後編
「今日、放課後空いてる?」
と透くんは、私に言った。
私は、何だろう?なんて思うわけもなく、ただモヤモヤが消えるだけだった。
「別に、用事ないけど」
自分でも緊張で声が震えているのがわかった。
「なら、一緒に帰らない?」
と透くんも、若干声が弱くなりながら言ってきた。
「いいよ、帰ろう」
と私は、ドキドキする胸を押さえつけながら言った。
学校に着いてからの、いつもの日常もずっと気が気じゃなかった。
「昨日もまた進展なし?」
昼休み陽菜が聞いてきた。
「いや、陽菜が色々気配りしてくれたおかげで、かなり上手くいったよ」
と私は返した。
「それは、良かった。私もなんか増田とめっちゃ仲良くなったわ」
笑って、陽菜は言った。
増田が意識してもらえていて、良かったなと思った。
「増田しゃべってみたら、意外と良い奴でびっくりしたわ。なんかちょっとイメージ違ったわ、」
と陽菜は続ける。
「ええ、良かったじゃん!」
と私は言った。
透くんの私への好きという想いを合わすように手助けしてくれている、増田を少し手助けしたいなと思った。
「あーいう子、タイプじゃないの?」
私はかなりノリに身を任せ、陽菜にそんなことを聞いてみた。
「えっ何?急に!」
陽菜は普段そんなことは言わない私から言われたことに驚いた。
「いや、いや、そんな驚かないでよ」
と私は返す。
「いや、驚くよ!普段そんなこと瑞樹全然言わないんだからさ」
と言ってくる。
「ごめん」
すぐ折れてしまった。
あまりこういう口論になるのは好きじゃなく、なると保守的になってしまう。
私の悪いところだ。
「いや、別に謝れってわけじゃないから…」
と陽菜は返した。
「まぁでもさぁ、完全にこいつ無理っていう人ではないなと思ったし、若干いいなとは、思うね」
と更に陽菜は続けた。
「やっぱ、そうなんだ。なんか相性良さそうだなと思ってたんだよね」
なんで私は返した。そして何故か嬉しかった。
増田にこのことを伝えてあげたいが、この2人なら、どうにかなるだろうと思った。
「また、なんか放課後とか、また誘ってみようかなぁ」
と陽菜は言った。
私の穏やかになってきていた心は、急にびっくりした。
「えぇ、だいぶ陽菜、気になってるじゃん?」
と私は言った。
「まぁまぁ、そうでもないかもね」
と言い、陽菜は明らか動揺した感じで、その場を去っていった。
放課後とかに誘うって…
私のドキドキは更に早まっていった。
なんやかんやで、最後の授業も終わり、終礼も終わった。
そして、私は自分の荷物をまとめ、カバンを持ち、少しドキドキした心を抑えながら、透くんの席の方へ向かった。
今日は本当は、部活に顔を出そうと思っていたが、もうそんな気なんて、無くなっていた。
透くんの席に行くやいなや、透くんもバックを持った。
そして、「じゃあ、行こう」と私に言い2人で教室を出た。
そして、校門を出て、駅に向かっていた。
何か、透くんが、攻めたことを言うこともなく、普通の会話をしながら、駅まで着いた。
なんか物足りなさもあったが、勝手に自分が期待してしまってただけだと思い。
でも、少しずつ距離を縮めてくれているのだと思うと嬉しかった。
そして、電車に乗った。
すると、透くんの最寄り駅に着く少し前に、
「明日、時間ある?」
と言ってきた。
私は明日塾があり、嬉しさもあったが、流石に塾は…という思いもあった。
「嬉しいんだけどさ、明日塾なんだよね」
と私は透くんに伝えた。
すると、透くんは少しどっちかわからない顔をして、
「それはしょうがないね、ならまたいける日に帰ろう」
と返してくれた。
そして普段2人でいる時は滅多に見ないスマホを、透くんは触り始めた。
