定時刻の流れ星
やっぱりここのミートドリアは旨い。
夜中に食べることに罪悪感などなく、中肉中背の僕はどんどん食べる。
変わらない味に景色、そして曜日や時間、何よりお客たち。
10人で満員になるL字型のカウンターだけの店、
入口から一番遠い席にいつも僕は座る。
毎週木曜日の23時頃にミートドリアを食べるようになって、一年ほどになる。
バイト終わりに、看板を偶然見つけたこの店は地下にあり、
店長が一人で切り盛りしている。
店はバラード調の知らない音楽が流れているだけで店長は何も話さない。
客も何も話さずただ食べている、僕も含めて。
就職活動がうまくいかず、楽しい大学生活がどんどん下降線を下っていた。
そんな時に見つけたこの店が唯一の癒しだった。
やっぱりここのシナモンロールは美味しい。
夜中に食べることに罪悪感を抱きながら、やや太り気味の私はどんどん食べる。
変わらない味に景色、そして曜日や時間、何よりお客たち。
10人で満員になるL字型のカウンターだけの店、
入口から一番近い席にいつも私は座る。
毎週木曜日の23時頃にシナモンロールを食べるようになって、一年ほどになる。
残業で帰宅する途中に、看板を偶然見つけたこの店は地下にあり、
店長が一人で切り盛りしている。
店はバラード調の知らない音楽が流れているだけで店長は何も話さない。
客も何も話さずただ食べている、私も含めて。
昔の同級生が夢を叶え漫画家としてデビューが決まったと知り、画家になれなかった自分が惨めだった。
そんな時に見つけたこの店が唯一の癒しだった。
やっぱりここの生姜焼き定食は最高だ。
夜中に食べれば太りやすくなるが、元々小柄な俺は気にせずどんどん食べる。
変わらない味に景色、そして曜日や時間、何よりお客たち。
10人で満員になるL字型のカウンターだけの店、
入口から中央になる席にいつも俺は座る。
毎週木曜日の23時頃に生姜焼き定食を食べるようになって、一年ほどになる。
お客を降ろし、休憩する店を探している時に、看板を偶然見つけたこの店は地下にあり、
店長が一人で切り盛りしている。
店はバラード調の知らない音楽が流れているだけで店長は何も話さない。
客も何も話さずただ食べている、俺も含めて。
30年勤めた会社からリストラされた翌日に妻が出て行き、その3日後に弁護士から離婚届けが届いた。
そんな時に見つけたこの店が唯一の癒しだった。
やっぱりここのパンケーキは美味しい。
どれだけ食べても太らない、それだけが唯一の取り柄の私は、味わいながらどんどん食べる。
変わらない味に景色、そして曜日や時間、何よりお客たち。
10人で満員になるL字型のカウンターだけの店、
その曲がり角にいつも私は座る。
毎週木曜日の23時頃にパンケーキを食べるようになって、一年ほどになる。
客とのアフター後、看板を偶然見つけたこの店は地下にあり、
店長が一人で切り盛りしている。
店はバラード調の知らない音楽が流れているだけで店長は何も話さない。
客も何も話さずただ食べている、私も含めて。
働かないギャンブル狂の彼氏にお金をせびられ、こんな男でも寂しさから別れる事も出来ない。
そんな時に見つけたこの店が唯一の癒しだった。
ミートドリアの大学生は、中堅企業に就職します。
その会社始まって以来の官民共同による一大国際プロジェクトを、リーダーとして大成功させます。
シナモンロールのOLは、画廊を開きます。
才能を発掘する敏腕画商として、世界的画家を幾人か輩出することになります。
生姜焼き定食のタクシードライバーは、偶然、一流企業の会長を客として乗せます。
何気ない会話から人柄と前職の経歴をかわれ、そのままその企業に就職します。
パンケーキのキャバ嬢は、先輩の付き合いで来店した医者と結婚します。
そして2人の子宝に恵まれます。
木曜日23時のお客たちに、今は想像も出来ない日が訪れるのは、
これより5年後のことになります。
今日は月曜日で20時、そろそろあのお客たちが来店します。
まぁ人生、意外とそんなに捨てたものではないし、意外とその日は夢でもないかもしれない。
耐えて忍んで頑張って。
そんな日々を私の料理が支えになるのなら光栄です。
おまたせしました。
どうかその日まで。