工藤さんの秩序も崩壊
「残る落ちモノパズルは、キャデラック。パズニックの2本か」
「今更だけど、スラスラと出る所が恐ろしいはね。伊藤」
「毎日24時間、ファミコンに思いを馳せているのだから、それも当然だよ」
「それはいいとして、謎は残るわ。このアタッシュケースの所有者、あの子どものかもしれないし、子どもの保護者のものかもしれない。とにかく分かることは、落ちモノパズル21本。テトリスが世に広まってから、ファミコンの世界がその役割を終えるまで約4年ほどの間に出た、お手軽気軽、アイデア一つで売れるかもしれないゲームができるかもしれないと、ファミコン末期に濫出した21本を同じ箱に収めようとする気概は買い。でも星をみるひとを、落ちモノパズルの海に投入するのはどうして?」
「落ちモノパズルにありがちなルールとしたら、20個の落ちモノパズルが揃って、さあ最後に降りそそぐのがまた落ちモノパズルであったとしたら、21個は大量得点の喜びの結晶とともに消失するはずだけど」
「それがどうしてラストワンに降りそそぐのが星をみるひとなの? テトリスとしたら、4段一気に消せる長い棒を待ちわびて、四角いブロックがいつまでも降りそそぐようなものよ」
伊藤と工藤はそれほど不鮮明でないにしろ、とっびきり明晰でもない頭をひねるが答えは出ない。このまま思考の袋小路にはまるのか。それとも伊藤か、工藤は偶然というヒラメキの元、どこかに隠れる真実という秘宝にありつけるのか。
「ファミコン初のバッテリーバックアップ森田将棋で鍛えに鍛えた頭脳も、この程度の境地を打破できないなんて」
「リセットボタンを押しながら電源を切るというけれど、どうして将棋ゲームがセーブ機能を搭載しようと思い立ったのかしら」
「そりゃ対局が長丁場になれば、忙しい現代人、後ろ髪を引かれる思いで対局途中で電源を切るはず。本将棋 内藤九段将棋秘伝やら谷川浩司の将棋指南Ⅱ 名人への道あたりじゃそれも顕著。ならば翌日に持ち越長期戦にすればいいとの製作者側の親切心からじゃないか。ところで、なんでいきなりⅡなの? 谷川さんの将棋ゲームはさ。一作目はどこでお披露目したかって話だよ。まあパソコンだろうとどこだろうと興味はないけれど、僕は、ファミコン以外のは興味がない。二作目が谷川浩司Ⅱ 詰め将棋で、なんだよⅡで統一と思わせて、次作はⅢと銘打って出る違和感。これはキングコングⅡがいきなり出たことに似ていると、続編シリーズモノ監視員はよくいうが、それは節穴。キングコングⅡは同名映画とのタイアップだから、いきなりⅡでも違和感はないんだ」
「色々長々自説を展開してたけど、突っ込むところは最初の方でごめんなさい。バカ、谷川のはディスクだからセーブできるわよ」
「あ、ほんと……。まあいいや、とにかくカセットを引っこ抜いて、また一から名人戦をやり直しじゃ張り詰めた緊張感も維持できないってわけだよ」
「カセットを引っこ抜く?……あ、そうよ! 今の伊藤の一言で思考の迷宮組曲が崩せそう!」
「どうした、工藤、デイジャブ 悪魔は本当にやってきたみたいな顔をして」
「いいヒントをありがとう、伊藤。星をみるひとをアタッシュケースに入れて持ち運んだってのが思考のミスリードだったのよ。バツ&テリー 魔境の鉄人レースのおそらくテリーの方の酷く哀れなリードくらいなミスリード」
「ミスリード? っていうかバツ&テリーは野球ゲームじゃないぜ。刑事モノのアクションだ。たしかに原作漫画は刑事モノと野球のちゃんぽんだけど」
「あれそう、まあそれはいいとして。アルマナの奇蹟以来の奇蹟が訪れたのよ、伊藤の何気ない一言で、思考の迷宮寺院ダババが解き明かされたのだから」
「もったいつけないでよ」
「星をみるひとは、アタッシュケースで運ばれたんじゃないの。最初からファミコン本体に差しっぱなしで運ばれてきたのよ」
「あ! そうか! それなら落ちモノパズルと関連性なしが説明できる!」
「だから21のケースの空きの2本は、キャデラックとパズニックの2本で決まりなのよ」
「なら残りの2本はどこにある?」
「21本の落ちモノパズルでアタッシュケースが埋まりきれないままじゃなんとも気持ちが落ち着かない。あたしたちで揃えるのよ」
「揃える? どうやって?」
「どうやって、中古ゲームショップに行くしかないでしょ」
「でも落ちモノパズルは、ファミコン末期のあだ花。供給不足で中古が出回っているかどうかは不明」
「それでも、行くしかないでしょよ。地球に残された時間はあとわずかなのよ」
工藤はアタッシュケースの鍵を閉めると、下げていたカバンに横付した。
「さあいくわよ、伊藤」
「って工藤、それあきらかに人のだよ……」