そして、透くんの最寄り駅に着き、私たち側のドワが開いた。
すると、
「ちょっと来て」
と言い、突然透くんが私の手を握り、透くんにつられて私も駅のホームに降りてしまった。
「なに、急に?」
私は驚いて、そう言ってしまった。
「ちょっとだけ、ついて来て欲しい」
と透くんは私の目を見て言った。
私の、心臓はもうもたないとばかりに昂っていた。
そして、そのまま、手を繋いだまま、駅の階段を降りて、改札を出て、人混みのあまりない高架下まで連れてこられた。
普通に何気ない会話をして帰るだけと、自分の中にあった期待を押し消していたら、急に手を繋がれるわ、駅には突然降ろされるはで、もう無茶苦茶だった。
そして高架下に着くなり、透くんは私の手を離した。
「あのぉ、伝えたいことがあって」
と透くんは、話し始めた。
高架下ということもあり、透くんの声が少し響いている。
「まず、急にこんなことしてごめん」
と透くんは私に謝った。
「大丈夫だよ、びっくりしたけど」
と私は返した。
「で、伝えたいことなんだけどさ、」
私は興奮や嬉しさが舞う感情の中で、覚悟を決めていた。
「うん、なに?」
と私は聞いたら。
「好きだ!」
その声が少し響きぎみに、聞こえた。
私がずっと、透くんに言いたかった言葉だった。
「付き合ってください」
と、透くんは続けた。
とても嬉しかった。
自信がなくて、ずっと言えなかった私に自信を振り絞って言ってくれて、本当に嬉しかった。
「まだ、仲良くなって早いかもだけど、ずっと好きだった」
と透くんは言う。
私は若干放心状態になってしまっていた。
そして、私は透くんに抱きつき
「私も、好き」
と言った。
すると、透くんも抱き返してくれた。
透くんの体はとても暖かかった。
「私こそ、付き合ってください」
と、透くんに私は埋もれながら言った。
絶対人目があったらこんなことはできなかった、でも誰もいない高架下だから、こんなことができた。
「うん、よろしくお願いします」
と透くんは返してくれた。
私は透くんの手の中から出た。
少し沈黙となった。
「どっか、入らない?」
と透くんは私に言った。
「いいね、行こう」
と言い。
2人とも何か、少しむずむずしているような感じで、駅前のカフェに入った。
飲み物を買って、2人は席についた。
「なんか、ちょっと気まずいね」
と透くんは、私のなんとなく思っていたことを口にした。
「うん」
と私は、いざ望んでいた状況になったのに、こんな経験はなく、なんと言ったら良いのか分からなかった。
「ほんとに、嬉しかったよ。透とそう思っててくれて」
気まずくなるのが嫌で、私は本当に思ったことを言った。
そして、初めて彼氏になった、透くんの名前を呼んだ。
「こっちこそ、まさか瑞樹も好きでいてくれたなんて思ってもなかった」
と透くんは返した。
さらに続けて
「ずっと言おうと思ってたんだけど、勇気出なくて、でも言ってみてよかった
やり方は全然だったけど…」
と言った。
「いや、いや、全然。ちょっと急に手握られた時は、びっくりしたけどね」
と返した。
「ごめんね、そりゃあ急にあんなんされたらびっくりするよね」
「でも、まさかなこと過ぎて、ほんと嬉しかった」
「実は、朝は今日絶対に言おう!って思ってたんだけど、帰る時間が迫ってくれば来るほどに、自信がなくなってって、結局明日にしようとしたけど、瑞樹が塾あるって言うから、もうこれは今日しかないって思えたんだ」
と透くんは、思っていたことを全部打ち明けてくれた。
「私なんて、ずっと言いたいけど、やっぱ無理なんじゃないかってのが頭にあって諦めそうだった」
