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⑱ 第一王女

 マリリンからマントを受け取り、裸を隠して会場を後にした。


 ああ、もう。恥ずかしい。

 予定では、もっとちゃんと準備してから証明するはずだったのに……。うっ、足が痛いったら。靴も燃えちゃった。


 急いで出て来たから、王妃の悔しがる顔をちゃんと見れてないじゃない。それに、カレンにも、炎に入れって言ってやればよかったかも。


 ドレスが消滅したのは、仕方ないけど、国宝の紫水晶のペンダントを燃やしたのは、もったいなかったわ。


 ああもう、どうして炎に入る前に、ちゃんと外さなかったの?! 悔しいっ。結構気に入ってたのに、うっかりしてた。もうっ!




◇◇◇◇◇


 パーティの後、本物の王女はどっちなのか議論になったそうだ。


 王妃とレドリオン公爵の主張が認められて、カレンは王女として迎えられることになった。レドリオン家の影響力が強かったからね。でも、ブルーデン家の主張もあって、私が廃嫡されることはなかった。建国の炎の中に入ることができるんだから、王族に間違いないって。


 だから、私が第一王女、カレンは第二王女という扱いになった。つまり、姉と妹みたいなものね。王妃もレドリオン公爵も私を追い出せなかったので、ものすごく怒っていたそうよ。


 でもね、レドリオン公爵の言い分はおかしすぎるんだけど。だって、公爵家の、たかがメイドに、生まれたばかりの王女を取り替えることができる? あんまりにも無茶苦茶な話よね。王妃の出産が突然で、あわただしかったとしても、医者や侍女が周りにたくさんいたんだから。 

 大勢の使用人の目をかいくぐって、赤子を入れ替えるなんてこと、ただのメイドにできっこないってば。それに、全く違う色をした赤子に入れ替えられて、誰も気が付かないなんてこと、あり得ないわよ。

 しかもね、今ごろになって、「実は本当の王女は帝国にいました」って連れて来るのは、あんまりにも都合がよすぎるって。


 王女の入れ替えには、公爵も王妃もみんなで加担していたはず。そうじゃないと無理だって、きっと口には出さないけど、思っているよね。でも、誰も指摘しない。


 レドリオン家の権力強すぎる。



 それと、入れ替わっていた人形姫、つまり私、はどこの誰なのか? って言うのも議論になったみたい。 


 王妃は薄汚い孤児って言ったけど、私が建国女王の炎の中に入って見せたから、そんなことを信じる人はいなくなった。だって、紫の瞳をしているだけでなくて、炎に入って生きてるんだもの。まぎれもなく王族の血をひくって証明されたから。


 先王の隠し子ではないかっていうのが、大半の貴族たちの見解みたい。まあ、ある意味正解なんだけどね。先王じゃなくて100年以上前の王だけど、その血を受け継いでいるから。


 母親は卑しい身分だとしても、紫の目を持ち、建国女王に認められている。それが、私。


 そうなると、王位継承権は、やっぱりフェリシティ王女にっていうのが貴族の半数の意見ね。残りの半分はレドリオン公爵派だから、正当な王妃の娘が継ぐべきって言ってる。国王の実の娘こそ、次の女王にふさわしいって考えね。



「王女様! すっごく格好良かったです! 建国女王の炎は王族を傷つけないって言うのは、本当だったんですね! すごいです! 感動しました!」


 マリリンは何度もそう言って、目をキラキラさせた。


「ああ、これで、だれも王女様のことを人形姫なんてバカにしませんよ。だって、伝説を本物にしちゃったんですから」


「ところで、あの後、カレンは炎に入らなかったの?」


 私が炎に入って見せて、本物だってことを証明したんだから。カレンにも同じことをするように周囲が期待したはずよね。


「それがですね。カレン様は怖がって泣き出したんです。なんか、火の恐怖症なんだって。それがなければ、自分も証明できるのにって」


「証明……そうね。混ざりもののね」


「え? なんです?」


 小さくつぶやくと、マリリンが聞き返したけれど、それには答えない。

 王族は紫の瞳を持つ。これは建国女王から続く決まりね。でも、カレンにそれが受け継がれなかったのは、きっと……。


「そろそろお茶会の時間ね。もう行くわ」


 ほの暗い気持ちを打ち消して、部屋を出る準備をする。

 アーサーとの茶会の時間だ。婚約者が断罪されているのに、庇いもしなかった薄情者とね。


 マリリンを後ろに連れて、部屋を出る。

 炎に入って、宝石を無駄にしてしまったり、恥ずかしい思いをしたりしたけれど、良かったこともあったわ。

 離宮の使用人が戻された。最低限の人数だけどね。そして、侍女がつけられた。


 貴族の侍女をつけるって言われたけど、それを断って、マリリンを推薦した。だって、どうせレドリオン家が私の様子を報告させるためにつける侍女でしょう? 信用できないわ。それなら、平民のマリリンの方がましよ。


