コナミ対ナムコ トップサードメイカーの意地と意地のぶつかり合い
「なにか用? あたしが気持ちよく塔の未来像を描いているところに」
「5階は僕のものにしてくれ。めぞん一刻と銘打つのはどうかな? 絶妙なアパートメント感を醸し出せる」
「ダメよ。5階もあたしのもの。5階は人々の足を止めるようななにか欲しいわ。そうよ、ソンソンとエグゼドエグゼスよ。ファミコン初期の限界を越えて、複数のキャラが画面に現れただけで処理落ちしちゃうフロアがいいわね」
工藤の思うがままの落書きを見つめているうちに、伊藤と工藤の距離は微妙な距離感から元の距離感に戻ろうとしてた。やはり、ファミコンソフトが出尽くさないうちは、二人が離れることはないのだろうか。
「6階もあたしのもの。6階は、無謀にもシリーズ化したも展示する博物館がいいわね。エキサイティングシリーズとかどう? コナミが世に繰り出したスポーツゲームの数々を晒しものにするのよ。エキサイティングベースボール。エキサイティングサッカー。エキサイティングラリー。エキサイティングビリヤード。エキサイティングバスケット。エキサイティングボクシング。人気競技をきっちりと網羅してる辺り抜かりないけれど、当時のコナミらしからぬ没個性のゲームの数々は、シリーズ化の意味を我々に問いたわ。ナムコのファミリーシリーズ。いうまでもなく、ファミリースタジアムを発端にした、ファミリーテニス。ファミリージョッキー。ファミリーサーキット、その続編の91。ファミリーピンボール。ファミリークイズ。ファミリーボクシング。ファミリーコンポーサー。ファミリーブロック。ファミリーテニス。ナムコをライバル視してたコナミとしたら対抗の意味もあったでしょうね。でもナムコのファミリーシリーズが作品ごとにナムコらしい個性を発揮したのに比べ、コナミのエキサイティングシリーズはどうかしら。コナミらしさがそこにあったかしら。後年コナミはコナミらしさを発揮して野球、サッカーゲームのトップブランドを形成しナムコを突き放すのだけど。それはそれで権利関係の強引さで、スポーツゲーム業界の沈滞化を招く事態になったのだけど、ファミコン以外にとんとの興味のない伊藤とあたしには意味のない世界のお話
「ねえ工藤。君はわざとでしょ? 僕のカリーンの剣並の鋭いツッコミを君は待っている」
「なんのことかしら」
「ファミリークイズとファミリーコンポーサーとファミリーブロックはファミリーシリーズである、◯か×。かさあどうだ。アメリカ横断ウルトラクイズの福留の耳につくダミ声が僕の胸に去来する」
「紛らわしいってのはいいわよね。便乗よ、便乗。ファミリークイズとブロックはアテナの仕業よ。でもアテナってボーリングは、ファミリー名義じゃなくて、チャンピオンシップで出してるの。チャンピオンシップボーリングどうかしらねえ。ボーリングこそガツガツ頂点にこだわるんじゃなくワイワイガヤガヤとファミリー名義でいけばいいものの。どうしたことでようかこの統一感のなさ」
「揺れ動くのさ、人の心ってやつは」
「今日の風のように?」
「風向きからすると、東風かな」
「統一感のなさならコナミにもいえるわ。エキサイティングシリーズのブランド化を諦めたのか、コナミックアイスホッケーよ。コナミックテニスよ。そしてコナミックスポーツインソウルよ。なんだか集大成だわ。なんだかソウルよ。ハイパーオリンピックでおなじみ、コナミの五輪便乗よ。公式的にタイアップしたかどうかはよく知らないけど、よく考えれば、ハイパーオリンピックといいつつ陸上だけなのはいかがなものかしら。まあそれはいいとして、コナミックシリーズも3作で打ち止め。そして、がんばれ! ペナントレースの出番と相成りました。がんばれ! ゴエモンにあやかったのか突然のスポーツゲームがんばれ化。これが後のパワプロに続くことで無駄の一作じゃなかったことは幸いだけど、あたしと」
「僕はファミコン以外にさして興味がない」
「そうよ、そうなのよ。でも、あたしたちってなにか変じゃない?」
「いまさらだよ。僕たちが少しだけ2010年の高校生の時間軸からずれてるから、今世界は大変なことになっている」
「うん。それはそうと、がんばれゴエモンの2と3って正月に出たの。正月はゴエモンで楽しんでほしいとの制作側の意図だろうけど、なにかよけいなお世話な感じがしない?」
「まあね、和風アクションと正月の整合性を主張したいのだろうけど、なにか強引な感は否めない。正月はやっぱりすごろクエストだよ」
「あなたの家はそうかもしれないけど、勝手に正月の定番にしてくれないでくれる? 正月はやぱりとびだせ大作戦やJJで、スペースハリアー気分を楽しむのが古来からの日本人よ」
「君は奇妙な正月を送り続けているんだな、なにか急に不憫になってきた。とびだせ大作戦で擬似3Dを味わうなんて。青と赤いチンケなメガネ越しで年越しだなんて。それでとびだしたのかい?」
「とびだすかそうじゃないかは問題じゃないのよ。ぺんぎんくんウォーズの勝者が誰であろうと、けっきょく南極大冒険、勝者はペンギンなのよ。それと同じよ」
工藤はペンをカバンにしまい、立ち上がった。どうやらもう落書きに飽きたらしい。工藤の視線ははるか先にあるゲームショップに向いている。
「工藤。塔というスケールなら6階で想像図を放棄するのはどうかな。塔にふさわしい高さならば最低50階は欲しい。6階程度の塔なんてスパルタンXの舞台だよ、まるで。セーブ機能もろくにない時代のアクションゲームのスケールじゃないか」
「スケールねえ。スケール……」
工藤の顔はいつにもまして悩ましい。工藤を恋愛対象としない伊藤も、胸のときめきを感じずにいられなかった。
「中山美穂のトキメキハイスクールの電話して以来の胸騒ぎはなんだろう……」