第二章18 狂喜ー1
こんにちは。きょうも晴天、雨びより……さいこう!
さてさて、
今日の私は絶好調なのだよ。
おっと…今の私はどこにいると思う?
きっと想像もつかないよ…ふふ。
「吾輩はコップである。名前は篠原蜜葉。なぜこうしているのかとんと、皆目見当もつかぬ」
私は木陰にあったコップの中にいた。まあ、暇つぶしのようなものだ。
中身は青い果実のジュースみたいだった…結構美味しい…
ーーっていうか、味あるんだ。
ーー嗅覚があるから当然だよね
今までお腹が空すいた感じがしなかったので、気にも留めなかった。
むしろ、お腹がいっぱいと感じているぐらいだ。
そんなことを考えていると、どこからか私を探しているような声が聞こえてきた。
「大精霊様ー!どこですか?」
「大精霊様ー!」
「果物をご用意しましたよー!」
ああ…そうだった。待っててって言われてたんだった。
やりたいことがあったから……
忘れてた。
ーー早く行かないと〜!……あ、……
その時、仲良く談笑している4人のエルフがこちらにやってきた。
ーーど、ど、ど、どうしよう…このままコップからでてきたら…衛生面でなにか言われたり……
いやいや
ーー汚くないよ!? 私、水だし……!!もしかしたらゴミが混ざってるかもしれないけど…そんなのミジンコ並みのホコリよ!
あれ…よく思えばこの世界に来て、まともにお風呂に入っていないような……。
ーーシャンプー、リンス、ボディーソープがないから…
もしかして……臭うのかな…………いんんんんんやッ!!そんなことッ!!ぜったいにないッ!!
私は排泄もしないキレイな水ダヨ
私は遊ぶのを………じゃなくて!水の研究をやめて…
果物を食べに………じゃなくて!味覚の研究にいこうと思い、木の下に集まってきたエルフ達に見つからないように大気中を移動した。
ーーやっぱり、あんまり、かんがえごと、できないぃぃふぅ!ひゅぅ!ひゃっほい!
私は水滴になってしまった。
「エル!あれみて!大精霊様の残滓だよ!」
「ああ、キレイな魔力だね。アリーちゃん」
「俺たちは本当に幸せものだ。大精霊様に会えたのだから」
一同は思った。
ーー「「あれ? どこにいくんだろ」」
ふと、魔力の跡を辿ると…
コップに入っていた青い液体、マカの実のジュースの中から精霊様の魔力を感じた。
マカの実は酒豪の中でもかなり有名なお酒である。
いい意味で…
それは子供でも飲める、世界で一番とも言える弱くて優しいアルコールだ。
「大精霊様…もしかしてジュースが好きだったのかしら?」
***
「ひゃっほーい、ゆぅビィゴォー!」
私は大気を浮遊していた。
頭がクラクラする。
私は…雲になり…雨になり…雷に打たれ…風にさらされ…蒸発し、雨になり…
ーーあれ??
何してたんだっけ…
『ーーい』
??
『ーーい ーーーこ』
???
『おーい ミズダコ野郎 お前 なにしてるんだ?』
ーー!?こわっ……ノープルさん??
久しぶりに感じるノープルさんの声は機械的で可愛らしい…
例えるならスマホの読み上げ機能を思い出す…いや、あれよりは可愛いけど。
って、そうじゃなくて…
ーー初めて"お前"って言われた?
突然すぎる。
ーーこれまで"あなた"とか…"君"とかだったよね…
今の恐怖感を例えるなら
優しい人が怒ると怖い。
という状況に近い。
***
ああ…嫌な記憶が蘇る。
私は一度だけ、クラスの大人しい子を怒らせたことがある…
確か、あの時はクラスマッチで…ドッチボールをしていた。最後に残ったのは少しだけ運動ができない黒髪黒目の小さな女の子……
男の子達の怒号が聞こえる…
「お前なにやってんだよ!!」
「はやくパスしろ!!」
「つかえねー」
「次やりたいからはやく当たれよ」
みんなはなにを言っているんだ…?
