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運命の出会い




『貴族学校カンパネラ』が始まる。

いまいち実感がないまま、私はのほほんと入学式を終える。


レイヴンはクラスメイトだ。

もちろん学校側が手を回しているけれど。


「レイヴン、学校では執事の仕事をしなくてもいいのよ?」


一応気遣っておくけれど、レイヴンは固辞した。


「いえ。多大な恩を返せそうにありませんから。せめてご当主様とローゼリア様に礼をしたいのです。」


レイヴンはどうやらやりがいを感じているらしい。

私自身、身の回りのことをやってもらうことになれてしまって、駄目なお嬢様になっている気がする。


それでも、そろそろ執事を増やした方が良いと考えて、お父様には提案しておいた。

これまでもグレイグに強いてきたし、レイヴンも今はワンオペ状態。

シフト制で休みが取れるよう、考えた方が良いと思う。


「レイヴンったら…。でももう少し自分の幸せをもっと追いかけて良いのよ。休みとか。」


せっかく貴族の家の子になったのだから、色々やりたいこともあるだろう。


「レイヴンも貴族の息子なのだし、縁談とか上がっている頃?」


「そうですね…自分には恐れ多いことです。」


16歳になったレイヴンは、すっかり大人びてきた。

目の下のくまをとって、前髪をもう少し切ったら、ただのイケメンだ。

でもそれをしないのは、本人にとっての戒めなのだろうか。


(自分の幸福を、追いかけていいのに。)


私はそうしようと思っているし、不思議だとすら思う。

悪役令嬢に生まれたって、罰を受けたいとも幸せを諦めたいとも思わない。


けれど、もしかしたら、レイヴンにはどうしていいか分からないのかもしれない。

ご飯を食べれるだけで、彼にとっては幸せで、それ以上の願望が、まだ無いのかもしれない。


(あの頃のルチウスだけじゃない。前世の私も、恵まれてたのかも。)



ご飯を食べれる。

幸せになりたいと思える。


それが当たり前のことじゃない人もいるなんて、全然分かっていなかった。


「ローゼリア様、少し歩きませんか?」


私のせいで、気を遣わせてしまったらしい。

素直に頷いて、私は立ち上がった。



◇◇◇◇





廊下を歩いていた私たちは、何やら笑い声と叫び声を聞く。


「行ってみましょう。」


人だかりになっている方に向かうと、何やら口論をしているらしかった。

男3人と、女の子だ。


「やめて!返して!」


「平民がこの学校に通うなんて恥だ!」


「返して欲しかったら退学しろ!」


随分としょうもないいじめだ。

いじめている側は貴族ではあるらしいが、顔に覚えもない程度には下の下。

どうやらまともな貴族教育を受けていないらしい。


往来で絶叫すること自体が、陰で何と言われるとも限らない。


すると、人だかりの中から金髪の背の高い生徒が出てくる。

それに気づいた周りが、さながらモーセの十戒のように道を拓く。

男の良く通る声が、その場を支配する。


「その手を放せ。このようなみっともないこと…貴族として許されると思うのか?」


「お!王子!このような争いを聞かせてしまい申し訳なく!」


「…ふん。二度とこのようなことを繰り返すな。さっさと行け。」


それに従って、3人は脱兎の如く逃げ去った。

残されたのは観客とお姫様だけ。


しかし、王子様の怒りは収まらないらしい。

理不尽にも、今度はこちらを睨みつけくる。


「見ている者も同罪だ!誰も止めに入らないのか!」


ルチウスはこちらを指す。


「お前はバーネット家の娘だろう!バーネット家としてあのような場で何もしないなんて恥ずかしくないのか?この場でも特に権力があるのに、何故助けない。他の奴らも同罪だ!」


名前を覚えられまいと、観客は次々と逃げ出していく。

大所帯が去っていくことに、ルチウスは驚愕を浮かべ、尚も不機嫌になる。


(ああ、逃げ遅れた)