と私もずっと考えて、辛くなっていたことを打ち明けた。
「なら、尚更言えてよかった。こんなに幸せになれるとは思ってもなかった」
と透くんは言った。
「私もめっちゃ幸せだよ」
と私は言った。
カフェで隣の席の人がこんな話をしていたら、何を惚気てるんだ、なんてことを思っていただろうが、
初めて私はその気持ちがわかった気がした。
そして、会話は進んでいき、どんどん私と透くんの距離はより近づいていった。
「色々してみたいことあるな」
と透くんが言った。
「うん、私も。そろそろ夏休みだし、夏休みに色々なことしよ」
と返した。
「もちろん、なんか瑞樹行きたいとことかある?」
と質問された、しかし、私はずっと彼氏ができたら行きたいと決めていた場所があった。
「夏祭り」
私はずっと行ってみたいなと思っていた。
年々歳を食うごとに、行くこともなくなってるし、高校生が行くって言ったらデートとかそんなだし、よく漫画や小説とかでも聞くような、憧れであった。
「いいね、俺も行きたい!絶対行こう」
と透くんはかなり嬉しそうに言ってくれた。
これまで、透くんはミステリアスな感じで、あまり本心が分かりずらかったけど、どんどん打ち解けていって、
透くんの思っていることがわかるようになってきた。
そして距離も縮まってゆき、〔透くん〕と思っていた自分は、自然と〔透〕と思うようになっていった。
そして、店を出た。
2人は駅へ向かい、改札まで私を見送ってくれた。
私は「また、明日。今日の朝の電車でね」
と言い、駅のホームに降りていった。
明日会えるとわかってても何故か少し寂しさがあった。
そして私は気持ちが昂り続けるまま、家へ帰った。
すると、キッチンで姉が晩御飯の準備をしていた。
「おかえり」
と姉は私に言った。
「ただいま〜」
と私は返事した。
「晩御飯作ってるからちょっと手伝って」
と姉は私に言ってくる。
こんなものはいつものことなので私は、
「いいよぉ」
と答え、姉の方に行って手伝いはじめた。
「今日帰って来るの、いつもより遅かったね。なんかあった?」
と姉は聞いてきた。
そんな意味なんて含んでいるわけもないのに、何かを勘づかれたような気がして、私は少し動揺した。
「えっ、何?、怪しいことでもしてた?」
「そんなわけないじゃん」
と私は焦って、早く答えた。
「え〜ほんとか?なんか焦ってるし、怪しいな」
と姉は私の焦りに気づき、攻めてくる。
「いや、ほんとになんもないから!」
と私は言い。
「あーそう」
と姉は諦めたように返した。
そして、日は変わり、朝になった。
こんな嬉しい朝もなかなかないぐらい、夜が明けるのが嬉しかった。
私はウハウハしながら、昨日と同じ電車に乗った。
すると、同じく透も次の駅で乗ってきた。
透も私と同じく、楽しそうだった。
「おはよう」
「おはよう」
こう挨拶を交わした。
「昨日言ってた夏祭りのことなんだけどさ、ちょっと離れてるけどこんなのあるよ」
と言い、スマホを見せてきた。
私のことをこんなに気にかけてくれてるんだと思い、私は嬉しかった。
「ええ!調べてくれたの!嬉しい」
私はそう言い、スマホを見せてもらった。
小さい頃私が行った祭りだった。
「これ、ちっさい時行ったことある」
私たちの近所だと、一番有名で、大きな祭りだった。
「あっそうなの?」
と透は言った。
「行きたい!行こうよ」
私は透に言った。
「もちろん。行こう」
と透は、返事してくれた。
そして、電車を降りて学校へ歩いて向かう時妙にいつもより周りの目が気になった。
透と私が、ずっと一緒にいることを周りから見られていたら、どう思われてるのだろう?