遊びは楽しくやるべきだよ…なんでそんなことを言うの…?
彼女はまだ、戦っているのに…
でも、喉元まできた反論する言葉は飴を詰まらせたようにでてこなかった。
周りの女子達もなにも言わない……きっとそうだ。
このクラスの男の子達はみんな凶暴なのだ。逆らえばイジメられる…怖い…逃げたい…こんな遊びなんてやりたくないよ…
そんな中、茶髪で黒目の可愛い容姿に、メガネをかけた女の子は叫んだ。
「そんなこと言わないでよ!!!」
そんな一言。辺りが、隣のクラスの試合をしていた人たちも静かに彼女を見つめている。
それ以上を語らなかった。続きはないようだ。
あの子は幼馴染で、クラスの中でもモテモテの子だが、いつもは大人しい子だ。
私は8年近く一緒の学校にいたと思うが、初めて叫ぶのを見た。いや、"感情"を露わにするのを初めて見たんだ。
私は彼女がスゴいと思っていた………、
しかし、この世界は残酷だった。
彼女は次の日から"イジメられるようになった"んだ。
クラスから
いや、
1人を除いた全クラスメイトから…
先生がいないときに蹴られたり…彼女が座る瞬間に椅子を引いて転ばせたり…暴言に暴力。
ーー私は、人間の恐ろしさを知った。
だからこそ、私は恐怖感から彼女を……
"イジメていた"のかもしれない
隣の生徒が、"お前もやれよ"っと語りかけてくる。
だから、私は彼女の給食を注ぐ際は量を減らした。
"その時、裏切られた?と言いたそうな顔をする幼馴染の顔が忘れられない"
それでもやめれなかった。
一度やってしまうと…流れに乗ってしまうと、防波堤のないこのクラスの中にいる限り"止まれなかった"
だから
私の親友が
"ねぇ、あいつマジ死ねよって思うよね?"
と話しかけてきたら
"わかる〜"
と返した。
自分が気持ち悪かった。
あの時、私も同じ気持ちを持っていたのに…自分に嘘をついて、まるで彼女だけが"仲間外れ"のように扱っている。
そう…私は卑怯者だった。
ある日の給食
私はいつものように彼女の給食を少なく注いでいた…
すると、隣からビンタが飛んできた。
いきなりで呆然としていると、目に入ってきたのは…
黒髪黒目の運動ができない女の子だ。
「もう、やめてよ!!あなたもみんなも、全員サイテーだ!!」
…………私も卑怯者だって…分かってるよ。
でも……謝らないと取り返しのつかないことになる。そんな気がしていた。
だけど、直接謝るのが怖かった私は
手紙を書いて謝ることにした。今までやってきたことを償いたい…そんな文章を、お母さんに相談しながらよなよな書き続けた。泣きながら書いた…。
許してほしい…"いいよ!許す!"って言ってほしい……そんなことを期待しながら、下駄箱に手紙を入れた。
その日、"2人共"学校には来なかった。
次の日も
その次の日も
何回も下駄箱の手紙を確認した。
でも、開かれた跡はない。
私は待ち続けた…
次の日も…
何日も…!
何ヶ月も……!!
一年…が経った頃だろうか…
ーーなにあの、お花…
2人の席には綺麗で鮮やかな紅のお花が置かれていた。
クラスのみんなは…なにが起きたのか理解していなかった。
私も…私も…いや、なんとなく…分かっている気がした。
そうではないと、願っている。
違う!
そんなはずはない!
だって…まだ許してもらってないんだもん!
