8 平和な世界
平和な日々が続く。
害悪になる存在を人類から排除して100年。
当時を知る世代も少なくなった。
大半が寿命を向かえている。
一部は拡大した能力のおかげでまだ長い余命を保ってるけども。
人口は既に新世代が多数になっていた。
この新世代は概ね穏健な者達が揃っていた。
他人に危害を加えるのを良しとするようなものは少ない。
とはいえ、さすがに皆無とはいかなかった。
それでも大きな問題が起こる事はほとんどない。
そういった存在は、確認され次第処分されていく。
帰還者が手を下す事もあれば、治安維持の警備機構の者達が処断をする事もある。
だが、それ以上に圧倒的に多いのは、実の親による処分だ。
親も大概が被害者だった過去を持つ。
こうした者達は悪人悪党に容赦がない。
これが実の我が子であってもだ。
親であっても我が子をかわいがるわけではない。
これが悪い意味で出ると毒親、育児放棄、児童虐待になってしまう。
しかし、この逆の場合もある。
我が子が害悪をまき散らす悪鬼であれば、迷わず潰すというように。
我が子といえども常に愛情をもって接するわけではない。
駄目なら駄目でさっさと処分する。
下手な情けをかけると害悪が周囲に蔓延する。
新たな被害者を発生させる。
それはどの親も望むところではない。
ならば、我が子であってもさっさと処分をする。
こうなる以前だって、親子の縁を切る、勘当するなどという行為があった。
それがより強く出てるだけである。
駄目な子供は親とて手の施しようがない。
ならば、問題になる前に処分する。
当然といえば当然であろう。
むしろ、我が子だからと身びいきする方がおかしい。
ただ、これだと問題が出て来る。
まだ悪人悪党がいた時代を知る者達は良い。
実際に被害にあった者達は実体験として何が問題かが分かる。
だが、悪人悪党と接した事がない新世代には何が問題か分からない。
知識や情報としては伝えている。
しかし、実体験がないからどうしても理解しきれない事がある。
「何がそんなに問題なの?」
大半の新世代が抱く感想だ。
これは仕方が無い。
ただ、これがいきすぎて、
「そこまでやるのは可哀相じゃないかな?」
こう考える者達も出てきてしまう。
人としての思い遣りやいたわりの心があれば当然こうなるだろう。
しかし、これではいけないのだ。
悪さをする連中を許すというかつての愚考が繰り返されてしまう。
そこで、新世代用の教育が必要になる。
幸い、その手段は幾つかあった。
まず、発展を続ける科学を用いる方法。
これによるVR体験がある。
脳内に直接架空の記憶を見せる方法だ。
痛みや苦しさも架空の世界で体験出来る。
これにより、悪人悪党がどんな事をするのかを知る事が出来る。
科学に頼らずとも、超能力を使う事もある。
精神に直接作用する能力を使い、頭や心に悲惨な体験を直接伝える。
科学のVRよりもはっきりと体感出来るため、こちらの方が有効な事もある。
ただし、あまりにも強烈に心に作用するので、心の傷も出来やすい。
そうなっても治療方法はある。
しかし、治療が必要になるほど深い傷を追わせるのも問題だ。
なので、この方法は必要な場合だけ用いられる事が多い。
よりはっきりと体験してもらうために、悪人悪党のいる場所に放り込む事もある。
かつて行われていたという刑務所体験のようなものだ。
凶悪犯の収容されてる刑務所に悪ガキを連れていき、本物の悪党にもんでもらう。
そうする事で後世を促すというものだ。
これと同じ事を新世代にさせる。
目に見える所からは消えたが、悪人悪党が消滅したわけではない。
魔力結晶生産のための器具としてまだ大量に生きている。
消耗が激しいので世代交代は早いが。
それでも、問題のある人間は生き残ってる。
こうした連中は生まれてすぐに自我などを破壊される。
人間としての人生を送る事なく、魔力結晶を生産するためだけに活動を続ける。
だが、何人かは教材として普通に生まれ育つ事もある。
こうした者達は、離れ小島の施設の中で人生を過ごす。
外に出る事もなく、赤児から老いて死ぬまでを。
与えられる食料と設置された家屋で。
同じように収容されてる者達と共に。
この絶海の孤島の中で、問題をおこす者達は相応の人生を送る。
常に争いが絶えない場所で、安息など一切無い人生を送る。
とはいえ、それが不幸というわけではない。
そんな状況を好む者達がほとんどだ。
争いの絶えない日々を楽しんでる。
