6 なぜというのはなぜなんだ? お前らがやらかした事が原因なのに
「どうして……」
最後の最後、その者がもらした言葉はこれだった。
ある日、突然やってきた脅威。
人の形をした悪魔。
そうとしか言えない存在が彼女の国にやってきた。
そいつは目の前で多くの人間の動きを封じていった。
何故か分からないが、そいつが出現した途端に体が動かなくなった
他の大勢の人間もだ。
例外的に何人かは自由に動いていたが。
それらは動けなくなった者を徹底的にいたぶり始めた。
身動きがとれなくなった彼女も例外ではない。
近くにいた自由に者達。
それらが一斉に彼女に襲いかかってきた。
手に鉄棒をもって、石を持って、その他武器になる何かをもって。
何をする! ────彼女は胸の中で憤りを叫んだ。
もちろん、それはふざけた思いだ。
彼女は散々他人に危害を加えてきた。
表ではよい子を演じて、裏で他人を甚振って。
それは自分より美しい娘だったり、気が弱い、大人しい子だったり。
そういった者達を徹底的に甚振った。
あるいは自分の言う事を聞かなかった者達。
「それはさすがにおかしいんじゃないか?」などと諫めた者達。
そういった者も甚振っていった。
(私の言う事に逆らうなんて!)
それは彼女からすればありえない暴挙である。
この世の全ては己の意のままになるもの。
そうでなければおかしい。
……というのが彼女の考えである。
よくぞここまでワガママで自分勝手になれるものである。
だが、これが彼女の持って生まれた性格である素質である。
こういう人格の持ち主なのだ。
生活環境のせいでこうなったわけではない。
遺伝として継承してきたものだ。
親も大なり小なりこういった性質を持っている。
それが彼女の場合より強く発揮されてるだけだ。
環境のせいというならば、こんなワガママな自分勝手さを更に増強させた。
そういう家庭環境であり、周辺環境の中にいた。
だからといって、全てのが彼女以外のせいという事はない。
非道な行為を平然と行えるのは持って生まれた性質のせいである。
他でもない彼女自身のせいである。
そんな彼女が行ってきた事。
その報いを受ける時が来た。
ただそれだけの事である。
もちろん、事を起こしてるのは帰還者だ。
訪れた国で問題をおこしてた連中の頭の中を操作。
体が動かないようにした。
そして、まともな人間に自由と力を与えていった。
そうして復讐と報復の時が訪れた。
力を得た者達は復讐を開始した。
これまで出来なかった反撃をしていった。
加害者への報復。
体を痛め付け、芽を潰し、腹を割き、手足を粉砕し。
それから治療をして元に戻し。
更に気が済むまで痛め付ける。
いるならば親兄弟に子供に親類縁者も同じようにしていった。
いつも共に行動してる友人知人仲間に同類などもだ。
取り巻きといえる者達の親兄弟に子供なども処分していった。
「なにを……す……る」
時折もらす声。
洗脳がたまに緩むときがある。
その時、加害者は自分を痛め付ける者達をなじる。
「こんな事を……」
「うるせえ」
その声は叩きつけられる打撃で遮られていく。
「お前がやってきた事だろ。
やりかえして何が悪い」
「…………」
黙って殴られる加害者。
彼女はもちろん何も言えないのではない。
言葉を口にする余裕がないだけだ。
だからといって憤りが消えるわけでもなく。
むしろ、痛みが重なるごとに憎悪は大きくなる。
「ふざけんな」
そんな胸の内を見透かされ、更に報復が重なっていく。
「お前達は思ってるんだろ。
強い奴がのさばって何が悪いって。
じゃあ、構わないだろ」
そういって死ぬ寸前まで痛め付けていく。
そこで治療・回復をさせて、更に体を粉砕していく。
「今、俺たちが強い。
強いから何をやってもいい。
お前の考えならそうなるな」
「ふ……ざ……け…………」
ぼこっ
何か言おうとした彼女の口がアッパーによって粉砕される。
「ふざけてんのはお前だ。
自分で言ってる事、やってる事くらいしっかり全うしろ」
自分がやるときは良くて。
他人がやるのは許さない。
──そんな事、認められるわけがない。
「お前の望んだ通りだ。
弱肉強食。
今まで、俺たちは弱かった。
だから甚振られた」
殴り、蹴り、手にした武器で加害者を粉砕していく。
「そして今、俺達は強くなった。
だからお前らを甚振る。
お前の望んだとおりだ」
体が粉砕され、息も絶え絶え。
だが、またも体は治される。
