表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/69

未来なのか今なのか、それとも、もう終わったことなのか

「そうね、私たち二人は、席も離れていれば、部活も交友関係も重なることのない関係だった。クラスメイトでありながら赤の他人と言っても過言じゃないくらいその関係は希薄」

「それがひょんなことから」

「ええ、ありえないほどひょんなことだったわね」

「工藤と僕の間には濃密な時間が流れることになった」

「あれは、忘れもしない。4月28日のこと」

「1989年にフェアリーテイルとホーリーダイヴァーと競馬シュミレーション本命が発売された記念すべき日ね」

「何がおめでたくて、何が記念するか、とうてい分からないけど」

「もしも伊藤が4月28日の生まれで、親御さんから誕生日祝いに本日発売の新作ゲームソフトを買ってやると言われたら、その3本から何を選ぶ?」

 伊藤は迷わない。

「もちろんフェアリーテイルさ」

「あら、一心不乱に躊躇することんく答えを出したね」

「僕は、残念ながら競馬に興味ないし、発売元の日本物産にも信用おけないから、ハナから競馬シュミレーション本命は除外」

「ならフェアリーテイルとホーリーダイヴァーは、どうやって天秤をかけたの?」

「フェアリーテイルはディスクカードだろ? もしも僕の異に反するゲームだったとしても、書き換え用にもう一枚、ゲームを増やしたと思えば、損した気分にはならない」

「まあ。ゲームの質や好みを念頭においてのゲーム選びでなく一歩先を見た選択なのね、伊藤らしいというかなんていうか」

「僕のことをよく理解しないと言えないセリフだね、僕らしいとか、らしくないとか」

「そうね、密接な関係を築き上げる前は、伊藤が何を言っても、そこから伊藤の真意を探るなんてことは不可能だったけど、4月28日のあの日、私は伊藤の心を閉じる鍵を手にいれることができた」

「あれはしりとりだったよな。まだ打ち解けていないクラスを気にして先生がしりとりをゴールデンウィーク前のリクレーションとして持ってきた」

「私の前の席が、私に”ちゅ”で始まるように仕掛けてきた。だから私はためらうことなく言い放ったわ。中華大仙とね。すると流れ始めた微妙な空気、中華はわかるが中華大仙はわからない。中華大戦と脳内変換して中国で昔起きた戦争の名前? いやそんな戦争ないよ、工藤とかいう妙な女、何、意味不明なこと言ってるのかしらとクラス中に不穏な空気が流れ始めた頃、伊藤が助け舟を出してくれたのよね」

「そうそう、僕は思わず着席して叫んじゃったんだよ。工藤さん、あの時はまだ呼び捨てにできなかったのだけど、工藤さんは意味不明なことを叫んだんじゃないのです。中華大仙とはファミコンのソフト名ですって……」

「あの時、ほんと嬉しかったわ、救われた気分だったわ。あのままだと私は、2010 ストリートファイター。え? 2010ってもう今年じゃないのさ、よいやさって感じでクラスの主流から外れて、一年を闇の奥底で過ごすハメになるところだった。それが伊藤の一言で、私はファミコンのタイトル名をあげたことが証明できたわけよ」

「でも残念ながら、中華大仙は”ん”で終わるから、どっちにしろ伊藤は敗れざるしりとりとなったわけだけど。中国占星術と答えれば、”ん”がつかないことは当然、ファミコンソフトのタイトル名と悟られることなく、難を逃れたのにな」

「いいのよ、しりとりの勝敗だなんて。伊藤と私が同じ性癖の持ち主であることが分かったのだから。それはそうと2010年なのよね。知ってる? 鉄腕アトムはもう過去のお話なのよ? タイムツイストなんて近未来をうたっているけれど、1995年よ、もうスーパーファミコンも末期の次世代ゲームの黎明期の頃よ」

「でも亜空戦記ライジンは西暦2743年、銀河英雄伝説なんて西暦2801年とけっこう未来なんだよ?」

「あら700年後か。スーパースプリントで大暴走しても、700年後にはタイムスリップできなないわよね」

「それほそうと、あの時から僕と工藤との妙な関係が築き上げられた」

「アプローチ」したのは私の方だったわよね。休み時間に伊藤の机に行って」

「でも僕はその時トイレに行ってた」

「私はありがとうも告げることができないのがしゃくで、えりかと伊藤の机に大きく鉛筆書きで記したの。ファミコン好きと言っても、中華大仙を知ってたことはたまたまかもしれない。だから、私はあえて試してみたの、伊藤のことを」

「休み時間開けぎりぎりに戻った僕は驚いたね。えりかの3文字に。えりかと来たらさとる。えりかとさとるの夢冒険を連想するのは人として当然。だから、僕は誰もいない放課後に、工藤の机にさとると書いた」

「翌日、さとるの三文字を発見した私は、胸が張り裂けそうになったわ。やっぱり伊藤は私と同じ向きを向いた人間だったと。それからだわ。伊藤を赤の他人と見れなくなったのは」

「それでも僕と工藤は今のように親しげに喋れる間柄になるまでには、アニメ絵の代表みたいなヴィナス戦記をファミコンに再現しよとするムリヤリな手間暇くらいに時間を要した」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