先生が悲しそうな顔をしながらやってきた。
そこで、私は心の決壊を感じた。
先生がなにか言い始める前に、私は溢れきれない涙を机の上に垂らしていた。
彼女達に何かあったのではないか?そんなことを考えていると、気が気じゃなかった。
「どうした?篠原…体調、悪いのか?その…こっから辛い話するから、体調がすぐれないなら保健室へ行きなさい」
先生は私に語りかけるように言った。その顔を見れば見るほど涙が止まらない…
だけど、あのお花の意味を知るまで…教室を離れたくない。
ーー私は首を横に張った。何度も…
そこで、彼女たちがとあるビルから2人で一緒に飛び降りをしたことを知った。
ーー私は学校に行かなくなった。将来なんてどうなってもいいと思っていた。
私は扉に鍵をかけ、引きこもった。扉の前にタンスを倒して、絶対に開かないようにした。
「蜜葉、あー……すこし、外に出ないか?」
お父さんが説得するように言った。
「生きる価値のない私に…幸せなんて必要ない!私は餓死してやるんだ!」
私はお父さんに買ってもらった人形を扉の前にあるタンスに投げつけながらそう言った…。
どうして…
そんな事を思いながら私は数日間涙が止まらなかった。
***
「はぁ…はぁ…」
私は記憶にある中でもかなり五本指に入る、最悪な記憶を思い出し、揺れる感情を落ち着かせた。
そんなことを考えながら、私は現実から目を逸らそうと必死に別のことを考えようとしていた。
『聞いているのか?』
「ひぃぃッ!」
あ、あぁ…ここはもう"あの苦痛にまみれた世界ではない"のだ。
しっかりしてよ…わたし、
それにしても
ーーノープルさん、いつもの話し方とあんまり変わんないけど…急にめちゃくちゃ怖くなってきた……
無視する?…いやいや、あとから絶対に怒られる。
ーーちゃんと謝ろ………
私は水霊化を解除することにした。
「ど、ど、どうしたの?のーぷるさ、さ、ささん?!?!キョウモイイテンキダネ」
私はお姉さんなので、ごくごく普通に違和感のないように…慌てないように…冷静沈着に敬礼しながら答えた。
『は? 水魚野郎は何がしたいんだ?』
彼女は可愛らしい……機械的な声で言った。その言葉はほんとうにいつもと変わらない。しかし、言葉には"圧力"が込められているッ!
「ひぃぃいいい、ごめんなぁさいいい」
私は土下座をしながらノープルさんに許しを求めた。こういう時は謝れば大体なんとかなるのである。
ーーふふ、私の土下座スキルは先生にも通用する……
よく、宿題を忘れた時に使っていた。クラスの前で披露する土下座にはすこし、ゾクゾクするものを感じるが…それでも、怒られるよりマシなのだ。
『いや もういいよ 意味がわからない』
ノープルさんは機械的な声で言った。同時に脳内から反応が消えた。
私の勝利である。
ーーふふ、友達にも効くんだね…"秘儀、水下座と呼ぶことにしよう…!
なんてノープルさんとのやり取りが無事に終わり、安心していると悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああああっっ!」
女の人の声…そして、森の中……あたりは真っ暗だった。
ーーここ…どこ?
ーーじゃなくて!なに今の悲鳴!!
ノープルさんとの会話に夢中で、自分がどこにいるのか全くわからなかった。
ーーわたし、エルフさんが用意してくれた果物を食べに…水霊化を使って…水滴になって…………
???ほんとうにどこなの???ここ……
完全に迷子である。
なんてことを考えながら、私は悲鳴のする方へ走り出していた。
***
「お嬢様!お逃げください!!」
ワタシの執事が言った。その顔は混乱に満ちている…
「何があったの?」
ワタシは爪を見ながら退屈そうに言った。
ーーどうせまた貧民街の子が来たのでしょう?
「は、反乱です!反乱が起きました!!すでに…」
彼は息を切らしながらも父上、母上の死を教えてくれた。
「え! そうなの?! 分かったわ。逃げましょ!」
ワタシは笑顔でいった。執事の驚く顔をよそに、私は優雅に支度を進めることにした。
ーーデザートに、お洋服、指輪に…飴玉も持っていこう
ーーふふ、いつもと違うスリル感……!
ーー家族なんて邪魔なだけだったのよ
ワタシの退屈感を埋めてくれた、"反乱"に感謝したい…"反乱"が何かは知らないけど…