表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

定時刻の流れ星

作者: 幸京

やっぱりここのミートドリアは旨い。

夜中に食べることに罪悪感などなく、中肉中背の僕はどんどん食べる。

変わらない味に景色、そして曜日や時間、何よりお客たち。

10人で満員になるL字型のカウンターだけの店、

入口から一番遠い席にいつも僕は座る。

毎週木曜日の23時頃にミートドリアを食べるようになって、一年ほどになる。

バイト終わりに、看板を偶然見つけたこの店は地下にあり、

店長が一人で切り盛りしている。

店はバラード調の知らない音楽が流れているだけで店長は何も話さない。

客も何も話さずただ食べている、僕も含めて。

就職活動がうまくいかず、楽しい大学生活がどんどん下降線を下っていた。

そんな時に見つけたこの店が唯一の癒しだった。


やっぱりここのシナモンロールは美味しい。

夜中に食べることに罪悪感を抱きながら、やや太り気味の私はどんどん食べる。

変わらない味に景色、そして曜日や時間、何よりお客たち。

10人で満員になるL字型のカウンターだけの店、

入口から一番近い席にいつも私は座る。

毎週木曜日の23時頃にシナモンロールを食べるようになって、一年ほどになる。

残業で帰宅する途中に、看板を偶然見つけたこの店は地下にあり、

店長が一人で切り盛りしている。

店はバラード調の知らない音楽が流れているだけで店長は何も話さない。

客も何も話さずただ食べている、私も含めて。

昔の同級生が夢を叶え漫画家としてデビューが決まったと知り、画家になれなかった自分が惨めだった。

そんな時に見つけたこの店が唯一の癒しだった。


やっぱりここの生姜焼き定食は最高だ。

夜中に食べれば太りやすくなるが、元々小柄な俺は気にせずどんどん食べる。

変わらない味に景色、そして曜日や時間、何よりお客たち。

10人で満員になるL字型のカウンターだけの店、

入口から中央になる席にいつも俺は座る。

毎週木曜日の23時頃に生姜焼き定食を食べるようになって、一年ほどになる。

お客を降ろし、休憩する店を探している時に、看板を偶然見つけたこの店は地下にあり、

店長が一人で切り盛りしている。

店はバラード調の知らない音楽が流れているだけで店長は何も話さない。

客も何も話さずただ食べている、俺も含めて。

30年勤めた会社からリストラされた翌日に妻が出て行き、その3日後に弁護士から離婚届けが届いた。

そんな時に見つけたこの店が唯一の癒しだった。


やっぱりここのパンケーキは美味しい。

どれだけ食べても太らない、それだけが唯一の取り柄の私は、味わいながらどんどん食べる。

変わらない味に景色、そして曜日や時間、何よりお客たち。

10人で満員になるL字型のカウンターだけの店、

その曲がり角にいつも私は座る。

毎週木曜日の23時頃にパンケーキを食べるようになって、一年ほどになる。

客とのアフター後、看板を偶然見つけたこの店は地下にあり、

店長が一人で切り盛りしている。

店はバラード調の知らない音楽が流れているだけで店長は何も話さない。

客も何も話さずただ食べている、私も含めて。

働かないギャンブル狂の彼氏にお金をせびられ、こんな男でも寂しさから別れる事も出来ない。

そんな時に見つけたこの店が唯一の癒しだった。



ミートドリアの大学生は、中堅企業に就職します。

その会社始まって以来の官民共同による一大国際プロジェクトを、リーダーとして大成功させます。

シナモンロールのOLは、画廊を開きます。

才能を発掘する敏腕画商として、世界的画家を幾人か輩出することになります。

生姜焼き定食のタクシードライバーは、偶然、一流企業の会長を客として乗せます。

何気ない会話から人柄と前職の経歴をかわれ、そのままその企業に就職します。

パンケーキのキャバ嬢は、先輩の付き合いで来店した医者と結婚します。

そして2人の子宝に恵まれます。

木曜日23時のお客たちに、今は想像も出来ない日が訪れるのは、

これより5年後のことになります。

今日は月曜日で20時、そろそろあのお客たちが来店します。

まぁ人生、意外とそんなに捨てたものではないし、意外とその日は夢でもないかもしれない。

耐えて忍んで頑張って。

そんな日々を私の料理が支えになるのなら光栄です。

おまたせしました。

どうかその日まで。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