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脂身


 ウェルター・ド・ラヴァル伯爵は食卓に座り、食前酒を飲みながら料理が運ばれてくるのを待っていた。


 戦争も、外交も執務も、すべては夕餉を心置きなく楽しむための前菜……。


 料理が完成したのだろうか、部屋に漂ってくるうまそうな香りに、ウェルターはペロリと舌なめずりをした。


「今回は案外まともな料理をご所望ですね」


 そんな軽口を叩きながら、料理長がワゴンを押して入室する。


 テキパキと手際よく食卓に並べられたのは、分厚い木製の器の上にアツアツに熱された溶岩石。


 その上には厚く切られたステーキ肉がジュウジュウと小気味のいい音を立てている。


 貴族が食べるようなキレイな赤身の肉ではない。下賤な肉とされ、二束三文で売り払われる赤身が殆ど無い、脂身で真っ白な肉。


 それは熱々の溶岩石に熱され、ジワリと油を滴らせている。


 ナイフを入れると、表面は肉自体からにじみ出た油で揚げ焼きのような状態になっており、サクサクとした感触が手に伝わる。


 まずは一口。


 シェフに支持した通り、塩のみのシンプルな味付け。噛みしめると油が口全体に広がる。


 もったりとした油のコク……しかしやはりと言うべきか、肉の旨味は殆ど無い。


 うなずいたウェルターはシェフに支持を出す。


「あれをもってこい」


 シェフがもってきたのは皿に盛り付けられた焼きキノコ。


 焼いたキノコを付け合わせにして、肉を切り分けて一緒に口に放り込む。


 キノコの旨味と、肉の脂身がマッチして非常にうまい。


 そんなウェルターを見て、シェフは呆れたような表情を浮かべた。


「そんなまどろっこしい事しなくても、高い肉を食えばいいじゃないですか……金は腐るほどあるでしょう?」


「わかっていないな。ただ値が張るだけの料理なんて、こっちは食べ飽きているのだよ」


 優雅にワインを飲みながらウェルターは笑う。


 高いだけの料理なんて食べ飽きた。


 もっと未知の味を、まだ見ぬグルメを……。


 その思想の理解者は、ほとんどいないのだが。


 ウェルターは数少ない理解者であるマーヤを想う。


 彼女は今、どこにいるのだろうか?


「そういえば旦那様、聞きましたか? かの騎士の国がグランツ帝国に攻め込もうと画策してるらしいですよ」


 シェフの言葉に、ウェルターはピタリと食事の手を止めた。


「騎士の国……フスティシア王国では、確か魔王討伐の勇者が貴族の位を得たと聞いたが」


「ええ、だからでしょうね。勇者の戦力を鑑みて、今なら勝てると踏んだのでしょうな」


 ウェルターは考える。


 グランツもフスティシアも強大な国だ。互いに潰し合ってくれたらこちらとしても助かる。


 しかし、愛しのマーヤは一緒に旅をした勇者が戦争に駆り出されると知って、どう思うのだろうか?


 余計なお世話かもしれない……。


 しかし、未来の花嫁のため動かないわけにはいかなかった。


「……食事を終えたらギルドに向かう」




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