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これは多分、違う  作者: 青井林檎
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そういうところが嫌い

「ねえ、私と別れて」

今日会ってからこう言うまで彼女はいつも通りだっと。

ベッドに腰掛けてテレビを見ていた私は、後ろにうつ伏せに寝転がっている彼女を見た。彼女はいつものようにキャミソールに丈の短いジャージという気の抜けた格好をしている。

「うん、いいよ」

私には肯定を返すことしか出来なかった。私たちの関係において問題があるのはいつでも私だったから何も言えなくなってしまう。

「私、Aのこと気に入ってはいるよ」

「それくらい知ってる。努力してくれてたことも知ってる」

私は手元に置いてあったリモコンを使ってテレビを消した。テレビを消した途端、部屋は無音になる。

「そっか」

私の声は平坦なもので、とても冷たく聞こえた。

彼女の背中はほっそりとしていた。その細い背中に触れると、思ったよりもしっかりとした骨格が感じられることを私は知っていたがもう触れる権利がなくなってしまったと思うと少し寂しい。Aの顔を覗き込んでみたものの、彼女の顔は髪の毛で大半が隠れてしまっていた。見えている部分からは悲しさや嬉しさのような感情は読み取れず、何もわからない。

「今でも私のこと好き?」

自分でしておきながら、ずるいし馬鹿らしい質問だと思う。私はずるいから彼女が自分のことをまだ好きだと、ほとんど確信していながら聞いた。

「どうだと思う?」

「わからないけど、私のことをずっと好きでいてほしい。愛していてほしいと思ってる」

彼女は私のことを好きでいてくれる存在だと思っていた。自分は同じ感情を返せないのになんて傲慢。

彼女の横に寝転がり、彼女の髪に触れた。エアコンにあたって驚くほどに髪の毛は冷たかった。

「私、あなたのそういうところだけは嫌い」

「わかった。ごめんね」

優しい答えだった。私のほとんどを受け入れてくれる、彼女のそういうところが私は嫌いだった。

「もう苦しいの。どうしたらいいかわからない」

彼女はそう言った。私だって苦しいし、よくわからないことが怖い。それを吞み込んで相槌を打った。

「私の気持ち伝わった?」

「うん」

「考えは今でも変わらない?」

「……うん」

横に寝転がっている彼女の体が震えた気がした。彼女の顔にかかっていた髪の毛を指ですくい耳にかけると、目が合った。その瞳には何の感情も浮かんでおらず、動揺しているのは私だけなのかもしれなかった。

「Aのこと殺したい」

気が付けばこぼれえていた言葉に彼女は「いいよ」と軽く言った。

彼女は自分の首へと私の手を誘導した。細くて生きた温度のする首だった。

「ごめんね」

そう言ったのは私だったのか、彼女だったのか。私はただ寂しくて辛くて、彼女にどうにか埋めてほしかったのだ。

私が彼女の首に体重をかけていっても、彼女は何の抵抗もしなかった。彼女は首を絞められ始めてすぐに瞳を閉じて無抵抗であることを表現していた。体そのものが反射で動くということはあったものの、自分の首を絞めている私のことなどただのロープで自分は今自殺をしているところですと言わんばかりだった。

彼女の体は何度か大きく跳ねたのちに動かなくなってしまった。しかし、まだ体はあたたかく生きているかのようで、思わず呼吸をしていないか確認する。確認が終わると改めて、部屋の静けさというのが私を追い詰めた。

私は彼女の体を抱きしめて、ベッドに横たわった。彼女の体が完全に冷たくなったらこの死体をどうにかしないといけないとはわかっていたものの、彼女からは離れがたい。

「まだあたたかい気がする」

私の体温が移っただけかもしれない。それでも名残惜しかった。

彼女から離れると私は準備を始めた。まず、彼女を着替えさせることにする。彼女のクローゼットからハンガーにかかった少し贅沢な生地でできたワンピースを引っ張り出してきた。数年前のデートで彼女が来ていた私のお気に入り。彼女自身は「こんな若いデザインンはもう無理」なんて言っていたけど、もう一度着ている姿を見てみたいと思っていた。

次に化粧を施す。血色良く見えるようにメイクを施したが、不自然な人形のように見えたためやめた。彼女は化粧をしていないほうが美しい。

美しい靴も履かせた。歩くのには少し向いていないヒールの高い靴で、外出デートには向いていなかった。今日は私が彼女を運ぶから問題ない。

美しく着飾った彼女を部屋から連れ出し、車の助手席に座らせた。

「どこに行こうか?」

彼女からの答えはもちろんない。私は車を発進させた。

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