第一章2 一人でも喋れるタイプの女の子
ーーここは…一体どこなの?
あたりは見渡す限りの暗闇。
自分が目覚めたことすらも分からない。どこかに”存在している”だけ、そういう感覚が漂う不思議な空間だ。
何も見えないし、何も聞こえない。
ただ、冷たく包み込まれる感触に流されていくような感覚。
ーー誰か!誰かいませんか?
そこで、自分が刺されたことを思い出した。
声を出したつもりだが音は何も帰ってこない。
もしかして私は声を失ってしまったのだろうか。
体もまるで切り離されたかのように今までの感覚がない。
もしかしたらあの時、刺されたときに重大な後遺症を負い、今の私は植物人間として生き続けているのかもしれない。
少なくとも私は、二度と皆の顔を見れるようにはならないということを、理由もなく何故か確信していた。
それでも今の私にはこの空間が心地よかった。不安よりも達成感が大きかった。
ーーふふ、思いを伝えれてよかった。
満足したはずだ、だからもう寝よう。
来世の私が幸せであることを祈って…
しかし、どうしても最後に泣きじゃくる彼の顔を思い出してしまう。
ーーもう後悔はないよ
そう言い聞かせるが、彼の笑顔を思うたびに魂が否定する。
きっとそれは"嘘つき”の始まりなのだ。一度嘘をつけば悪いことも悪いと思わなくなってしまう。
嘘で汚れた魂は来世の私に影響するかもしれない。転生先が悪人なのはごめんだ。
意識がある今、私にできることは嘘をつくことではない。
だから私は1つ、贅沢なお願い事をした。
ーー私…こんなことになるならお父さん、お母さんに私の気持ちを伝えていればよかった…もっと前から聡に思いを伝えていればよかった!ねぇ…お願いします。もう一度私にチャンスをください…
その瞬間だった。
周囲に黒い液体が現れ、急激に震える。
まるで見えない力に引き寄せられるかのように渦を巻き、自分の感情にこたえるかのように暗闇の中で何かが動き出す。
液体が流れ、圧を生み、何かを押し返す力を持った。
ーーえ?
確かに感じる自分の願いが何かを動かしたという実感を。
ーー私が…これを動かしているの?
何かが胸の中で弾けるように感じた。液流の動きがまるで自分の手のひらのように感じた。そんな不思議な感覚が広がっていく。
そして、さらに強く思いを込めると液流の流れは自在に変化し、形を成していく。
ーーきれい!
その手のひらから、周囲の濁流の如く流れる液体を動かし、浮かし、飛散させ、雨を降らせる。
私は、まるで意志を持っているかのように液体を自在にコントロールできるようになった。
《アドバンススキル:水流操作を取得しました》
非現実の光景とゲームのシステムのような声。ここはもう地球ではないのだろうか…
《水流操作
・液状のものをイメージ通りに操ることができる。操作できる液量、形はイメージと魔力量に反映されます》
水流操作を手に入れてからどれだけの時間がたったのだろう。
それに、視覚や聴覚もまだ不完全で、自分の状態さえ掴めないままだった。
けれど何となくわかる。私こと蜜葉はこの道(体感)3時間の水流操作プロ八段になってきたことを。
私が天下を取るのも時間の問題だろう。
ーーお水玉!昆布水!花水…はネーミングセンス最悪ね。
《ーー、ーー。》
う~んもっと、”ばりえーしょん”ってやつが欲しいわね。私には水流操作しかないのかしら。
《ステータスを確認しますか?》
ーーえ?!あの時の声……もしかして、私に聞いてるの?
……………
とても気まずい空間が流れてしまった。
ーー私しかいないよね。
ーーハイ、確認したいです。
頭はないけど手でやれやれと言わんばかりに水を操る。その瞬間、心の中に情報が流れ込んできた。
ステータスウィンドウ
・名前:篠原蜜葉
・種族:水精霊
・スキル:水霊化/再生の波/水流操作/水成形
・特性:精霊体/水の根源
ーーこれが私のステータス…
まるでゲームのようなシステムが説明してくれる。
ーー種族…水精霊って、私人間じゃないの?!
ーーう~んでも、本当なら水の精霊ってちょっとカッコいいかも…?
ーーそれに、ここが魔法の世界なら魔力の根源の精霊ってすごく希少な種族だったりするし…。
ーー人間に見つかるといけない種族だったりするけど…
ふと、聡のことを思い出して首を振る。。。首はないけど
ーースキルのほうは…水流操作、水成形に、再生の波。
ーーそして、すいれいか?知らないスキルもいくつかあるね。
特性は…精霊体と水の根源。名前はカッコいいけど能力の詳細が分からないよ~
私が水の精霊に転生したことが分かったことで、水流操作の能力に説明がつく、しかし、まだ大きな問題が残っている。
ーー真っ暗なんだけど………私、敵に出会えば死亡確定だよ!!
【特定の条件を満たしました。エリートスキル:感覚共有”続いて”アルカナスキル:魔力感知を解放します】
【感覚共有の効果
・他者の五感を一時的に体験することができます。効果範囲は使用者の魔力量に依存します】
【魔力感知の効果
・周囲の魔力の流れを認識することができます。感知範囲は使用者のイメージと魔力量に依存します】
私の声に反応するようにシステムの音が聞こえた。
ふと、自分の周囲に広がる水の流れが鮮明に感じられた。
水が触れるものーー岩の硬さ、魚の柔らかい動き、遠くの水草の揺らぎ。そのすべてが浮かび上がる。
ーー!!色が、土に砂に岩…水の中に生きる全ての生き物の存在を感じる……。水に触れてるもの全てが私の一部みたい!!
《アルカナスキル:模倣を取得しました”続いて”エリートスキル:擬態を取得しました》
《模倣の効果
・他者が使用したスキル、技術、魔法をコピーし使用することができます。》
《擬態の効果
・周囲の物体や生物の外見を一定時間完全再現することができます》
《ステータス
名前:篠原蜜葉
種族:水精霊
スキル:
〈Mystic〉水霊化
〈Arcana〉魔力感知/模倣
〈Master〉再生の波
〈Elite〉感覚共有/擬態
〈Advance〉水流操作
特性:精霊体/水の根源》
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