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我に返る
「――さん。清白さん。清白りっかさん」
「はい?」
自分の本名を呼ばれ、リンは反射的に返事をする。
「はい、出席と。こういう場所ではちゃんと名前で呼ぶからね」
姫野先生は出席簿になにか書き込むと、次の子の名前を呼ぶ。
(あれ?お話は?いつの間に?)
我に返ったリンは、周囲を見渡す。
聞こえるのは出席をとる先生の声と返事だけだった。
(え?ひょっとしてもう終わっちゃったの?やっぱり時間泥棒がいる!この教室に!)
どこにいるのか、リンは何度も目を配る。
ロッカー、花瓶、教壇、クラスメイト、窓、カーテン。
教室の中には春の日差しと風がそよぐ。
(まあいっか。いつか見つけるとして、お話はあとでどんなだったか聞いてみよっと)
そう思いなおしたリンは、掲示板にある時間割を確認する。
(音楽の時間もっと増えればいいのになあ)
リンは一時間目の準備をしながら、心の中でつぶやいた。




