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タイトー


 世界の終り方を知る伊藤と工藤も気負うこともない。ただひたすらにいつものような日常を送ろうとした。壁に塞がれた二人は、帰宅を早々と諦めて、帰る道を逆順することに決めたのだ。

 工藤と伊藤に永遠はもはやない。ファミコンソフトの名前をすべて上げきった瞬間、おそらく世界の終りとともに、人生の終幕が訪れるのだから。

「工藤はどう思う? タイトーグランプリ 栄光へのライセンス。タイトーチェイスH.Q。タイトーバスケットボール。といった一連のタイトルソフトに自社名をつけるタイトーの勇気に」

「どうってあたしは若干的外れに思うの。タイトーのそれほどのブランド力があるかって話よ。ナムコクラシック。ナムコクラッシクII。ナムコット 麻雀III マージャン天国。なる作品を出したナムコならまだ自社名をつけても許されると思うけど」

「工藤、君はタイトーを見くびっている。タイトーがどれほどゲーム業界に貢献したのか分からないんだ。スペースインベーダーを避けてゲームの歴史を語りきれるか。インベーダーを世の送り出したのはどこだと思っているんだ。インベーダーがなければ、ナムコのギャラクシアンもギャラガも存在し得ないんだぞ。地球を襲う侵入者を撃つ、これほど人々の正義感を素直に呼び起こせるゲームデザインがあるものか」

「過去の功績を認めるのは重要よ。だからといって、タイトーのブランド力がそこまであるかというと話ば別よ。タイトーの名前に引かれてゲームを買うか否かが重要なの」

「工藤、君は、アルカノイドを送り出したタイトーをそこまでいうのか。ブロック崩しだぞ、ブロック崩し」

「過去の栄光におんぶにだっこの印象は、新たなゲームユーザーに二の足を踏ませるわ」

「その印象を覆すような作品を送り出したじゃないか」

「六三四の剣のこと? サブタイトルがただいま修行中だってさ。バカにしてるわよ、なにか道半ばのゲームの印象が煮えきれない」

「違う、影の伝説だ! クールでかつデザインセンス溢れる秀作は、タイトーのイメージを一新して余りあるもの」

「だからといってたけしの挑戦状をだしたら、せっかくの好印象も台なしよ。難解なのはいいわ。だからといってゲームシステムの崩壊で解けないってはまずいわ。通行人をボコボコ殴るってなによ、カラオケを歌うってなによ、たけしが適当に並べたものを詰め込んだだけじゃないの」

「いやそれは違うぞ、工藤。言い返したいことはやまほどあるが、今事情は別。僕はタイトーのイメージアップを試みる。究極ハリキリスタジアムはどうなんだ。好評過ぎて88年度バージョンまで出たんだぞ。どうだ、選手データを入れ替えただけの楽な仕事が許されるのは、それなりに売れたスポーツゲームだけが許されたこと。いわば、ハリキリスタジアムは選ばれたゲームだ」

「肝心のゲームが、ファミリースタジアムそのままよ。またナムコのゲーム名で悪いけど」

「ハリスタ……実際、そう呼んでいた向きがあるかは知らないが、僕は親しみをこめてハリスタと呼ぶ。ハリスタはなあ。乱闘シーンが盛り込まれてるんだぞ。乱闘だぞ。乱闘、野球の華だ。それを見事再現してるいるのだから、ファンはたまったものじゃない」

「乱闘なんて一度見たら、もう結構よ。初めみたら、そりゃ興奮するかもしれないけど、二度目、三度目ならもううんざりよ。それを売りにするセンスがあたしはわからないってもんよ」

「くそ~。どうして僕がタイトーの肩を持ち、そして腹の虫を立てるのかよくわからないが、とにかくクソー。そうだ! アルカノイドIIだ! サブタイトルが、リベンジ オブ ドウだ! 1988年にリベンジだぞ! リベンジが流行語大賞に輝くのはその11年後の1999年。どうだこの時代の先を読む力」

「続編ってやれやれだわ。それにリベンジってタイトーが流行らせたら無条件降伏してやってもいいけどさ、流行らせたの松坂やKー1じゃないの。いずれも88年の世の中には影も形もないもの」

「くそー それなら、たけしの戦国風雲児はどうだ! たけしのゲームを続けざまに出したおかげで、たけしのゲームはタイトーにお任せの印象をユーザに強く印象させた」

「たけしの挑戦状がなぜか売れたから二作目の企画が通ったんでしょうね」

「なんだ、その冷めた目は。安直なゲームでなにが悪い。スゴロクゲームでなにの不都合か」

「スゴロクゲームで居直るなら、桃太郎電鉄くらいの浸透力が欲しいところよ。正月に合わせてスゴロクゲーム作りましたじゃあどうかしらの域を抜けきれないわ」

「むむむ、ならって、なにかタイトーばかりのゲームタイトルを出してるけどまあいい! これは切り札的存在といってもいい。独特なゲームシステム以上に印象に残るのは、そのゲームミュージック! エレベーターアクションだ! どうだ」

「……」

 伊藤の怒涛の攻勢がついに結実したか、工藤はなにも言えない。

「ふふふふふふ! ははははは! 高笑いを浮かべたくなる。どうだ、エレベータアクションの前にひれ伏したか。キャラが何体もだぶると、ファミコンの処理の限界でコマ送りの弾丸に僕はスローモーションを感じた!」

「エレベーターアクションの音楽性は認めるわ。某ドラマじゃ、この音楽を全編に使った短編作品があったほどよ。全編といっても前編じゃないわよ。ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者前編でも、後編でも、うしろに立つ少女前編でも、後編でもないわよ。あくまで全編よ」

「同音異義にかこつけて、作品タイトルの消費、しかも有名タイトルの名前を出しやがって、工藤、君ってやつは。でも君がタイトーの価値を認め直したのはこれ幸い」

「タイトーにいちゃもんばかりつけたけどなにもタイトーのソフト全てを嫌っているわけじゃないわ。ハレーウォーズには度肝を抜かれたし。かといってゲームシステムに膝末いたわけじゃないわ。発売のタイミングよ。ハレーウォーズなんてハレー彗星ブームにかこつけたタイトルつけのクセに、発売はなんと1989年よ。ハレー彗星騒ぎの1985年から4年もタイムラグがあったのよ。信じられる? ブームに対応するのには即時性が必須。それが4年の時を隔てる度胸がたまらないの」

「なんだい、認めているのか、バカにしているのか、歯にものがつまったようないいようは。奇々怪界 怒涛編だぞ、まったく」

「意味の通らない比喩にゲームタイトルを消費するのは辞めてよ。あなたの一言にどれだけの命が失われていると思っているの?」 

 そうなのだ。伊藤と工藤の止めどない会話の連続ですっかりと忘却の彼方であったが、地球と世界の運命は伊藤と工藤の手の内にあ

るのだ。二人がいたずらにゲームタイトルを口にするたびに、どこかの誰かが絶命の運命を辿っているのだ。

清々しいほどアクセス数がない

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