208/313
地に足つけて
「いやな記憶なら心に残りますわよね」
どこかさみしげな瞳で朝霧はリンに答える。
(さみしそう……なんで?)
その瞳が心に引っかかったのか、リンはその理由を考える。
「ひょっとして朝霧ちゃん転校ばかりだから、そういう言い方してるの?」
「どうしてそうなりますの?確かに転校ばかりで来年も別の学校でしょうけども!」
朝霧の浮足立った答えと、リンの言葉を皮切りに教室内の空気が一気に和む。
「そっか。転向ばっかりじゃさびしいよね」
「強がりっていうか覚えていてほしいもんね」
「だからああいう言い方なんだね」
ゆっきーと岩筒地が何やら会話している声がリンの耳に入る。
「うんうん。だったら私たちで思い出に残る一年にしようか」
なにか閃いたのか、ゆっきーは携帯を操作しだす。
「えーと、つまりなにがどうなったの?」
「背伸びして歩くと転ぶ」
ポーリャはリンのつぶやきに答え、地に足をつけて自分の席へ歩いて行った。




