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第一章14 虚実的打算ー4

 

「そうだったね…あの時、本当に危なかったよ」


 彼…エルは悲しそうに俯いた。


 エルはどう思っているのだろう…私のことを…


「それで…確か黒幕の奴隷商をシルヴァ様が成敗してくれたんだよね」


 嘘だ……あなたが私のために黒幕を倒してくれた。


 シルヴァ様はそんなことをしないと思う……なんとなく、そう思った。確信はないけど、あの人は"怪物"だ。


 事実、エルのこと…実の息子のことを痛ぶっていたのだ。許せるはずがない。


 なぜあんな力を持っているのに反抗しないのか、私には分からない。


 ーーエル、あなたはやっぱり優しい…


「そ、それでさ…エルは…あの時、私の……を見たんだよね…そ、そ…それのせき、責任をとってほしい!!」


 私は顔を赤くしながら言った。そうだ、あの時彼に見られてしまったのだ。


「え、え?ええ?ええええ?」


 彼は混乱したような表情を浮かべていた。


「あーあ、もうお嫁さんにいけないなー!」


 私は石ころを蹴りながら強く言った。


 ーーここはゴリ押しだ。押し続ければ落ちるだろう。男は攻め続ければイチコロなのだ……お母さんが言ってた。


「い………よ…」


「え?なんて?」


 彼は頬を赤らめて言った。しかし、聞こえなかった。

 私がもう一度聞き返すと、彼は拳を握った。


「僕は…君の笑顔や、少し強引なところ、草木に愛情を注いでいるところが好きだ…」



 ***



 僕にはどうすればいいのか分からない…。



「エルフの国に帰らないと…!」


 ある日、朝起きると、アリーちゃんが突然慌てながら言った。その顔は蒼白としていた。


「何があったの?」


「おかぁさ…が…死ぬかもしれないって、お父さんが!」


 聞き返すと、彼女は言葉にならない声で叫んでいた。


 …どういうことだ?


 ドワーフの国に届いた情報によると、エルフの国は魔族によって壊滅したそうだ。


 4種族の中で1番落ちない、安全区域とされていたエルフの国が…?


 しかし


 あそこには世界樹の結界があったはずだ。


 あの結界は数年前の魔族との抗争で死んだ…いや、死んだとされている世界最強の英雄、知恵の魔女が作った結界だ。


 彼女の結界は世界中の魔術師を用意しても破ることは不可能。という研究結果がでていたはずだ。


 正面から破るのは現実的ではないだろう…


 しかし、事実は違う。


 結界は意味を成さず、エルフの国は侵略されてしまった。


 ーー可能性があるとしたら


 ーー僕にはこの現象には心当たりがある。


 ーーある日僕は結界の外でスライムを見かけた。どこにでもいる魔物…スライム。成長していなければ害はない。


 ただ、あの時


 僕は不思議な光景を目の当たりにした。


 ーースライムが結界に張り付いてる?


 そうだ。スライムが結界に張り付いていたんだ。


 破ることが困難な結界に、最弱のスライムが立ち向かうように張り付いていた。



 どんな魔物でも通れることはない。ドラゴンだとしても、魔王だとしても…


 なぜならエルフと精霊以外の魔力波長を拒絶するのだから。


 だからこそ面白かった。


 ーーおかしなことをするものだ


 あの時の僕は知性のないスライムの行動を舐めていた。


 僕は魔法の練習をするため、その場を立ち去ろうとした時、足に何か冷たい感触があった。


 振り返るとそこには


 結界を通り抜けたスライムがいた。




 ーーやっぱり、スライムといい、あの荒くれ者といい…もしかして…"魔力を馴染ませることが可能なのか"


 原理はまだ分からない。どんな条件が整うとすり抜けてしまうのか…


 それはエルフ、精霊だけがすり抜ける原理を解き明かさないと分からないだろう。


 もしくは知恵の魔女なら分かるかもしれない。


 ーーもう聞くこともできないだろうけど



 ***



「はぁ…はぁ…苦しい…歩きたい…」


 な、なんだ…あれは…なんなんだ?


「あひゃひゃひゃひゃ!ひぃひきゃ?」


 エルフの国に帰ると、そこら中が赤い粘液に包まれていた。そして、世界樹に張り付くように手足の長い化け物がいた。


 あんな生物、見たことがない…何より本能が逃げろ、と警鐘を鳴らしている。



 僕は遠く離れたところから観察することにした。


 そこには目を疑うような光景が広がっていた。


 なぜそうなったのかわからない。


 ただ


 世界樹の近くにいるエルフ達は狂ったように自傷行為をしていた。


 ーー幻影魔法を使う魔物であれば…やばい。精神支配耐性持ちの勇者、もしくは英雄級の助けが必要だ…


 ーーあれ?僕は何をしにエルフの里へ来たんだっけ…?


