表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

第一章1 脳内痛み止め

 


 私の名前は篠原蜜葉(しのはらみつは)


 まだピチピチの中学3年生15歳だ。突然だが、私が覚えている最後の記憶について話したいと思う。


 それは確かーー。


 針のように細かく、激しい雨が降る夜。


 私は塾の帰り道に、二人で一本の傘を共有しながら、有名なべーカリーショップの前に来ていた。


「今日は店の外まで並んでるね!」


「うん、傘を持ってきてよかったよ」


 私が雨にも負けない声で言うと彼は恥ずかしげに言った。


 そして、さわやかで透き通る声で返事をする彼の名前は(さとし)だ。


 傘から落ちる雨だれが肩を濡らす。そんな中、私はふと隣にいる聡の横顔を盗み見た。


「こうやって一緒に帰るのなんか変な感じだね」


 勇気を出して、微笑みながら声をかけると彼は少し驚いたように振り向いた。


「うん、たまには悪くないね」


 寒さで青白い頬をぱっと赤くしながら彼は笑顔で言った。


 私はそんな彼の純粋さと恋心を感じさせる可愛い笑顔が好きだった。


 だが、そんな穏やかな空気は突然引き裂かれた。

 背後から近づいてきた不規則な足音ーーその瞬間、隣にいた彼が前に崩れ落ちた。


「……っ!」


 傘が地面に転がり、彼の制服がゆっくりと赤く染まっていく。


 振り向くと、そこには刃物を持ったまま冷たい目でこちらを見つめる男の姿。


「に、げろ…」


 倒れた聡がかすれた声で言うが、私が動揺する間もなく、次の刃が振り下ろされる。


 その冷たい感触が脇腹を襲い、痛みが全身を貫いた。


「いやあぁぁ…!」


 ーー冷たい、熱い、熱い、熱い、熱い、痛い…


 私は手で傷口を抑え、後ずさろうとするが、足元がふらつき、視界がぼやけ、地面に倒れこんだ。


 刃物を持った男は無造作に傘を蹴り飛ばし、周囲の視線を気にすることもなく走り去っていった。


 周りにいた人々がようやく事態に気づき、ざわめきと悲鳴が響く。誰かがスマートフォンで写真を撮り、誰かが救急車を呼び始める。


 そんな騒動の中、痛みに耐え、横たわる彼に目を向けた。


「ごめん…わ、たし…」


 声を出そうとするたび、口の端々からゴポゴポと噴水のようにゲロが出る。いや、血塊だ。


 聡の手が微かに動き、私の指先に触れる。


「大丈夫だ…!いっしーー」


 かすれた声が雨音に混じり消えていく。


「ーーー!ーーー!」


 手足の感覚はすでになくなっていた。


 ただ、自分のお腹から内臓が出ていくような感覚だけが残っている。


 全身には警報が鳴り響く。そして、体はより長く生存するために機能を削っていく。


「ーーーー? ーーーー!!」


 愛らしい彼の声や、周りの雑音はもう聞こえない。


 ーー寒い、眠い


 いや、まだ死ぬ訳にはいかない。聡や、お父さん、お母さんにはまだ言ってないことが沢山ある。


 ーーまだ死ねない!


 せめて、死ぬ前にこれだけは彼に伝えておきたい。

 たとえ痛みが全身を襲おうと、残ったエネルギーを焼き尽くしたとしても…やらなければならない。


 ーーこれは私の最後の仕事なんだ!


 今にも抜け落ちる魂を、今にも眠ってしまいそうな全身を叩き起こし、最後の力を振り絞った。

 少ない言葉で思いを伝える。


「わ……は………こぉが……好きです」


 全身を包む冷たい雨が痛いほど全身を叩きつけた。


 そして、私の意識はそこで途絶えたーー。


最後まで読んで頂きありがとうございます!コメント、評価のほどお待ちしております!


Twitterの方でも感想の方、お待ちしております!

@PoziRaion

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