とか別に必要もない心配をしてしまっていた。
そのせいで、ずっと昨日みたいに透の手を握りたいのに、またも私は周りが気になってしまって、勇気が出なくて握れなかった。
そして、学校について2人ともあまり、チヤホヤされたくなかったので、クラスの中では付き合ってるとバレないようにあまり喋らないようにと、決めていた。
そんな日々は、退屈な日々よりも早く過ぎていき、もう夏休みが近づいて来ていた。
そんなある日、私は久しぶりに部活に顔を出した。
ずっと、透のことで頭がいっぱいで、毎日一緒に帰っては、塾に行っても帰ってからのメールの返信で頭がいっぱいだった。
「久しぶりだな」と秋田先輩が言ってきた。
「最近来てなくて、すいませんでした」
と私は謝った。
秋田先輩は本当に絵を描くのが好きで、大人になっても絵を描いて暮らしたいと言うほどの人物だ。
きっと私が来てない間も、何個もの作品を描いて、コンクールに出してたんだろう。
「なんだ、絵に飽きちまったか?」
と秋田先輩は書いていた筆を置き、私に言った。
「いや、飽きてしまったというわけじゃなくて」
と私は言った。
「絵ってさ。描こうと思って描くもんじゃなくて、その景色とか、思い出 1ページとか、頭に思っているものとかを描きたいって思って描くもんなんかなって思うだよ。そして、その絵を記憶として残しておくんだよ」
と秋田先輩は言った。
私はそのことを言われて、呆然とした。
秋田先輩が絵に対して思う熱い気持ちなんて、私にはひとつもなかったからだった。
「そうなんですね、わかりました」
そんな返事をするほかなかった。
「急にごめんな、畠中の絵、俺好きだったからやめちゃったら嫌だなと思って、熱くなっちゃった」
と秋田先輩は言ってくれた。
私の絵を好きでいてくれたなんて、思ってもいなくて、私はとても嬉しかった。
「ありがとうございます。やめません、これからも描いていきます」
と私は返した。
すると、秋田先輩はある紙を渡してきた。
夏の思い出の一枚を絵にするというコンクールの紹介の紙だった。
「これ、良かったら出してみたらいいんじゃない?」
と秋田先輩は言い、再び筆を持ち、描き始めた。
そして、私は、急に夏の思い出と言われても、何も描きたいものなんてなかったが、なんとなく昔行った夏祭りの時の絵を描き始めた。
始めると時間は直ぐに、過ぎていき、私は家へ帰った。
また、時は過ぎて、 1学期も最終日となった。
「 2週間後の日曜は祭りなんて、楽しみだね」
と私は透にいつもの電車で言った。
「そうだね、楽しみだなぁ。19時半から花火も上がるらしいしね」
と透は言う。
私は、透を喜ばしたくって、その日は浴衣で行こうかなんてことを考えていた。
そして、また学校へ向かう道で、私はずっと手を繋げずのままでいた。
結局、付き合って進展と言ってもいる時間が増えただけで、お互い特に甘えたりなどもそんななく。
好き。なんてあの日以来言っても、いなかった。
学校に着くと、陽菜が喋りかけてきた。
なんとか陽菜には付き合ってることはバレずに、きていた。
というのも、陽菜は、増田とで忙しかったからだ。
今日も今日で、増田の話をしに来た。
「昨日、放課後遊ぶって言ってたじゃん?それでさ、夏休みに、2人で祭りに行くことになったんだよね」
と言ってきた。
私はびっくりした。
「えっ!」
「ほんと最高だよ。せっかくだし浴衣とか着ちゃおうかなって」
と続けてくる。
陽菜と考えていることが一緒で、私はびっくりしたが、そんなように見せずに
「良かったじゃん、楽しんで」
と言った。
そして、夏休みに入った。
私は毎日透とは、連絡を取り、塾の行く前とかに少しあったらしたり、カラオケに行ったりした。
その時もずっと、付き合っているのに、何故か少し2人に、距離があるような気がしてやまなかった。
こんなモヤモヤは、嫌で、私は祭りの日に、自分からアタックしようと勇気を振り絞っていた。
そして、夏祭りも近づいてきた日
またも姉に、浴衣を借りたいと言った。
