表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/30

⑫ 紫の目の王

「おい! おまえ。なにをのんびりしてる! 会議に出席しろ!」


 部屋で本を読んでいると、お茶会の日でもないのに婚約者がやって来た。乱暴にドアを開けて、私しかいない部屋に勝手に入ってくる。後ろに、申し訳なさそうなふりをした従者がついてきている。


「本なんて読んでる場合か! レドリオンのおまえの祖父が、紫の目以外でも王になれるって法案を通そうとしてるぞ!」


 バンッと大きな音を立てて、アーサーはテーブルを叩いた。

 ルリが盗って来てくれたばかりの紅茶がこぼれた。


 アーサーは悪びれもせずに、アップルパイをつかんでむしゃぶりつく。


「なんだ、これうまいな。離宮の料理人もなかなかやるな」


 それを作ったのは、レドリオン家の料理人ですよ。


 心の中で訂正してから、アーサーに向き合う。

 ああ、大好きな青銀の髪に紺碧の瞳……だけが似ている欠陥品。


「紫の目を持つ者しか王位につけないのは、建国女王からの決まりです。誰もそれを変えられません」


 私は静かに告げる。

 紫眼を持たない者が王位についたならば、この国は終わるだろう。


「そんなの分かんないじゃないか。まあ、俺の親父がその場を収めたがな。何しろ、国王の娘はお前ひとりだ。いくら評判の悪い人形姫でも、代わりがいないんじゃあ仕方ない」


「レドリオン公爵は、なぜ孫のあなたを冷遇するのですか?」


 いつもは黙っている従者が、アーサーの後ろから質問した。


 私はアーサーの顔色をうかがってから、それに答える。


「分かりません」


「しかし、王妃様も娘のあなたに会おうともしない。国王も。頭が足りない人形姫だから冷遇されるのかと思っていましたが、そうでもないようですし」


「! おい! 無礼だぞ! これでも王女だ!」


 アーサーが従者をどなりつけた。

 自分では私のことを、うすのろだとかバカとか貶めるくせに、身分の低い者からの暴言は許さないのがアーサーだ。


「しかし、まあそうだな。なんでおまえは、こんな離宮に閉じ込められているんだ? おまえは唯一の王女だろう? それに、頭はともかく、見た目だけならば、金髪に紫の目で、これぞ王族の色だ。特に目の色は、国王よりもずっと紫で……」


 そこまで言ってから、閃いたと言う風にアーサーはポンと手を打った。


「分かったぞ! 国王はおまえに嫉妬しているんだ! その紫の目だ。おまえの方が王族らしい色だからな!」


 彼は「なるほど、なるほど」と自分で納得している。


「もしも陛下がそのようにお考えなら、紫眼以外が王位を継ぐ法案も通る可能性があるかと……」


 従者が糸目を細めながら言うと、アーサーは「全くだ」とうなずいた。


「劣等感って、ほんっと、どうしようもないな。でも、おまえの方が紫だからって気にすることはないのにな。人気者の聖女フェリシティと同じ色合いだけど、聖女の美貌には程遠いじゃないか。その子供のような体形も含めて、おまえなんかをうらやましがる必要はないぞ。まったく」


 いちいち腹の立つことを言わずにおけないのが、アーサーだ。彼の話は、右から左に流して、私は従者の最初の質問の答えを考えた。


 レドリオンのやりたいことは分かる。

 本者の王女のカレンを王位につけたいのだ。入れ替えた私のことを王妃は心底憎んでいる。自分の娘の場所を盗られたとばかりに、私を虐待した。


 人望のない人形姫のかわりに、本物の王女を帝国から帰国させて王位につける。


 でも、どうやって?

 紫の目を持たないという理由で、私とカレンは入れ替えられた。王族の印を持たない娘を、どうすれば王女に戻せるの?


 広間で燃える建国の炎を脳裏に思い浮かべる。


 あの紫の炎は、建国女王の血が王族から絶えれば消えてしまうのに……。



 ◇◇◇◇◇


 騒がしい婚約者が帰った後、静かになった部屋で本を読む。

『帝国語の発音と基本会話集』

 美しい響きの我が国の言葉と違って、帝国語は鼻濁音が続く汚い言語だ。しかも、舌を突き出すように発音するので、つばが飛んで見苦しい。


『ワダ……ワダズ……ワデ?』


 小さな声で練習する。これで合ってるのかどうか分からない。帝国語を教えてくれる人はいないのだから。


 精霊界で100年の間、帝国の本を読みつくした。分からない言葉は、自分で辞書で調べた。だから、帝国語をすらすら読むことはできる。

 でも、会話は全くできない。

 なぜって、精霊界には私しか人間がいなかったから。もちろん、帝国人もいない。

 そして、人間界に戻って来て、王女として入れ替えられた後でも、人形姫に家庭教師はつかなかった。


『アアダ……アンデ……アーダ?』


「ああもう! わかんない!」


 イライラして、本を投げつけた。何もない部屋の壁にあたって、分厚い本がバタンと落ちる。


 いっそのこと、ルリに転移で帝国に連れて行ってもらって、現地で会話の修行をしてくる?


 そんな考えが浮かんだけれど、すぐに打ち消した。


 魔物みたいな人が大勢いる国よ。

 怖いわ。そんな所に行きたくない。


 帝国と商売をしているマリリンの両親なら、帝国人の良い家庭教師を紹介してくれるかしら?


 廊下から聞こえるマリリンの鼻歌を聞きながら、そう思った。


 最近、手下に何も命じてないし、少しは役に立ってもらいましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