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修道院のビスケット 2

「マーヤさん、本当に助かりました。ありがとうございます」


 あれから、気絶した男を縄でぐるぐる巻きに縛り、足が速いという年長の子供に自警団を呼ばせに行かせた。


 その後、マーヤはカナイと名乗るシスターに連れられ、修道院の奥、応接室のような場所にやってきた。


「たまたまアタシが来たタイミングでよかったよ」


 マーヤはシスターカナイから差し出された茶を受け取る。


 薄い茶色。フワリと香るは、マーヤの故郷で飲まれているお茶とは違う、ワイルドなハーブの香り。


 一気に飲み干す。


 適温のお茶は、少し甘みのある爽やかな味がした。


「うまいね、なんて茶だい?」


 マーヤの問に、シスターは微笑んだ。


「トーサの葉を煎じたものです……トーサはスイの特産なんですよ」


 トーサの葉。


 聞いたことがない。


 特産とは言っていたが、広く世に流通しているようなものでもないのだろう。


「もう一杯、もらってもいいかい? この茶、気に入ったんだ」


「ふふっ、ええ喜んで」


 シスターが入れてくれたトーサの煎じ茶を、今度は少しずつ、味わってのむ。


 後味の甘みが、マーヤの好みだった。


「ところで、あの男は顔見知りかい?」


 トーサの茶を飲みながら、マーヤは別室で縛られている男を指さした。


 シスターは難しい顔をして首を横に振る。


「いえ、全く知らない方です……ひどく酔っていたみたいでして。いきなり修道院に来て、”金を出せ”って詰め寄ってきたんです」


「……まあ、酔っ払ってたからって許される話じゃねえわな」


 せっかくうまい茶を飲んでいるのに、おもしろくない話だった。


「この修道院は、孤児院も兼ねているんです。私一人ではあの子達を守れませんでした……マーヤさん、本当にありがとうございます!」


 深々と頭を下げるシスターに、マーヤは少し困ったように頭を掻く。


「まあ……アタシは単にビスケットが食いたいと思って立ち寄っただけだからなぁ」


 シスターはマーヤの言葉に上品に笑う。そんな話をしていると、応接間の入り口が開いて、武装した自警団であろう男と、自警団を呼びに行った子供が部屋に入ってくる。


「シスター!自警団のおっちゃん呼んできた!」


 子供はパタパタとシスターのもとに駆け寄ってくる。


「ありがとうコリー。助かったわ」


 シスターは優しく微笑んで、コリーと呼ばれた子供の頭をなでる。


 立ち上がり、自警団の男に事の顛末を説明した。


「なるほど、そうでしたか……旅人の方、感謝します。本来は自警団の仕事でしたのに」


 深々と頭を下げる自警団の男に、マーヤは手をひらひらとふる。


「いーよ別に。タイミングが良かっただけさ」


「では、私はこの男を連れて本部に戻ります」


 そして自警団の男は、縛り上げられた男を担いで(かなり大柄な男だったが、自警団の男は軽々と担ぎ上げた)修道院をあとにした。



 それを見送った後、シスターはマーヤに向き直り、ニコリとほほ笑む。





「さて、ビスケットを食べにいらしたのでしたね? すぐに用意いたしますので、是非召し上がってください」


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