 マリリンは突然の大出世に大喜びした。そして、アーサーとのお茶会に付いて来た。



「あ、やっと来ましたよ。おそーい」


 マリリンは小声でぶつくさ文句を言った。

 大幅に遅れたくせに、アーサーは、


「さっさと茶を入れろ。喉が渇いてるんだ」


 と私に命令する。


 マリリンがすっと出て来て、ぎこちない手つきで紅茶を入れる様子を、不愉快そうにアーサーは見てから、テーブルのクッキーをぼりぼり食べた。


「最近、あの果物が売れなくなったぞ! どうするんだ!」


 口からクッキーのかけらをこぼしながら、私に詰め寄る。


 マリリンが、毛虫でも見るかのような顔で、アーサーを見てから下がった。


「輸出が規制されましたか?」


 私の質問には、アーサーでなく、彼の従者が答えた。


「はい、帝国の貴族の間で中毒者がたくさん出たようで、売買が禁止されました。もう、果物は栽培しても、正規の手段では売れないでしょう」


「どうするんだよ。第二王女なんてやつが出てきて、ただでさえレドリオンに負けてんのに!」


 不機嫌そうにぼやきながら、アーサーはごくごく紅茶を飲んで、ばりばりとクッキーを口に詰める。


 その第二王女が出て来た時に、私の味方にならなかったくせに。むかむかする気持ちを抑える。彼には言うだけ無駄だから。代わりに、彼の従者の方を向いて発言した。


「果物が売れないのでしたら、飴を作って売りましょう」


「飴ですか?」


「はあ? 飴だと?」


不機嫌そうな顔のアーサーは無視して、この前ジンにもらった蜂蜜入りの飴を脳裏に思い浮かべる。


「ええ、果物を煮詰めてジャムにして、それを飴の中に入れるのです。あの果物の幸せな夢を見る力は、加熱することで凝縮されて強くなります」


「本当ですか?」


 従者が前のめりになって私の説明を聞く。


「はい。加工の手間はかかりますが、失業者を使えば、雇用の確保にもなりますし、それに、果物と違って、長期間保存ができ、持ち運びも楽になります」


「それはすばらしい! さっそく当主様に提案します」


 従者が糸目を細めてほくそ笑む横で、よだれを垂らしそうな顔でアーサーがつぶやいた。


「ジャムを飴で包むのか。うまそうだな」


「中毒性は果実の10倍ですよ。国民の口には入らないようにしてください」


 従者に厳重に注意する。彼は分かってますとうなずいた。


 そういえば、ブルーデン公爵は誕生パーティに出席していなかった。持病が悪化したと聞いたけれど。


「ブルーデン公爵様は、まだ病気が治らないのですか?」


 バリバリとクッキーをかじるアーサーの代わりに、従者が答えた。


「はい。近頃すっかり体が弱くなられて。誕生パーティにも出席できず、王女様が炎に入る姿を見られなかったと残念がっていました」


「おい、父上のために、もう一度炎に入って見せろ。いいだろう? 別に減るもんじゃないし」


 クッキーのかけらを口から飛ばしながら、アーサーがいらつくことを言う。


 あの炎に入っても、肉体は無事だけど、精神はかなり疲弊するんだから。それに、身に着けている物は、全部減るし。

 婚約者にドレスも宝石も送ったことないくせに。


 返事をする気にもならずに黙っていると、マリリンが大声で叫んだ。


「王女様! 誰か来ます! 赤色です!」


 皆で一斉に木立の向こう見る。


「あれは? 第二王女か」


 日傘を差した赤いドレスの少女が、護衛騎士を連れてこっちに歩いて来ている。王宮に住むことになったカレンが離宮に来るなんて、何の用かしら?


