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第一章6 とりあえず休める場所探さないとね!

 

 洞窟を出ると、薄明かりの空が広がっていた。


 夜明け前の静けさに包まれた森の中で、私は紅葉の体を慎重に背負う。


 彼女の身体は軽く、けれどその冷たさがどこか不安を掻き立てる。


「休める場所…見つけないとね!」


 私は呟きながら、森の奥へと足を進める。森の中は深い霧が立ち込め、道らしい道もない。


 私の体は水の精霊として成長していたので軽やかに動けるはずなのに、紅葉を背負った瞬間からどこか重さを感じる。


 それでも、彼女を守ると決めた以上、立ち止まることはできない。



 森を抜け、ようやく一筋の光が視界に入る。


 そこには、小さな村があった。


 崩れかけた木造の家々、所々に裂け目のある塀、そしてかすかに漂う煙の匂い。


 村全体が疲れ果てたような雰囲気を醸し出している。


「ここなら……少し休めるかも」


 私は紅葉を背負ったまま、村の中へと足を踏み入れた。


 しかし


 その瞬間、鋭い視線を感じる。


 道端にいた男が、こちらを警戒するように睨みつけている。彼だけではない。


 家の陰から覗く住人たちも同じ目をしていた。


「お前……何者だ?」


 声をかけてきたのは屈強な体格の中年男性だった。鋭い目と粗暴そうな声で私を問い詰める。


「私は、ただの旅人です。この子が……具合が悪いので、休める場所を探していて……」


 そう言いながら紅葉を背負い直すと、彼の視線が紅葉に移る。その表情が険しくなった。


「具合が悪い?死体を持っているんじゃないだろうな!」


「ち、違います!何言ってるんですか!?この子はまだ生きています。ただ、少し……休ませてあげたいだけなんです!」


 私は必死に弁明するが、男は疑念を捨てきれない様子だった。その時、奥から村の長老と思しき老人が現れた。


「どうした、ケント?」


「この女が、死にかけの人間を背負ってやってきたんです。怪しい匂いがする……」


 老人は私をじっと見つめ、次に紅葉に目をやった。そして、しばらくの沈黙の後、静かに口を開いた。


「……いいだろう。この子を休ませる場所を用意してやれ。ただし、何かあればすぐに村を出てもらう。それで構わないか?」


「はい!ありがとうございます!」


 ようやく与えられた小さな古びた小屋に、私は紅葉を寝かせることができた。



 小屋の中はひどく埃っぽかったが、それでも紅葉を横たえるには十分だった。


 私はそっと彼女の髪を整え、冷たい手を握る。


「大丈夫だからね……ちゃんと、助けるから」


 そう言いながら、彼女の穏やかな顔を見つめた。しかし、内心では不安が渦巻いている。


 紅葉は本当に助かるのだろうか? そして私は、彼女を守り抜けるのだろうか?


 その時、不意に頭の中に響いた声があった。


『……目覚めて…!…』


「え……?」


 声の正体が何なのか分からなかったが、それが私に対する警告であることは直感的に理解できた。


 夜が更けた頃、外から村人たちの騒がしい声が聞こえてきた。



「魔族が近づいている!」


「またか……!どうしてこんな小さな村にまで……!」


 私は慌てて外に飛び出した。


 村の周囲には数体の魔族が迫っており、その不気味な赤い目が村人たちを威圧している。


「私が……なんとかしないと……!」


 紅葉を小屋に残し、私は前へと歩み出る。


 村人たちは驚いた表情で私を見つめたが、すぐに不安げな目を向けた。


「お前、何ができるんだ?」


「勝てるかわからないけど……ここは私に任せてくれないかな?」


 そう言って私はスキル《水流操作》を発動した。


 水が周囲の湿気から集まり、薄い防壁を作り出す。


 その瞬間、魔族の一体が突進してきたが、水の壁に阻まれて後退する。


「虫みたいに湧いてくるなぁ…めんどくさ」


 私はさらに水の流れを操り、魔族たちを攻撃した。



 戦いの最中、ふと背後の小屋から光が漏れるのを感じた。


 振り返ると、紅葉の体から微かな炎が揺らめいている。


「紅葉……?」


 その炎は私の水流と共鳴するように動き、魔族たちに向かって放たれた。


 灼熱の炎に包まれた魔族は一瞬で消滅し、残った魔族たちは恐れをなして退却していった。









 村人たちは驚きの声を上げ、私と紅葉を見つめた。


「この子が……勇者なのか?」


「もしかして……炎の勇者が戻ってきたのか……?」


 村人たちの視線が私たちに集まる中、私は紅葉の元へ駆け寄った。


 その体はまだ冷たいままだが、その炎が確かに彼女の中にあることを感じた。


「紅葉……………?」




 翌朝、村長が私に告げた。


「君たちは、ここに留まるべきではない。この子が何者であれ、魔族が再び襲撃してくる可能性がある」


「……わかりました。紅葉を連れて、次の街を目指します」


 私は紅葉を再び背負い、村人たちに感謝を告げて旅立った。彼女を守り、彼女の目的を解明するために。


「どこまででも行くよ、もう貴方を見捨てたりしないから…ふふふ」

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