睨みつけられていて、去れなかったというのが正しいけれど。


「おい、何か言ったらどうだバーネットの娘!」


さては私の名前を知らないらしい。


「…お言葉ですが、私は来たばかりです。声をかける前に王子が現れましたわ」


嘘ではないけれど、ルチウスは不審な目を改めない。

少女漫画のヒーローというのは、ヒロイン以外の視点で見ると、結構嫌な奴だったりする。


ローゼリアは一体これのどこに惚れ込んだのだろうか。

これ以上巻き込まれたくない私は、颯爽と去ることにする。


「これからはカンパネラ様に王子が着いてあげればよいと思いますわ。そうすれば絶対にいじめられることもありませんし。名案だと思いますわ!」


言うだけ言って、レイヴンとすぐに立ち去る。

第1話の名シーンが始まるのだから、邪魔者は退散するに限る。


カンパネラはルチウスの偽の婚約者になるのだ。

そして始まるラブコメ。


青春ですねえ。



◇◇◇◇



「…ローゼリア様は、縁談を避けていますよね?どうしてですか?」


バーネット家の娘が16歳にもなって婚約者が居ないというのは、少しマズいのは事実だ。


「どの縁談もピンとこないの。」


そもそも、レイヴンの方がイケメンだし強いだろうし。

彼もまた原因の一つな気がしてくる。


転生した日はあんなに幸せになる!とか意気込んだのにこの体たらく。

素敵な相手とかよりも、今はこの平穏が続けばそれでいいと思っている。


「運命を感じないの。」


レイヴンは首をかしげる。


「でも、探されていないですよね?アテがあるんですか?」


これから少女漫画の登場人物と出会っていく。

グウェンや他のサブキャラを好きになれたらいいのかもしれない。


「まあ、そんな感じかしら」


彼らに振られたら、行き遅れ待ったなしだけど。

お父様なら喜んで受け入れてくれると思う。


レイヴンは心配そうにこちらを見ている。

この主大丈夫か?という感じらしい。


――明日からレイヴンまで縁談を持ってくるようになったどうしよう。

私はこっそりと溜息を吐いた。


◇◇◇◇


「おはよう。グウェン」


「おはよう!どうしたの?会いに来てくれたのかな?」


ここは裏庭の花壇。

グウェンはここでよく、絵を描いている。

それが趣味なのだ。


「ええ。話したくなって」


レイヴンに縁談の話を突かれたから、何となく話しに来てみた。


「それは嬉しいな。そうだ、今日は君の絵を描くよ。でもすぐには書き終わらないから、たまに来てくれる?」


「もちろん。完成が楽しみだわ」


グウェンとも、もう随分長い付き合いになる。

何度もお茶会に参加しているし、交友も続いている貴重な友人だ。



「ねえグウェン、もし私が行き遅れたら貰ってくれる?」


「うん、いいよ」


傍から見たら、私たちは良い空気かもしれない。

でも、そうではない。

それを、私たちは共有出来ている。


『貴族学校カンパネラ』で、グウェンは叶わない恋をしているキャラだ。

5つ上のいとこに恋をしていて、それをずっと諦めきれない。

だからこそ、平民との叶わぬ恋を諦めかけるルチウスを、まるで自分のことのように支える。

そんなキャラクターだ。


だから、これは私たちにとっては単なる軽口。

言いよる。みたいに肩を叩いてくるグウェンに、良い友人を持ったな、なんて笑えてくる。


私も彼のように、誰かを強く思ったりする日が来るだろうか。


◇◇◇◇



新しい執事の話が、まとまりつつある。

すごく時間がかかったけど、やっとレイヴンに休暇をあげられそうだ。


「レイヴン。そろそろ休暇が欲しくない?執事を増やして、シフト制にしてもらおうと思うの。そうしたら休みを作れるでしょう?」


「気を遣わせてしまいましたね………」






「レイヴンのためだけじゃないわ。ご両親に挨拶してあげて欲しいの」


レイヴンは少し悲しそうな顔で、微笑む。


「ありがとうございます。そうさせていただきます。」



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