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語りあう世界

作者: 礼(ゆき)

 今日は孫を連れて泊りにきた娘が、朝ご飯を作ってくれている。

 台所でお椀に味噌汁をつぐ娘に「おはよう」と声をかけた私は、畳の部屋のお仏壇へと向かう。


「お母さん、もうご飯できているのよ」

「お父さんにご挨拶してから座るわ」


 アニメを流すテレビの前で、クレヨンでお絵かきしている孫が顔をあげた。すでにきちんと服を着ている。来年は幼稚園の年長さん。子どもの成長の速さにはいつもびっくりするわ。


「ばーば。おはよう」

「おはよう。早起きして、えらいわね」


 笑って挨拶した私はお仏壇の前によっこらせと腰を下ろす。


 皺を刻んだ顔をほころばせるあなたの写真を見つめ、私は手を合わせた。





 ねえ、あなた。

 子どもはもう無理ねと諦めかけていた私たちの元に生まれてきてくれた子が、今では孫を育てているのよ。

 生まれたと思った孫も、来年は年長さんで、再来年は小学生。ランドセルを背負って小学校に行くなんて、信じられます?


 あなたは、もうすべてを知っているという顔をするのよね。

 あちらではなにもかも見えるのかしら。


 見えるとしたら、あなたはどこで未来を見たの?

 今際の際で見たのかしら。


 そこには過去も未来も、亡くなったご先祖様とも会えるというものね。もしかしたら、未来だって見えていてもおかしくないわね。


 過去を知ることは未来を知ることだと言ったの誰だったかしら?


 あなたには、私の未来も見えているのかしら。


 孫はどんな大人になるのかしらね。

 すらっとしたカッコいい人になるのかしら。

 背が高くて、肩幅が広いのね。去年から習い始めた水泳のおかげかもしれないわね。


 孫も大きくなったら、ガールフレンドができるのね。

 一人っ子だから、娘もちょっとショックなのね。あなたがあの子を嫁に出す時に似ているかしら。


 お仏壇なんて見向きもしなかったあの子も、年を経ると、手を合わせるようになるのね。


 ああ、亡くなった母さんも、父さんもごきげんよう。

 お義母かあさんも、お義父とうさんもご健勝でなによりです。


 今日も私は元気です。


 私、この時間が好きよ。

 目を閉じてあなたと語らうこの一時が。

 

 あら、若い頃のあなた。

 いやだわ、私。

 まだ化粧一つしていないのに……。


 私も若いって。なにを言ってるの?


 手を見てって……。

 

 嘘、こんなきれいな手。子どもを育てる前みたいじゃない。


 どうして?


 ああ、ここには生まれた頃からの私もいるのね。 

  





「もう、お味噌汁冷めちゃうよ。ねえ、聞いているの。

 お母さん。

 お母さん?

 お母さん!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 静かに家路を辿るような、素敵な話でした。
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