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宮廷魔法師

 コンコンと、控えめにドアをノックする音が聞こえる。


 寝不足で霞む目をこすり、宮廷魔術師のテオはノックの主に入室を許可した。


 ゆっくりとドアが開き、入ってきたのは年を取ったメイド、名前はカナラ。


 人付き合いが苦手なテオが、唯一心を許しているのが彼女だ。


「テオ様朝食の用意ができましたよ」


 朝食?


 訝しげに眉をひそめ、チラリと窓の外を見ると、いつの間にか朝日が登っていた。


 またやってしまったとため息を付く。


 研究に夢中になってしまい、寝ずに夜を明かしてしまったようだ。


 高位の魔術師は皆短命だ。


 魔術師とはみな研究の徒であり、優秀であればあるほど魔術の深淵に魅せられている。


 そして、今のテオのように自分の身など顧みず、研究に没頭して不摂生な生活を送り、やがてポックリと死んでしまう。


 研究は好きだ。


 しかし、せっかく命をかけて魔王を屠ったというのに、研究のために死ぬつもりもなかった。


「また夜更かしされたようですねテオ様」


 少し呆れた様子のカナラに、テオは申し訳なさそうに小さく笑った。


「すまないね。私も気をつけてはいるんだけど……どうにも研究に熱が入ると寝ることを忘れてしまう」


「テオ様は本当に研究がお好きですからねぇ」


 そう言いながら、カナラはお盆に載せた朝食を運んできてくれた。


 柔らかな白パンに、野菜のスープ。燻製肉の薄切りをサッと炙ったもの。飲み物は水で薄めた葡萄酒。


 テオが礼を言うと、カナラはニコリと微笑んで一礼し、部屋から出ていく。


 葡萄酒を口に含む。


 集中しすぎて水分摂取も忘れていたようで、カラカラに乾いた体に、薄い葡萄酒が染み入るようだった。


 白パンを一口大に千切って食べる。香ばしい小麦の香り、柔らかな食感。


 魔王討伐の道中で食べていた、カビの匂いがする保存食とは雲泥の差だ。


 皆は元気でやっているだろうか?


 ふと、そんな事を考える。


 カインは貴族になり、フローは変わらずに教会にいる。


 この二人は会いに行こうと思えばいつでも会える、しかしマーヤは今どこにいるかすらわからない……。


 生きているのか、死んでいるのかすらも。


 野菜のスープを飲む。


 ホロホロになるまでじっくりと煮込まれた野菜の甘みがスープによく出ている。


 塩味は必要最低限。優しい味が身にしみた。


 燻製肉を齧っていると、ドアをノックする音。


 食器を片付けに来たにしては少し早い。何か厄介事だろうか?


 入室の許可を出すと、カナラが部屋に入ってくる(この屋敷にはテオとカナラしかいないのだから、当たり前だが)。


「どうしたカナラ、何かあったか?」


 テオの問に、カナラは嬉しそうに微笑みながら返答する。


「テオ様にお客様が見えております」


「客?……誰だろう、魔術協会のやつらかな」


「いえいえ、協会の方ではありませんよ」


 すると、巨大な影がドアの向こうからひょっこりと顔をだす。


「よぉテオ!久しぶりだな」


「アナタは……マーヤですか!?」




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