私は、小さい時に着ていた浴衣しか持っていなかったが、姉は同級生たちと浴衣で祭りに行っていたので持っていると思い、言った。
「浴衣!これはまた珍しいなぁ」
とかなりニコニコしながら、姉は私に言った。
「あんた、彼氏できたでしょ?」
と姉は言った。
「そんなわけない」
私は急いで否定した。
「まぁいいや、これ貸したあげるから、また彼氏の写真見せて」
と浴衣を渡してきた。
「だから、違うって」
と言い、受け取った。
そして、楽しみにしていた夏祭りの日がやってきた。
私は透と、夕方ぐらいに会って、行こうと言っていた。
朝は、いつもの休みの日ならダラダラ寝ているが、メイクやなんやに気合いを入れたくて、早く起きて、自分の部屋で色々行っていた。
すると、「ただいま!」
と突如。兄の声が玄関から聞こえた。
「おかえり、あらはじめまして〜」
と今日休みの、母が返事している。
「いつも息子がお世話になってます」
と誰かと母は話している。
「あんた、帰ってくるなら言っといてよ。急にびっくりした」
と、母は言っている。
「唯には、連絡したけどな」
と言い、兄は家に上がってきた。
すると、隣の姉の部屋から、姉が出てきて、
「おっ、きたきた」
と言っている。
そして姉が階段を降りていく音がした。
私もメイクを済ませて、浴衣の準備をして、部屋を出て下に向かった。
リビングに行くと、兄にこの前写真で見せてもらった彼女さんが、来ていた。
「はじめまして」
と彼女さんは、私に言ってくる。
「はじめまして」
と私は返した。
「いやぁ、彼女さん可愛いねぇ」と姉はガツガツいく。
「うるさいなぁ」と兄も嬉しそうに返す。
「いやぁ、釣り合ってないよこれは〜」
と姉は笑いながら言った。
「いえいえ全然、私、康平《兄》のこと好きですよ」
とギャルっぽい、見た目からは想像できないおしとやかさで、彼女さんは答えた。
「ほーら」と自慢げに兄は言った。
「なんで、急に帰ってきたの?」
と私は気になっていたことを聞いた。
「今日、あっこで祭りあるだろ。そこ行こうかなと思って」
と、当たり前みたいな感じで兄は答えた。
私はびっくりした。
兄に透と、いるところを見られたらどうしようと思った。
「それ、瑞樹も行くんだって」
と姉は言う。
やめてほしかった、なんか嫌な気がした。
「へぇ〜珍しいな」
と兄は言う。
「だよね、しかも私に浴衣貸して〜なんて言ってきてさ」
と姉は言う。
ほんとにやめて欲しかった。
恥ずかしい以外の気持ちも、湧いてきた。
「へぇ〜怪しいなぁ」
と兄は言ってくる。
「なんも、怪しくないし!」
と私は言い、これ以上言われるのが嫌で、私は自分の部屋に戻った。
兄にもバレたくないと言う思いも増して、何か不安な気持ちになり始めた。
それでも,待ち合わせの時間は近づいて行き、私は浴衣の着方を動画で調べ、不器用ながらも、見様見真似に、浴衣を着た。
似合ってるかなんて、何もわからないが、時間になったので、私は荷物を持って、自分の部屋を出た。
兄にも姉にも何も言われたくなくて、ひっそり出て行こうとしたが、私が玄関に行くと、姉も出てきた。
「ちょっと待って」
と言い、私の肩を持って止めて、浴衣の帯を少し直してくれた。
「ありがとう」
と私は言った。
「よし、これで可愛くなった」
と姉は行ってくれた。
「完璧。ほら、頑張って来なよ!」
と姉は続けて、送り出してくれた。
不思議となぜか、背中を押されたような気がした。
そして、私は透との待ち合わせ場所に、着いた。
私が着いた頃には、透はもう着いていた。
私は、透が待っているのが、遠目から分かった。
浴衣を来てくるなんてのは、言っていなかったので、透がどんな反応をするか楽しみだった。
そうして、私は透の後ろから肩を叩いた。
すると、透はこちらを振り向いた。
そしてすぐさま、「えっ!」
と声を出した。
「どう?びっくりした?」
と私はニヤニヤしながら聞いた。
「びっくりした〜、浴衣でくるなら教えといてよ」
と透は返してきた。
「教えても、透は着ないでしょ?」
と私は少しからかった。
「まぁ着ないけどさ、心の準備というか、なんというか…」
と透は言う。
