ないな。それじゃ今度は別のイメージを抱こうか。モンティのドキドキ大脱走のモンティが無実の罪を証明するために、えんやこらさっとはしごに飛び移るさまをイメージしようか」
伊藤は確かな未来を胸に抱き、一回目のジャンプを失敗ジャンプと位置づけるように大股で飛んだ。
「よしこれだ。引き続きは、アタックアニマル学園のようにスカートをなびかせるように飛ぶぞ~」
二度目のジャンプも一度目と見た目には違いない。それでも伊藤がイメージするところが違うならそれはそれで認めるべきではないか。
「で伊藤。次はしゃがむのよ」
「イメージはカルノフで禿頭のデブマッチョ親父が窓から出てくるドラゴンの攻撃をしゃがんでかわすところだ」
伊藤はずいぶん勢いよくしゃかんだ。体育座りのように指と指を組み合わせると、伊藤は恍惚の笑みを浮かべた。
「ようしまたしゃがむぞ……てゆうか、もうしゃがんでいるぞ。エイト・アイズの主人公が巨人の振り回す剣をよけるようにしゃがむのを思い浮かべて、僕はさらにしゃがむ!」
伊藤はただでさえ、地面につきそうだったおしりを砂塵に晒してまでも、より深く沈み込んだ。
「よしこれで、上上下下完了! これで次は右左右左と動くぞ! 腰を落としたまま左右に動くのは、ほんの少しだけ難儀だけどしょうがない。ようし! ブービーキッズのようにせせこましく左右に動いてやるぞ」
おしりを地面につけたまま動くのはずいぶんと労力が必要であるが、伊藤は難なくこなす。右におしりをするように動くと、一息入れてから、また右におしりをするように動かす。
「よし、次は左だ!今度のイメージするところは……」
「伊藤、どうでもいいけど、あなたは何かをイメージしないと身動きも取れないの? テンポが大事と口が酸っぱくなるほど繰り返しているのに」
「いいじゃないか。僕の勝手だ。日常ありふれた動作なら、イメージを働かせることなく動けるけど、上上下下右左右左なんて、イメージなしでできるものか」
独自理論のはずなのに、伊藤はずいぶん毅然と言い切るものだ。どこに自信の泉があるのだろうか。
「勝手にしなさい」
「勝手にする」
伊藤はおしりをこすりつけながら左に動きをとる。
「ふう~バナナン王子の大冒険の王子にバナナをごちそうになりたいくらいに疲れが押しよせてきたな~」
一息入れて、また伊藤はおしりをこすりつけながら左に動く。右に二度、左に二度動いたなら、元の位置に戻るはずなのだが、どうして伊藤はしゃがみこんだ位置よりも、若干、向かって左の向きに位置している。等分に動きができず、4度の動きのどこかで、よけいな距離移動をしたのだろう。
それでも伊藤は細かい動きには囚われない。微妙な距離移動の差異はおかまいなしに、締めの動作に取り掛かる。
「よっしゃ、B、Aだ」
「B、A?」
「B、Aってどうすりゃいいんだ?」