 忘れてはいけない何かがあったような気がする。





「助けて…エル!」


 声が聞こえる…


 ーー大事な人の声だ。


 ーーあぁ、思い出したよ。アリシラ


「…君は僕が守るんだった。"絶対にもう見捨てたりしないよハハハ"」


 僕は声がするエルフの国へ向かった。



 エルフの国に到着して早々に危機が現れた。


「アリシラ可愛いよな!あいつをぐちゃぐちゃにしてやりたいなぁ」


「そうね、顔が綺麗な子の腹中は美しいって決まってるのよ、ふふふ」


 アリシラの首を握りながらそんなことを言う翠髪のエルフの男と、戦闘用のナイフでお腹を刺そうとしている女のエルフが居た。


「やめろ!ゲス野郎共!!『セリオスフレア』」


「アリーちゃんは僕が守るよ…絶対に見捨てたりしない…だからもう離れないで…」


 僕は彼女を救ってあげた。大好きな彼女を救ってあげた。もう見捨てたりしない。




 ーーきもちわるい…頭がぐるぐるしてる


 ーー嫌な予感がする





「うん、ありがとう…優しいニンゲン」


 その瞬間


「痛いッ!?」


 ーーなんで?


 僕のお腹にはあの女が持っていた戦闘用ナイフが突き刺さっていた。


「愛してる!愛してる!愛してる!愛してる!優しいニンゲン!来て!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ねぇ、エル…どこなの?助けてくれてありがとう?」


 ーーこいつは"偽物か"


 あの時、世界樹の近くにいたエルフ達は自傷行為をしていた。やはり、これは幻想なんだ…。


 ーーこいつ…アリーちゃんの体を…許さねぇ!!


 僕は復讐心に自身を鼓舞し、自身に突き立てられたナイフを引き抜き、"偽物をめった刺しにしてやった"


 彼女のためならこんな痛み、痛くも痒くもない。


 よし…この調子で偽物をぶっ殺してやる!


「アリシラ…そこにいたんだね?…お前も偽物か!!…あぁ、君が本物か…?君も偽物か」


 僕は沢山のエルフを殺して回った。


 "本物のアリシラ"を探して…


「やめろッ!アシシラは誰にも渡さない!」


 僕の声は暗闇に吸い込まれるように変えた。


「誰であろうと彼女に手を出させない!」


 手を握りしめ、決意を示した。


「僕?俺?私?崇高な支配者〜ふははは」


 目の前がボヤける、空間が歪む、本当にここは現実なのだろうか?


「勇者は俺がなってやる。俺は世界を救う勇者だっ!魔物をぶっ殺して〜ニンゲンを滅ぼして〜勇者だっ!世界は勇者だっ!」


 俺は最強の勇者だ!アリシラのために死んだ奴らはさぞかし嬉しかっただろう。


 ーーそんなわけないよな…?いや、苦しみから救ってあげたんだよ。だからそれが普通か…


「もうーーて!!……ル…」


 また、彼女の声が聞こえる。いや、偽物の声が聞こえる。


「殺してやる」


 僕はナイフを彼女に突き立てた。だが…彼女は抵抗しなかった。まるで、ナイフを受け入れるような…


 なぜだ…?


 何がしたいんだ?


「もう…終わったよ。あなたが…あの怪物を燃やしてくれたから…………さ、だか…もう、や…て?」


「もう終わったんだよ…エル」


 ーーあぁ…


 ーー僕は…


 ーーなんてことをしているんだ…



 生臭い赤い液体で汚れた彼女は僕を抱きしめていた。間違いなく、本物だ。あの笑顔…あの時僕を救い出してくれたあの顔だ。


 しかし


 僕の手は止まらなかった。止めたくても止まらない。まるで、慣性の力が働いているように、彼女をナイフで何度も突き刺していた。


 体から尖った刃物を抜き差しするたびに溢れ出る赤い水。


 自覚はある。でも、手が止まらない…


 僕は何度も突き刺した。刺すたびに彼女は反応を示す。そして、彼女の生臭い体液は僕の心を温めてくれた。


 ーー止まってくれ…止まれよ!止まれって!!


 辺りはもうどうしようもなく、腐れ切っていた。同胞の死体の山…焼け焦げた町…そして…最愛の彼女……



 いつしか彼女は"反応を示さなくなった"


最後まで読んで頂きありがとうございます!コメント、評価のほどお待ちしております!

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