「お姉さま!」


 豪華な赤いドレスを着た「妹」は、にっこり笑って私に挨拶をした。


「お姉さま。ずっとお会いしたかったです。どうして王宮にいらっしゃらないの?」


 邪気のない笑顔で、嫌味な質問をしてくる。

 自分は王宮に部屋を与えられたのに、私は離宮に追いやられたままだと言いたいのね。

 今回の「妹」は、前回の妹と姿だけでなく中身も似ているみたいね。


「まあ、こちらがお姉さまの婚約者ね。とっても素敵な方!」


 カレンはアーサーに向けて、誰をも魅了するような微笑みをうかべた。


「あ、ああ」


 美女に弱いアーサーは顔を真っ赤にして、カレンを見ている。


「お姉さまがうらやましいわ。こんなにかっこいい方とお茶会ができるなんて。そうだ。私もご一緒していいかしら?」


「ぶっ」


 後ろでマリリンが小さく噴き出した。

 私は、振り向いて軽くにらみつけてから、カレンに返事した。


「椅子は二人分しかないのよ」


 断り言葉に、カレンは瞬時に涙を浮かべた。


「そんな……。ごめんなさい。わたし、アーサー様のお邪魔でしたか?」


 潤んだ瞳の美少女が、胸の前で手を組んでアーサーを見上げる。アーサーの視線が、カレンの豊かな胸の位置で固定される。


「い、いい……ゴクリ。いや、邪魔など……。そうだ。今日はカレン王女とお茶をしよう。王宮に来たばかりだから、俺が色々教えてやらないとな。おい、席を譲れ」


 カレンの大きな胸に魅了されたアーサーは、私に椅子から立ち上がるように命じた。

 涙にぬれたように光る魅惑の瞳、ふっくらとしたピンク色の唇。それから、とてもとても大きな胸。新しい王女はたちまち男性陣の人気者になった。アーサーも、その魅力にはあらがえない。あれだけ、レドリオンの赤茶色の髪をバカにしていたくせに。


「まあ、うれしい! アーサー様はお優しいんですね!」


 カレンは、私に会いたかったと言ったくせに、こっちを見もせずに、アーサーにお世辞を言い続ける。


 席を譲らされた私は、マリリンを連れて、この場をさっさと退席した。


 いや、べつに、全くいいのよ。むしろ、嫌な時間を引き受けてくれてありがとうって感謝してるくらいよ。

 果物の販売方法について従者に話ができたから、今日の目的は達成したし。


 でも、なんで、カレンは自分からこんな苦行を買って出るんだろう? アーサーとお茶会をしたいの? 本気で仲良くなりたいの? アーサーなんかと?


「ぷっ、あは、あはは」


 もう我慢できないと言うように、後ろを歩くマリリンが笑い出した。


「なんですかあれ? アーサー様が、か、かっ、かっこいい、ぶっ、あはは」


 しゃがみこんで大笑いしている。


「いや、たしかに顔はいいですよね。貴族はみんな顔が整ってますもん。でも、あのアーサー様って、中身はすっごく残念でしょう? それを知らないってのは、まあ、かわいそうすぎるー。いや、でも、でも、なんですか? 彼女、めちゃくちゃアピールがあからさま過ぎません?」


「マリリン。王女と公爵令息に対して無礼よ」


「いや、すみません。でも、アーサー様が優しいって……、ぶっ、あはは」


 アーサーは顔立ちは決して悪くない。それどころか、アスラン様に似ていて、端正な貴族的な容姿をしている。でも、表情が……。内面からにじみ出る知性のなさ、というかなんか湧き上がる卑しさが……。彼を知れば知るほど、とてもかっこいいとは思えなくなるのだ。


「カレン様は、フェリシティ様に対抗しようとしてるんですか? ちょっと、性格悪くないです? せっかく聖女フェリシティ様にそっくりな顔なのに、がっかりです」


「……ねえ、マリリン。あの肖像画は、レドリオン家が持ち込んだものでしょう?」


「ええ、そうです。そこは素晴らしいです。誰も見たことのない聖女様の肖像画を探し出すという偉業を達成するなんて」


「その、誰も見たことのない聖女の肖像画のモデルは誰?」


「え? モデルって? それは、聖女様でしょう?」


 うちの侍女は頭が悪いらしい。

 でも、頭の悪くない貴族たちはそれに気が付いているだろう。

 だけど、何も言わない。彼女が国王の娘なのは確かだろう。王族の顔立ちをしているから。100年前の妹によく似ている。ただ、紫の瞳を持たないだけで。


 彼女は私から次期女王の座を奪いたいのだろう。レドリオンは、彼女こそが正当な後継者だと思っている。王妃はいつも私をなじっていた。本当は、そこはカレンの場所だと。


 でも、違うのだ。

 唯一の後継者は私だ。たとえ、私が侍女が生んだ私生児だったとしても。


 だって、カレンは純血種ではないのだから。

 カレンが女王になれば、建国女王の炎は消えてしまうから。

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