「なんなのそれ?」
と私は返した。
「でも、めちゃくちゃ似合ってる。可愛い」
と透は言ってくれた。
可愛い。なんて、透はこれまで付き合って、面と向かって言ってきたことがなく、急に言われて私はとても嬉しかった。
「ありがとう、じゃあ行こっか!」
と私は言い、2人で祭へ向かった。
祭りが行われてはいる神社に向かう道を進むごとに、どんどん人は増えていき、神社に入る前のところから出店があり、そこからは更に人が増えた。
私は、ずっと透と並び歩いているが、周りのカップルなんかは皆、手を繋いで歩いていた。
私はそれを見て、私もしたいと思う気持ちはさらに強くなった。
でも,兄とか、陽菜も、いるからと思ってしまった。
出店でも、メインと言えるような出店のある通りまで来て、歩いたら人とぶつかるぐらい人は多くなってきた。
そうだった私は、小さい時この祭りで、兄と姉と手を繋いで行動しなさいと強く両親に言われていたのに、
私は金魚掬いを見つけて、そこに走って行ってしまって、迷子になったことがあった。
私は少し泣きながら、家族を探した。
すると、運良く近くにいてくれて、私はすぐさま駆け寄って行ったのを思い出した。
そんなことを思っていると、私はまた物理的な迷子ではないものの、何かに迷っているような気がした。
あの時はダメとやれたことをやってしまった。
今回は絶対に、するべきことをしたいと思った。
そして、私は勇気を振り絞って、横で喋りながら笑ってる透の手を握った。
握った瞬間に、透がびっくりするのを感じた。
「どうしたの急に?」
と、透は聞いてくる。
「繋ぎたいなって、思ってさ」
と私は照れくさくなりながら、答えた。
すると.透は強く握り返してくれた。
「えっ!」
私は、自分から手を繋いだが、返してくれたことによって驚いてしまった。
そうして、その手を繋いだまま私達は、出店でかき氷を買って、少ししたところで座れるところがあるので、そこに座って食べようとなり、向かった。
私たちは人混みの中を、また手を繋いで座るところを目指していた。
そして,ぎゅうぎゅうの人混みの中を、少し抜けた時、前に手を繋いで立っている、陽菜と増田がいた。
「あっ!」
一番初めに気づいたのは、陽菜だった。
私の鼓動は急に速くなり始めた。
どうしよう。バレてしまった。
と私は思い、焦って、透との手を解こうとした。
すると、逆に透は私の手を強く握った。
「なに!」
私は驚いた。
「なんだ、お前らもいい感じそうじゃん」
と増田が言ってきた。
「おかげさまで」
と透は増田に返す。
「私たちもいい感じなんだよ」
と少し自慢げに陽菜は言って、笑った。
「よかったね!」
と私は返した。
他にも言おうとしたことはたくさんあったが、頭が混乱していて、それどころではなかった。
「じゃあ、また学校でな」
と言い、私達はすれ違って行った。
少し離れた時
「びっくりしたぁ、、」
と私は透に本音をこぼした。
「自分もめっちゃびっくりしたけど、まぁ隠しててもバレるし、あっちもあんな感じだったし」
と透は返してきた。
「そうだよね。てか、あの二人があんな感じなるとは考えられなかったな……
なんて話をしながら、人が少し減った、座れるとこに座った。
そして、さっき買ったかき氷を2人で食べ始めた。
「うん。美味しい」
私は自分の分のを、食べてそう言った。
透も自分のを食べ進めている。
すると、「ちょっとそっちの味も食べさせてよ」
と透は私に言ってきた。
私達はそれぞれ別の味にしていたので、透はそう言ってきたのだろう。
そして、透は自分のストローのようなスプーンで、私のかき氷をすくって食べた。
なぜかこんなことでも、ドキドキしてしまう。
全然特別なんかじゃなくて、普通のようなことなのに
「俺のもいる?」
と透は自分のを私の方へ近づけた。
「欲しい」
と言い、私は透のをすくって、食べた。
「おいしい!ありがとう」
と私は言った。
そして、2人が食べ終えた頃
「そろそろ、花火の場所取り行こう」
と透は言った。
「行こ行こ」
と返した。
