コナミコマンド
「大冒険か……」
伊藤はわざと眼差しを遠くして、余韻があるようにつぶやいた。
「大冒険する時間の余裕もないかもね」
「ああ。大冒険したくとも、わざか残された地球時間のおいて、けろけろけろっぴの大冒険どころか、タマ&フレンズ 3丁目大冒険くらいが関の山さ」
「私にはどっちの大冒険が小冒険なのかはよく分からないけど、まあ3丁目舞台にするのは、冒険というか、探訪くらいかしらねってのは分かるわ」
「冒険しようとも、僕と工藤の前には大きな壁がそびえ立てるじゃないか。何も揶揄とか比喩じゃない。僕と工藤は確かに、大きな壁に遮られて、右往左往し続けている」
ムダ話は伊藤と工藤を再び、壁の前に立ち尽くさせる。
「ファミコンショップに辿りくつく前に、また壁と面してしまったな」
「うん。そしてファミコンソフトを語るたびに明かりが灯るランプは、順調にその数を増やし続けているわ」
伊藤と工藤が初めて壁にぶち当たったときには、寝室の蛍光灯程度の光量だった、壁付きランプが、伊藤と工藤の仕業により、夕暮れを感じさせないほどの光量に達している。
伊藤と工藤の町が必要以上に明るくなるということは、地球の滅亡が近づいていることに等しい。
「町は明るくなった。まるでツインビーの彩り鮮やかな世界観くらいにね」
「でもそれと反比例するように、世界中はなんだか暗くなっている。当たり前ね、世界中で人々が息を引き取っているのだから、明かりをつける人もいなくなる。まるで悪魔城ドラキュラのように陰鬱な世界観を築いている」
「どちらもコナミ。それでいて陰と陽の見事なコントラストだ」
「コナミか。伊藤がコナミの名前を出したのは偶然か、それとも意図的なことか、私は問い詰めることはしないけれど」
「ああ、メッセージボードでしょう?」
壁に流れるメッセージボードは誰に見られることもなく、半永久的に流れ続けている。ただ伊藤と工藤が目配りしたことで、メッセージボードが役割を持ったかというとそれは否。メッセージボードは見られることに意味があるわけではない。流れることに意味があるのだ。
「上、上、下、下」
「右、左、右、左、B、A」
「コナミコマンドね。グラディウスならのっけからフル装備」
「グラディウスの実質的続編の沙羅曼蛇でもフルパワー。魂斗羅なら残機数がありえないほどに増える」
「スーパー魂斗羅も残念ながら同上」
「T.M.N.T.も同じく残機が増える。ちなみにT.M.N.T.2 ザ マンハッタンプロジェクトの前編で、いわゆる亀忍者のゲームよ。亀忍者なんて、忍者にいらぬ幻影を持つアメリカ人しか好まないわよ、たく」
「なにかしらね、コツコツと積み上げていくのがゲームの醍醐味なはずなのに、どうして人は頼り切るのかしらね」
「ゲームは難しい、それでも楽しみたい」
「楽しみたいけれど、難易度がハードルになるから、裏技の力を借りてでもってわけね」
「悪ことじゃないと思う。ゲームの楽しみ方なんて人それぞれさ」
「でもグラディウスⅡなんて、コナミコマンドなしじゃ自機が鈍すぎて、コナミコマンドで速くしないとやってられないわてことかしら」
「早打ちスーパー囲碁が好まれる時代。皆忙しかったのさ」
「……囲碁のスピード化なんて求めちゃいないじゃないのかしら。囲碁指南やら囲碁名鑑やら囲碁 九路盤対局やら囲碁指南’91やら囲碁指南’92やら囲碁指南’93やらファミコン囲碁入門のような本格的な囲碁を求めてるはずよ」
「一気に来たね」
「何が?」
「しらばっくれるならいいよ、追求はしない」
「そう。ところでメッセージボードは私と伊藤に何を伝えたいのかしらね」
「意味のないものはないか……」
「そうよ。だからメッセージボードの流れるコナミコマンドにも意味があるはずよ」
「でもどうすればいいだい、僕と工藤は? そして何が起きる? コナミワイワイワールドみたくコナミのオールスターが登場なんてのはやめてくれよ。僕は月風魔伝のフウマに合わせる顔もないし、和風なのにカタカナ名に違和感あるし、グーニーズのマイキーみたいな背の低い外国人はどうも苦手だ。グーニーズはタイアップ作品にしては名作だと思うけれどね。ただグーニーズ2みたく、同じ相手が懲りずに主人公を仕返しするのはどうかと思うけれど」
「未来なんて分からないから、試しがいがあるんじゃないの」