第一章3幼くなる副作用
あれから数日が過ぎた。
そして私には大きな進展がある。
前世の体を『水成形』で再現できるようになったのだ。
色は再現できないし、見た目はスライムっぽいみずみずしい”水”葉になってしまったのだが…
ーーおはようございます。いい朝だなぁ、、、あたたかい。。
水面にキラキラと光る朝日が水で冷えた私の体をぽかぽかと暖めてくれる。
追い炊き中のお風呂に潜っているような感覚で、気持ちがいい。
このちょうどいい温度…前世ではきっと、お風呂から出られなくなってしまっていただろう。
ーー眠気がないのは残念だけど…これはこれでしあわせぇぇ…
本当にもう人間ではなくなったのだろう。眠らず、ここまで動けるのは普通にすごいと思う。
ここ数日は…
スキルを試したり
シャボン玉を魔力で再現したり。
小学校の時にやった渦巻き作ったり。。
水で手話人形を作ったりと。。。
懸命に、水の研究をしていたのだ。
ーー遊ぶ暇はない?それはわかっています!でも、これはけっっして遊びではありませんの!スキルの確認のためで…仕方のないことで…ごめんなさい。
ここにきてしばらくすると、突然指先ほどの小さな光、恐らく精霊の子供のようなものが見えるようになったのだ。
私には彼らの思念が分かる。声ではなく、もっと別の何かだと思う。感覚でしか理解できない何か。
するとそこに、若緑色に輝く精霊が慌ただしく乱入してきた。
«こっち!»
ーーどうしたの?
不安げに精霊に聞いてみるが、返事はなく木々の中に飛び去って行く。
私は水流操作を使って周りにある水源を辿り、波に乗って出来るだけ飛び去った方向に向かって移動した。
ーー待ってっ!
進んでいくうちに、私は水辺の近くにある小さな洞窟の周りに集まる精霊達を発見した。
洞窟の中からは異様な匂いとともに微かなうめき声が聞こえて来た。
ーーぅ、この匂い…それに、この魔力…今にも消えそう。。
生ごみのような、いくつもの肉を腐らせたような匂い。
ーーどうやったらあそこまで行けるの?
ーーい、今持ってるスキルは。。水流操作…擬態……えっとはやくしないと!!
自分のスキルを思い返すが、手段が思いつかない。
水流操作で波に乗りながら行く?
いや。
そもそも私は水なのだ。
魚だって水がなければ陸地では干からびてしまう。きっと私も同じ末路を辿るであろう。
《スキル:水霊化を解除しますか?》
ーーあくあしふとの解除?うん、取り合えず!「はい!」
すいれいかじゃなかったんだ…“日本語難しい"
焦りの気持ちから私は水霊化を解除した。
ーーひゃっっ?!
その瞬間、私は”個体”として形を得る感覚を得るとともに、押しつぶされそうな重力を感じた。
水の中なのにまるで上に人が沢山乗っているかのようだ。
「溺れる……苦し。。。くない??」
水精霊なのに溺れてしまう、そんな最後になり。。。ならなかった。
むしろ全身がひんやりしていて気持ちがいい
「しあわせぇぇぇ、、って!!それよりも早くいかないと!!!」
目的を忘れるなんて、とんだ失態だ。
形を得た感覚、水のリンクを外したような感覚を得て、可能性を感じ、私は恐る恐る陸へと駆け上がった。
「やった~!!歩ける!!はっ……もう!!」
初めての陸地に喜ぶ暇はないようだ。魔力の灯はもうじき消えてしまいそうだったから。
私は陸地に上がると同時に洞窟の奥に向かって走った。途中に松明や、鎖が落ちていたが今はどうでもいい。
ただ、目の前の命を必ず”救ってあげる”という信念の中突き進んだ。
「!!」
そして、走り続けた私は洞窟の奥で鎖に縛られた人のようなものを見つけた。
よく見ると髪は深紅に染まり、まるで血のように見えた。
「助けて、…イタイよ…」
少女のようなかすれた声が聞こえる。私は『水成形』で刃を作り、『水流操作』で波に乗せ、鎖を断ち切った。
さすがに血の気が引いた。笑えない。
人為的なものであれば"サイテーだ”
近づいてみると分かったが、これは前世の地球でも治せないぐらいに重症なんじゃないか?と思うほどの傷だった。
縛られた手は長時間放置されていたのか、血の気がない。
足は矢じりのようなものが数本刺さっており、土に汚れながらもいたるところが赤黒く、蛆虫のようなものが沸いていた。
「……、!私が絶対に助ける。だから安心して」
確証はない
だけどもう以前の私ではないのだ。
もう誰にも”血”を流してほしくない。だから”必ず助けてあげなければならない”のだ。
「私が持っているスキルは…水成形に魔力操作…水流操作に、水霊化…」
「あ、『水成形!』とりあえず、メスで怪我したところを取り除けばいいのかな?」
「ㇶィッ…!」
彼女は私に対して怯えたような表情をしていたような気がしたが、気のせいだろう。
私の言語は”日本語”だからだ。
と、そこで既視感があることに気づいた。私にはシステム先輩がいた。
「私の前では誰も死なせない。ねぇ、システムさん。何か方法ある?」
《スキル:再生の波を使用しますか?》
「はい」
その瞬間、静かな波が彼女に当たり、傷口、全身を包み込む。
汚れは分解され、足に刺さった矢じりが消える。
青白かった腕には血の気が宿る。波は確かな癒しの力を持っているようだ。
どうやら間に合ったようで、ほっと安心した。
「もう痛くないかな?」
「うん……!ありがとう!お姉ちゃん!」
可愛い笑顔に私は心打たれてしまった。なんて可愛い。。天使なのでしょうか。。。
「いやぁ~おねぇちゃんだなんて、ふふふ。ま、まぁ!私にかかればこんなのお茶の子さいさいなんだから!」
私は彼女の頭をワシワシと撫でながら言った。
「ところで、あなたのお名前は?」
「私の名前は紅葉だよ!そんなことより!お、お姉ちゃん…そ、その………!」
突然彼女は頬を赤らませながら口籠った。
その時撫でている私の手に〈色〉があることに気づいた。心臓が悲鳴をあげ、自分の体へと視線を向ける。。。。裸である。
「ひぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁああ!!」
《水霊化の効果
・自身の体を水に変化させることができる。また、水中での移動が容易になり、水の中での活動が”得意”になります。》
《再生の波の効果
・自身や他者の傷を癒す”波”を発生させることができます。このスキルを使うことで、肉体的な傷や病気を治癒することが可能です。再生速度と範囲は使用者の魔力量に依存します。》
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!評価のほどよろしくお願いします!!