花火を見るのは、神社の境内を抜けて、裏の川岸のところが一番綺麗に見えるので、私達は再び手を繋ぎ、そこへ向かった。
向かう途中に、こっちの方が早そうと透が言い、ちょっとした山道みたいなところ抜けて向かった。
そして、私は気づいていなかった。
その道の途中に、境内は山の上でそこへ登る階段があり、そこに兄と兄の彼女が座っていた。
「あれっ?もしかしてそうじゃね?」
と、兄は彼女に言い。
「絶対そうだよ。あれ妹さんだよ」
と彼女は言った。
「へぇ〜いい感じそうじゃん」
と言い、兄は携帯を出して、姉に連絡をした。
そして、私達は目的の花火を見る場所へ到着した。
もう既に、人が集まり始めていた。
2人が座って見れる分ぐらい場所を取って私たちは座った。
場所取りはしないといけないものの、まだ花火が打ち上がるまでには時間があった。
その時「場所も取れて、時間もあるからさ、なんか出店で買ってこようか?」
と透が私に言った。
「いいの?」
私は聞くと
「うん。何がいいとかある?」
と透は返す。
「任せるよ、透の好きなもの買ってきて」
と私は言った。
「おっけ。じゃあ買ってくるから俺の場所だけ取っといて」
と言って、透は出店が出ている方へ向かった。
私は自分の荷物を透が座るところに置いて待っていた。
その時にずっと前から今日のことで思っていたことを、思い出していた。
私は付き合ってから、「好き」という言葉を言っていなかった。
透もそうだ。
なんせ、手だって今日やっとの思いで繋げた。
ずっとやりたいとは思ってても、いざその場になったら緊張してしまっていた。
でも、このままだったらただの仲良い友達と変わらない。
今日こそ「好き」と伝えると心に決めていた。
でもタイミングもわからないしで、また逃げようともしていた。
いつ言おうかなんて事を考えていたら、透が何かを持って帰ってきた。
「お待たせ、ちょっと混んでてさ」
と透は言って、横に座った。
「何買ってきたの?」
と、私は聞いた。
「お任せされたから、ポテトと焼きそば」
と言って袋から出した。
「えっ嬉しい」
「はい、食べて」
と言って、ポテトの袋をこちらに向けてきた。
「ありがとう」
と言い、私は食べた。
2人で食べていると、花火の時間が迫ってきた。
もうすぐ始まるというアナウンスが流れて、人もぎゅうぎゅうになる程に増えてきた。
そして、始まる時間となり、みんながいつ打ち上がるのかを楽しみにざわざわし始めた。
すると、突然打ち上がる音が鳴り。
空を花火が覆った。
とても綺麗だった。
「綺麗」
と私は口にした。
そして続けざまに、どんどん上げられていく。
様々な色が夜空で光っては、消えていく。そして少し遅れてくる音で体が震えるような感覚もある。
次々と大、中、小、大きさもばらばらなものが打ち上げられていく。
とても、綺麗で感動した。
昔来た時は、こんなに綺麗なものとして、見えていなかった気がする。
何か怖さを覚えていたような記憶もある。
でも、今は違う、とても綺麗に見えている。
だが、そんな時間はすぐに終わってしまう。
だんだん大きな花火を中心として、周りを小さな花火が覆うような、ずっと音が鳴り響く、いわゆるクライマックスみたいなものが始まった。
私はなぜか、この時に『いまだ!』と思った。
そして、本当の最後
一番でかい花火が打ち上がった時に、私は透に
「好き」
と言った。
すると、言ったと同時に花火は散り大きな音が鳴った。
透はその花火を見ている。
勇気を振り絞ったが、聞こえずじまいで終わってしまったと思った。
すると、透は、肩を抱き、体に近づけて、
「俺も好き」
と呟いた。
私はその時に見た、花火がこれまでで一番綺麗なものだった。
……その日は終わり、いつも通りの夏休みの日々に戻った。
私は、部活で言われていたコンクールのために描いてた絵を捨て、新しいものを描き始めた。
そして完成した。
あの日の花火の絵だった。
作品名は『綺麗なものを、探しながら』
この絵はコンクールで賞を取って、学校でも飾られた。
そして、大人になった今では、私と透の暮らす家のリビングの壁に架けられている。