そして、容赦のない攻撃が加えられる。
「安心しろ、最後は殺してやる。
だが、今じゃない」
そう言って被害者達は復讐を続ける。
これまでの恨みを、痛みを少しでも解消するために。
「あと、お前の親兄弟も。
ガキも殺してやったから」
そう言って、加害者の親兄弟の首を転がす。
それを目にした加害者の女は気が狂いそうなほど憤った。
「子供な」
まだ10歳にもならない子供達。
その首も転がってきた。
「生かしておかない。
お前の血を引く奴も。
お前と同じ血を流す奴も。
全員殺す。
根絶やしにする。
二度とお前のような奴は発生させない」
病原の根絶。
その為に被害者は一切の容赦をしなかった。
その結果である一族の首。
それを見た加害者は木が触れたように叫び続ける。
もうまともな思考はない。
ただ、なぜこんな事をするのかと心の片隅で思った。
まだかろうじて働いてる思考能力がそんな疑問を抱いた。
理由など簡単だ。
加害者の女が悪い。
やらかしたのが悪い。
ただ、そんな事に思い至る事もない。
ただただ彼女は自分と一族に起こった事に疑問を抱いた。
なんでこうなったのかと。
彼女は最後の最後まで自分が悪いとは思わなかった。
やって当たり前の事をやってきたとしか思ってない。
反省など出来るわけもなかった。
たとえ何が悪かったのかを教えられても理解出来ない。
なにせ、悪いと思ってないのだ。
他人を甚振る事を、傷つけることを、詰ることを。
それは被害者も分かってる。
加害者の女は何も分かってない。
何が悪いのかも分かってない。
善悪が分からないのだ。
この区別がつかないのだ。
だから悪い事をしてるという意識もない。
それどころか、今の状態を一方的に殴られ甚振られてると受け取っている。
そんな彼女の抱く気持ちは一つ。
それは最後にもらした言葉にもあらわれる。
「どうして……」
最後の最後、かろうじて体の自由を取り戻した時。
加害者の女がもらしたのはこれだけだった。
口だけではない、意識も心も同じ事を思っていた。
言行一致した裏表のない声。
それが被害者達から容赦や憐憫を奪っていく。
「駄目だな」
「ああ」
「こいつ、最後までこうだったな」
そう言って被害者達は加害者を殺していった。
魔力結晶の生産器具にするという方法もある。
だが、加害者がそうやって少しでも長生きするのが許せない。
少しでも早く消滅して欲しい。
そう求めた被害者達は、躊躇う事もなく加害者達を処分した。
魔力結晶に変換して。
「難しいもんだな」
被害者の一人がぼやく。
どんだけ痛め付けようとも、やられた事が消えるわけではない。
償わせようにもその方法は以外と少ない。
被害者が満足できる報復はなかなかないものだ。
だから、せめて霊魂ごと消滅するように。
二度と輪廻転生が出来ないように。
そうして今後二度と被害を発生させないようにするしかない。
やらかした事の償いのためではなく。
二度と問題が起こらないように。
そうするくらいしか出来る事はなかった。
もちろん、出来るだけ長く苦しめるのも良い。
それはそれで溜飲が下がる。
だが、苦しめてる間生きてるのも腹が立つ。
結局、さっさと処分していく方が幾らか気分が晴れる。
加害者は本当に鬱陶しい。
処分の時でさえこれほどに面倒をもたらすのだから。
存在そのものが害悪というしかない。
せめてもの救いは、処分すれば二度と問題が起こらない。
これだけである。
それすらも今まではろくになされて無かったのだ。
ようやくなされるようになった加害者の処断。
それをもたらした帰還者は、地球人類を害悪から救っていく。
もう起こった事は覆せないけど。
せめて今後は二度と問題が起こらないように。
決して許しはしない。
許しは悪の利益である。
どんなに悪い事をしても、どれだけ危害を加えても。
許されるなら悪事を働いた方が利益になるのだから。
だから彼等は決して赦さなかった。
ただ、それすらも難しいのが現実だった。
「やってらんねえな」
加害者を抹消してもやるせなさが残る。
しかし、こうするしかない。
だからこそ、許す事なく処分した。
これだけで納得するしかなかった。
「せめてこれからは良い時代にしないと」
これから生まれてくるまともな者達が悲惨な目にあわないように。
そうする以外にやれる事はなかった。
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