そういった場所に体験学習として新世代が放り込まれる事がある。
たいていは外部から観察するくらいだが。
必要とされれば、あるいは希望をすればこんな場所に入ることも出来る。
そこで実際に悪人悪党がどういうものかを実際に知る事になる。
こうした教育を経て、ほとんど全てのものが悟る。
なぜ親や祖父母の世代が問題をおこす者を処分したのかを。
「アレは駄目だ」
どうあっても救えない者達。
想像もしてなかった者達がこの世にはいるという事を。
「一緒に暮らせないよ、あれじゃ」
体験学習を終えた者達はほぼこのような事を口にする。
こうして何が悪いのか、何が問題なのかを新世代も知っていく。
そして、問題を拡散しないようにしていく。
親や祖父母達の世代の苦労を無駄にしないために。
安全な場所をこれからも守って保つために。
無駄な騒動は新世代も望むところではない。
こうして新生代にも何が問題なのかが伝わっていく。
悪人悪党を決して受け入れないようになる。
そんな事をしたらどうなるのかを察していく。
「ああするしかないんだな」
魔力結晶の製造器具として使う。
それしか活用方法がない事も知る。
こうして新世代は新たな社会を継続・継承するようになる。
それを見て、帰還者は胸をなで下ろす。
変な仏心を出す者がいない事に安心する。
そんな世の中を帰還者は長く見守る事になる。
もともと隔絶した能力を持っていた。
このため、寿命も長くなっている。
一般的な人間の数倍は生きる事が出来る。
魔力結晶によって生命の活力を得る事も出来る。
これが寿命を更に長く安定したものにする。
そんな帰還者は何世代にも渡る人類のその後を見つめる事になる。
世代を経るごとに人類は更に発展。
科学もそうだが、超能力も誰もが当たり前に使うようになる。
問題のある人間が生まれる事は少なくなっていく。
世代を経て、問題のある部分が切り捨てられていったからだろう。
問題ない、まともな人間だけが生き残っていく。
希に問題をおこす要素をもつ者も生まれる。
だが、そういった者達は即座に処分される。
それを免れても、魔力結晶生産器具になる。
世の中に悪影響を与えることはない。
そして文明は魔力結晶によって支えられていく。
汚染の無いクリーンエネルギーの魔力結晶。
これが人類の生存圏を支えていく。
そんな人類は宇宙に進出。
更に霊界といった分野にも踏みこんでいく。
人類文明はあらたな段階に突入しようとしていた。
これを成り立たせたのは、争いのない平和な世界である。
だまし合い、足の引っ張り合いはなく。
暴言や罵詈雑言もなく。
パワハラ・モラハラその他様々な嫌がらせもなく。
淡々と平穏な日々が続く。
こんな中であるからこそ、人々は持てる本来の能力を発揮できる。
継続的に積み重なっていく成果。
途切れる事の無い発展。
これが文明を底上げしていく。
発展の土台を作っていく。
足場が出来上がっていく。
そうして、より大きな飛躍が出来るようになる。
邪魔する者がいない環境が、安寧が働きやすい場所を作っていく。
そんな場所が文明を押し上げていった。
発展が発展を呼び、更なる発展にいたっていく。
それを見て帰還者はするべき事を終えたと思った。
もう大丈夫だろうと。
ここまでで帰還者は数百年に及ぶ歳月を生きていた。
寿命がのびてるとはいえ、そろそろ限界が来ている。
それでも人類の幾末が気になっていたが。
周囲の状況を見て、自分が関わる必要もないと感じ取った。
「もう十分だな……」
するべき事、したい事。
それらは全てこなした。
そう思った帰還者は長い人生を終えた。
霊魂が肉体から離れていく。
意識そのものになっていく帰還者。
そんな彼は己の魂で直接見る。
穏やかでゆったりとした地球を。
漂う気が、オーラが示している。
安寧と発展を。
その一部には濁ってよどんでる部分もあるが。
それは悪人悪党を閉じ込めてる場所だ。
そこだけはどうにもならない。
だが、それが拡散してないのが幸いだろう。
全体でみれば、地球は穏やかな健やかさに包まれている。
それを見て帰還者を飛び立っていった。
宇宙へ。
どこまでも澄み渡る、穏やかな波動に満ちた空間へ。
【あとがき】
これで終わり。
報復・復讐というのはこれくらいやって欲しいなと思って書いてみた。
少しでも楽しんで貰えればありがたい。
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