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変化していく日々



12歳にもなると、レイヴンの成長はめざましかった。


「ローゼリア様、お茶が冷めてしまいますよ」


見慣れたくせっ毛の黒髪と、目の下のくまが視界に入る。

レイヴンは今、私の執事をしている。


教育を受け始めてからたった2年ほどだというのに、飲み込みが早いらしく、一端の執事として覚醒している。


お父様にとっても丁度良かったらしく、トントン拍子で話が進んだ。

私が転生する前のローゼリアはグレイグさん以外を嫌がり、まとまらなかったらしく、その結果があの騒動だ。

娘に嫌われずに護衛を増やしたかったのだろう。


「…剣術の練習は大変そうね…」


私のせいで、勉強だけでなく護衛としての技能までやらされているらしい。

それも将来この家を出た時の役に立つだろうけれど、レイヴンからしたら余計な仕事をさせられている。


「いえ、それほどでもありません。」


レイヴンはいつも通り、冷静に返す。

初めてあった頃とは違い、教育を受けてからはすごく大人びている。

クールで、スマートというか。


「…レイヴン、ありがとう。」


入れてくれたお茶は、すごく美味しかった。


◇◇


15歳になる。

少女漫画が始まる1年前だ。


「考え事ですか?浮かない様子ですが…」


心配そうな表情に、何だか嬉しいと思う。


レイヴンとは長いもので、もう5年の付き合いだ。

クールで真面目な部分が無くなったわけではないけれど、昔よりは笑うところを見れるようになった。


「…大したことじゃないわ。気にしないで」


レイヴンは、いつの間にか随分背が伸びた。

きっとちゃんとした食事をとっているからだと思う。

肉付きも、あのころとは全然違う。

今は私よりも細いなんてことは無い。


「そろそろルチウス様のお茶会よね」


「ええ。お気をつけください。どうやら…気難しい方のようですから」


そういえば、ローゼリアが初めて出会った時、ルチウスは心を閉ざしていた。

平穏にお茶会が終わるのを祈るばかりだ。


◇◇◇◇



「ローゼリアですわ」


一応ルチウスに挨拶するものの、返事は無い。

内心、苦笑する。

原作のローゼリアがルチウスのどこに惚れたのか分からない。

何故なら、今のルチウスはまるで抜け殻だった。


信じる者に裏切られ、誰も信じられなくなっている人。

可哀想な気もするけれど、惚れるのは無理があるだろう。


「それでは、失礼いたしますわ。」


私はスルーして、レイヴンのもとに戻る。

触らぬ神に祟りなしだと思う。



「返事はありませんでしたね…。誰の声も届いていないようです。」


「お疲れのようね。さあ、全員に挨拶しなくちゃよ!」


長話を覚悟して、私は気を引き締める。

どうして貴族たちは話が長いのだろうか。


◇◇◇◇



「…やっと終わったわ……」


想定通りめちゃくちゃ時間が掛かった。

これでも、「長話は飽きちゃうわよね」なんて言ってくれる人がそこそこ居たのに。


将来的にやっていける気がしない。


「お疲れ様です。少し持ってきました。どうぞ」


レイヴンは皿に取り分けてくれていた。

そのどれもが私の好みが反映されていて、優秀さに舌を巻く。


テラスだから誰も見ていないのをいいことに、私はしっかりお腹を満たしておく。


「ありがとう、レイヴン。そういえば、さっき何か騒ぎになっていなかった?」


城にずっといたけれど、庭の方で何かあったらしい。

レイヴンも私についていたけれど、他の護衛から聞いているかもしれない。


「…ルチウス王子に抱き着いた子が居たらしく。王子が強く払って、泣いてしまったようです」


可愛らしい話な気がするけれど、相手は王子。

今頃その子の両親は震えあがっているだろう。

あの抜け殻のルチウス王子が酷い処罰を言い渡さないことを祈るしかない。


「どういう話の流れで抱き着いたのかしらね?返事も無いのに」


「振り払われないチャンスと考えたのではないでしょうか」


そんなものか。

いまいち想像できないけど、それで納得しておく。


ルチウスや漫画のキャラとは、なるべく関わりたくなかった。


◇◇◇◇




ついに16歳になる。

お茶会の誘いが毎週毎週あって、疲れ果てている。

しかも、ルチウスや漫画に出てくるキャラが目白押しなのが厄介だ。

なるべく関わらないようにしているけれど、全く挨拶をしないというわけにもいかない。

春にはもう、学園への入学があって、それはつまり少女漫画がスタートするということでもある。


「ローゼリアさん、今日もとっても可愛いね」


「ふふ………」


笑いかけてくるのは、少女漫画に出てくるサブキャラのグウェン・ウォーカー。

ルチウスの取り巻きの1人で、正義感の強い小柄な少年だ。


彼も一端の貴族だから、女性の扱いには慣れているらしい。

あるお茶会で話して以来、謎に好印象を持たれている。


「是非うちでやるお茶会に来て!来週やるんだ!」


「…いつ行うのかしら?」


ふふ……ってそろそろ笑い疲れてくる。

愛想笑いも、数時間キープするのは辛い。


「火曜と水曜!ルチウスたちを呼んで盛大にやるから、ぜひ来てほしいな!」


ルチウスと聞いて、私はレイヴンに目配せして、演技を始める。


「…ごめんなさい!その日はどうしても外せない家族の予定があって…!代わりと言っては失礼ですけど…是非うちのお茶会に遊びにいらして」


ルチウスとのフラグは、絶対にへし折ってみせる。

避けてでも関わらない算段だ。

私は彼に惚れていないけれど、少女漫画の修正力的なものがあったらと思うと恐ろしい。


とはいえ、あまり断り続けても恨みを買う。

ルチウスが来ないよう、うちに招待する方が都合が良い。


「そっか。残念だ。…お茶会はいつなの?」


「再来週の月曜日に。…どうかしら?」


言い方が悪かったのか、苦笑される。

ルチウスを避けていると気づかれたらしい。


「…ルチウスは良い奴なんだけどね…。あの頃のこと、謝りたがっているんだ」


挨拶に返事が無かった時期のことだろう。

確かにたまにお茶会で見ると、今は最低限の返事くらいはするようになっている。


「いいえ!謝るだなんて!それにうちのお茶会はすごく小さな会なので!」


ルチウスと関わることは私の不幸な大怪我エンドを確定させるかもしれない。

絶対に避けるべき事なのだ。



◇◇◇◇



ついに、学園に入学する日が来た。


ルチウスとはほとんど関わっていないし、多分平和な学園生活が送れるはず。



…そう思っていた時期が、私にもありました。






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