表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

㉚ エピローグ

「ほら、見てごらん。面白いことをやっているよ」


 精霊界で再び暮らし始めて、2年が経つ。

 今、私は、精霊王の妻として、大勢の召使精霊に傅かれる贅沢三昧な日々を送っている。

 結婚するまでには、いろんなことがあった。精霊王が再び卵の姿に戻ったり、精霊宰相が力を取り戻してクーデターを起こそうとしたり、私が家出して神聖教国で聖女になったり。それから、帝国の黒髪の皇孫に追いかけまわされたりとか。

 まあ、そんなちょっとした障害を乗り越えて、私達は結ばれた。


 私の夫、青銀の髪を持つアスラン様の姿の精霊王は、水鏡の向こうを指さした。

 そこには、人間界の様子が映っている。エヴァン王国の宮殿の大広間だ。大勢の人が、紫色の炎を囲んで立っていた。


 以前は、天井まで燃えあがっていた炎は、半分の大きさになっている。

 先日、国王が亡くなった。酒を飲みすぎたせいだろうと言われている。何者かに怯えるように、うわ言を叫びながら、血を吐いて死んだそうだ。


 紫色の炎の前に立つのは、王冠をかぶった赤茶色の髪の女性。

 即位したばかりのカレン女王だ。隣には、女王の母の王太后と祖父のレドリオン公爵がいる。


 カレンは悲劇の女王と呼ばれている。結婚してすぐに、夫のアーサーが謎の病で死んでしまったからだ。何の病だったのか。髪は抜け落ち、目玉は飛び出し、死に顔は苦痛に歪んでいたそうだ。


 妊娠中だったカレンは、悲しみを乗り越えて、元気な赤子を産んだ。こげ茶色の髪と目をした女の子だ。その容姿は、なぜか彼女の護衛騎士によく似ているそうだ。


「今から炎の中に入るみたいだよ。あはは。楽しみー」


 アスラン様の顔をした精霊王は、意地の悪い笑い声をあげる。


 私のアスラン様は、そんな笑い方はしないわよ。


 横目で睨むと、精霊王はあわててアスラン様らしい知的な笑顔を作った。


「さあ、ショーの始まりだよ」


 水鏡の中で、女王は演説をしている。

 帝国に嫁ぐはずだった第一王女が失踪した。その賠償金を払うために、王国はさらに負債を重ねた。


 カレン女王が炎の中に入り、聖女の残した遺産を手に入れれば、全ては上手くいくはずだ。

 見守る貴族たちは、そんな顔をしている。


 カレンは紫の炎の前で一度立ち止まり、恐怖に打ち勝つように目を閉じた。

 そして、一歩目を踏み出す。


 その瞬間。


 建国の炎は、偽物の女王を焼き尽くした。

 悲鳴が上がる。


 大勢の人々が見守る中で、彼女は消滅した。


 女王を飲み込んだ紫の炎は、一瞬だけ大きく燃え上がり、それからどんどん小さくなっていった。


 泣き叫んで暴れる王太后。レドリオン公爵は、がっくりと膝をつく。

 

 やがて、小さくなった紫の炎は、ふっと消えた。



 そして……、

 国中に豪風が吹いた。




 建国女王によって作られた土地は変貌する。


 川は流れを止め、湖は枯れはてる。

 森は消滅し、乾いた砂が舞い上がる。


 結界の外と変わらない砂漠に戻っていく。




「助けなくていいの?」


 民の嘆きが、水鏡から伝わってくる。崩壊したエヴァン王国の民を、帝国人が奴隷として連れて行く。それを止められるものはもういない。

 レドリオン公爵家の者たちは、処刑された。不貞を行い、偽りの女王を産んだという理由で、暴徒化した国民に殴り殺された。建国の炎が消えたのは、カレンが王の血筋ではなかったからと。偽物の女王だったからだと。皆はそう結論付けた。




 ――この国の民を守りなさい。


 建国女王の叫びが耳に残っている。


「人のことは、人がするべきだわ」


 人の世の理に、精霊は手を出さない方がいい。

 自分たちの身は、自分たちで守るべきだから。


 建国女王のように、守ってあげるだけでは、彼らはどこにも行けなくなるのだから。


「それに、ここに残るよりも、奴隷になった方がまだマシかもしれないわ。とりあえず生きていけるもの」


 砂漠になったこの国には、作物は育たない。どこにも水がない土地で、力がない者が生きるのは難しい。

 奴隷になったとしても、運が良ければ、そこから這い上がってこられるかもしれない。才能を認められれば、帝国の市民権が与えられるそうだ。


 私の侍女だったマリリンには、ルリを通じて治癒石をたくさん渡した。

 それを売って、マリソル商会は、外国に移住して新しい商売を始めている。マリリンはきっと、どこに行っても上手くやっていくだろう。


「建国女王って、何だったのかしらね?」


 ずっと疑問に思っていたことを問うてみる。


「さあ? アスランの知識によると、女神の末裔の可能性が高い。この世界を作った慈悲深い女神の子孫だ。僕たち精霊を呼び寄せたのも女神かもしれないね」


 神々のなさることは良く分からない。

 この世界には、分からないことばかり。


 精霊とは、精霊界とは何なのかも、よく分からない。

 人間と精霊との違いについても。

 精霊界で100年以上も暮らしていた私はもう、人間とは呼べない者になっているのかもしれない。


 だから、あれほど守ろうとしたエヴァン王国の民たちが、どんな苦境にあろうとも、心底どうでもよくなったんだろう。

 精霊は、人間にあまり関心がないのだ。


 それに、私が本当に知りたいことは、たった一つだけ。


 私は隣にいる青銀の髪の青年を見上げる。

 私を見つめ返す紺碧の瞳が近づいてくる。

 どちらからともなく、口づけを交わし合う。


 この人は、私のアスラン様なの?

 アスラン様の魂を持っているけれど、それはアスラン様だと言えるの?


 ずっとその疑問を繰り返している。

 答えは出ないけれど……。


 精霊王は私を甘やかして、どんな願いも叶えてくれる。

 そして、毎日私への愛をささやく。


 私のアスラン様とは、違っていることも多いけれど。


 でも……。

 彼の腕にくるまれながら、私は愛される幸せをかみしめる。

 ここは、やっと手に入れた私だけの居場所。

 幸せな夢のような場所だから。

国王とアーサーの死の原因は、レドリオン公爵家か帝国かそれとも精霊か? 色んなところから命を狙われてました。

「私が生贄になった聖女よ!」って主人公に言わせてざまあする展開も考えたのですが、無知で愚かな民は、何も知らないまま滅んでいくのも良いかなと思って。もの足りなかったらごめんなさい。


最後までお付き合いくださって、ありがとうございました。よかったら下の★★★★★を押して行ってください。次回作の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 アスランが、精霊王でもあり、アスランでもあるけど、アスランと全く同じとは言えなくなってしまったところにはちょっともやもやしましたが。 まあフェリシティが幸せならなんでも良い…
[良い点] 完結おめでとうございます。もう少し読んでいたかったので残念ですが、とても面白かったです。鞭打ちしてきてたアスランもどきへのざまぁも、マリリンのその後も、気になってた内容は全部最終話に入って…
2024/05/27 22:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