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弁当




「……そろそろ休憩するか」


 木こりのヤラーは握りしめていた愛用の斧を近くの木に立てかけ、額に浮かんだ大粒の汗を手で拭った。


 彼の傍には今日の成果である木材の束。


 十分に働いた。昼休憩くらいとっても罰は当たらないだろう。


 どっかりと地面に腰を下ろすと、荷袋から水の入った革袋と妻が持たせてくれた昼食の弁当を取り出す。


 弁当とはいっても大したものではない。


 薄汚れた包みを開くと、中には薄切りにした固い黒パンと塩漬け野菜、そして干し肉が少し。


 今日は妻の機嫌が良かったらしい。いつもなら干し肉なんてたいそうなものは入っていない。


 革袋からごくごくと水を飲み、喉を潤すと、さっそく昼食に取り掛かる。


 薄切りにした黒パンに野菜を少し載せてかじりつく。黒パンは固く、野菜は塩がキツイ。


 しかしヤラーはそれらをゆっくりと楽しむように噛みしめた。


 しばらく噛んでいると麦の香ばしい香りと、塩味の奥にほんのりと野菜の甘みが感じられる。


 どんな粗末な飯だって、空腹という最上の調味料があれば絶品のご馳走へ変わる。


 遠くない先に、大きな戦争があるらしい……。その影響かわからないが、近ごろいまいち景気が良くなく、せっかく頑張って集めた木材もとんと売れない。


 こんな粗末なご飯だって、いつまで食べられるかわからないのだ。


 だからといって、ヤラーにはどうすることもできない。


 愛する妻と、今年で4つになる息子もいるのだ。


 大黒柱である自分がしっかりしなくては……。


 そんな事を考えながら干し肉に手を伸ばす。


 上等なものではない。何の肉かわからない肉の切れ端を乾燥させたもの。


 だが、肉は肉だ。


 小さな干し肉をひょいと口に放り込み。しっかり噛みしめる。


 味付けはされていないが、肉のうまみがじんわりと口内に広がっていく。


 やはり、肉はうまい。


 できれば毎日でも食べたいものだが、そんな贅沢は言っていられない。


 チラリと木に立てかけた愛用の斧を見る。


 ヤラーの父の代から使われている古びた鉄の斧。丁寧に使ってはいるが、切れ味はあまりよくない。


 新品の斧を買うにも金が要る……。


 大きなため息。


 なんにせよ、生きるには働かなくてはならない。


 残りの弁当をひょいと口に放り込み、仕事を続行しようと立ち上がり……。


 次の瞬間、奇妙な音を聞いてヤラーは動きを止めた。


 金属と金属をこすり合わせたような甲高い不快な音。


 ……普段森の中では聞くことのない音だ。


 ゴクリと唾を飲み込み、立てかけていた斧を持って音の出どころまでソロリソロリと歩いていく。

 今すぐ逃げた方がいいのだろうか?


 しかし、もし野党などいたらこの近くに住んでいる家族が危険にさらされることになる……。


 思い過ごしならいい。だが、家族を守るものとして音の正体を確かめなくてはならなかった。


 体勢を低くし、ヤラーは茂みに隠れるようにしてそっと音のなった場所を覗き見る。


 そして絶句した。


 ヤラーは声にならない叫び声をあげ、愛用の斧を投げ捨て、せっかく集めた木材も家から持ってきた荷袋も置き去りにして逃げ去っていく。


 ヤラーが見たもの、それは森にひっそりと潜む、完全武装した鉄人形の軍隊であった……。






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