第一章1 脳内痛み止め
私の名前は篠原蜜葉
まだピチピチの中学3年生15歳だ。突然だが、私が覚えている最後の記憶について話したいと思う。
それは確かーー。
針のように細かく、激しい雨が降る夜。
私は塾の帰り道に、二人で一本の傘を共有しながら、有名なべーカリーショップの前に来ていた。
「今日は店の外まで並んでるね!」
「うん、傘を持ってきてよかったよ」
私が雨にも負けない声で言うと彼は恥ずかしげに言った。
そして、さわやかで透き通る声で返事をする彼の名前は聡だ。
傘から落ちる雨だれが肩を濡らす。そんな中、私はふと隣にいる聡の横顔を盗み見た。
「こうやって一緒に帰るのなんか変な感じだね」
勇気を出して、微笑みながら声をかけると彼は少し驚いたように振り向いた。
「うん、たまには悪くないね」
寒さで青白い頬をぱっと赤くしながら彼は笑顔で言った。
私はそんな彼の純粋さと恋心を感じさせる可愛い笑顔が好きだった。
だが、そんな穏やかな空気は突然引き裂かれた。
背後から近づいてきた不規則な足音ーーその瞬間、隣にいた彼が前に崩れ落ちた。
「……っ!」
傘が地面に転がり、彼の制服がゆっくりと赤く染まっていく。
振り向くと、そこには刃物を持ったまま冷たい目でこちらを見つめる男の姿。
「に、げろ…」
倒れた聡がかすれた声で言うが、私が動揺する間もなく、次の刃が振り下ろされる。
その冷たい感触が脇腹を襲い、痛みが全身を貫いた。
「いやあぁぁ…!」
ーー冷たい、熱い、熱い、熱い、熱い、痛い…
私は手で傷口を抑え、後ずさろうとするが、足元がふらつき、視界がぼやけ、地面に倒れこんだ。
刃物を持った男は無造作に傘を蹴り飛ばし、周囲の視線を気にすることもなく走り去っていった。
周りにいた人々がようやく事態に気づき、ざわめきと悲鳴が響く。誰かがスマートフォンで写真を撮り、誰かが救急車を呼び始める。
そんな騒動の中、痛みに耐え、横たわる彼に目を向けた。
「ごめん…わ、たし…」
声を出そうとするたび、口の端々からゴポゴポと噴水のようにゲロが出る。いや、血塊だ。
聡の手が微かに動き、私の指先に触れる。
「大丈夫だ…!いっしーー」
かすれた声が雨音に混じり消えていく。
「ーーー!ーーー!」
手足の感覚はすでになくなっていた。
ただ、自分のお腹から内臓が出ていくような感覚だけが残っている。
全身には警報が鳴り響く。そして、体はより長く生存するために機能を削っていく。
「ーーーー? ーーーー!!」
愛らしい彼の声や、周りの雑音はもう聞こえない。
ーー寒い、眠い
いや、まだ死ぬ訳にはいかない。聡や、お父さん、お母さんにはまだ言ってないことが沢山ある。
ーーまだ死ねない!
せめて、死ぬ前にこれだけは彼に伝えておきたい。
たとえ痛みが全身を襲おうと、残ったエネルギーを焼き尽くしたとしても…やらなければならない。
ーーこれは私の最後の仕事なんだ!
今にも抜け落ちる魂を、今にも眠ってしまいそうな全身を叩き起こし、最後の力を振り絞った。
少ない言葉で思いを伝える。
「わ……は………こぉが……好きです」
全身を包む冷たい雨が痛いほど全身を叩きつけた。
そして、私の意識はそこで途絶えたーー。
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