第一章 8 指名手配
粉砕した男たちの血が地面に広がり、空気に鉄臭い匂いが漂う。
私は震える手を見つめながら、ゆっくりと息を整えた。
「なんで……私、何をやっているの?」
男たちの意識が戻ることは二度とない。
私が奪った命、それは取り返しのつかない重さとなって私を押しつぶしている。
「違う、違う、違う、これは私のせいじゃない!紅葉の為だ!!間違ってない!!!」
それでも、紅葉を守るため――そう自分に言い聞かせるしかなかった。
「……仕方なかったよね……紅葉、分かってくれる……?分かってくれるよね…うん、ありがとう」
可愛い紅葉は私の事を信じてくれる。私の行いを肯定してくれる…正しいのだと
その場を後にして街の奥へ進むと、騒ぎに気づいた市場の人々がこちらを注視している。
「なんだあの女……血だらけじゃないか……!」
「赤い髪の子……まさか、噂の……?」
噂が広がるスピードは驚くほど速い。
背負った紅葉の赤い髪が、どうやら彼らの間で悪い噂の対象となっているらしい。
「まずい……早くここを出ないと……」
私は背中の紅葉を支え直し、宿に戻る道を急いだ。
しかし、その途中で数人の兵士らしき男たちに行く手を塞がれる。
「おい、その赤髪の子供を渡せ!」
「指名手配中の勇者に間違いない。そこお前!素直に従えば命までは奪わない」
私は冷や汗を流しながらもスキルの発動準備に入った。
「この子を……渡すわけにはいかない!」
そう言い放つと同時に、《水流操作》を発動させる。
地面から水が湧き上がり、勢いよく兵士たちを弾き飛ばした。
「くそっ、こいつ……ただ者じゃないぞ!」
兵士たちは剣を構えながら再び迫ってくる。
ここで人間を皆殺しにするのはリスクが高い。
紅葉を守るために、私はその場を逃げ切る決意をした。
どうにか兵士たちを振り切り、宿に戻ることができた。部屋の扉を閉め、紅葉をベッドに寝かせると、私はその場に崩れ落ちた。
「もう……無理……」
体は疲れ果て、頭は混乱しきっている。
それでも、紅葉を守らなければならないという意識だけが私を動かしていた。
その時、頭の中にまたシステムの通知が響いた。
《幻想スキル《精霊の囁き》を取得しました》
「……精霊の囁き?」
私は半信半疑でスキルを発動させてみる。
すると
どこか遠くから微かな声が聞こえてきた。
『……蜜葉……』
「えっ!? 紅葉?」
慌てて辺りを見回したが、紅葉の体は変わらず静かなままだった。
それでも、確かに声は聞こえたのだ。
『……守って……お願い……』
「守る……もちろんだよ! 絶対に守るから!」
涙が止めどなく溢れてくる。
紅葉の声なのか、それとも私の幻覚なのか分からないけれど、私はその声に必死で応えた。
「紅葉……私は……絶対に間違えない。何があっても、あなたを守るために戦うよ」
その夜、宿の窓から月明かりを見上げながら、私は次の行動を決めた。
「街の西にある魔術師の塔……そこに行けば紅葉を救えるかもしれない」
紅葉を背負い、私は深夜の静かな街を抜け出した。
兵士たちや噂話を避けるように、小さな路地を通り抜けていく。
塔への道は険しく、山を越えなければならないという噂も聞いていた。
しかし、紅葉を救うためならどんな困難も乗り越える覚悟だった。
「あと少しだよ………」
静かに眠る彼女の顔を見つめ、私は自分に言い聞かせるように呟いた。
その決意だけが、今の私を支えていた。