変わり者伯爵は不遇な侯爵令嬢を可愛がる
私は侯爵令嬢である。というと、みんな普通は羨ましがるだろう。ところがどっこい、これがそんなに恵まれた環境ではないのだ。
お母様は私を産んだ後亡くなってしまい、それが原因か私はお父様とお兄様からかなり嫌われている。
食べ物や水も最低限しか与えられず、教育もまともに受けてこなかった。社交の場に出されることもなく、日々を狭い物置部屋に押し込まれて過ごしていた。
そんないない者扱いの私にも転機が訪れた。どこから私の話を聞いたのか、伯爵家の売れ残り長男が私を娶りたいと申し出てきたらしい。この長男、非常に優秀であり見目も良いと評判らしい。ならなぜ売れ残っているか。それは変わり者としても評判だかららしかった。
「ご、ご機嫌よう」
初お目見えの席で、結婚相手…ルーカス様にご挨拶する。正直マナーすら知らないのでめちゃくちゃ緊張する。
「やあやあご機嫌ようプラム君!いやー、相変わらず華奢だねぇ!あ、でも顔立ちは大して変わらないねぇ。私のことは覚えてる?その顔は覚えてないかぁ…」
「え?え?」
「ほらぁ、幼い頃の侯爵家でのお茶会!僕がだだっ広い侯爵家で迷って泣いてたら君がどこからかすっ飛んできて慰めてくれたじゃないか!覚えてない?」
あ、そういえばそんなこともあったな。あの時の男の子か。あの後、宥めて泣き止んだら速攻で逃げたのに覚えてたのか。
「あ、思い出した?というわけでこの劣悪な環境から君を救い出しに来ました、王子様です!なんてね!」
「ええ?」
「まあそういうことだから、よろしく!」
「えええ?」
ということで結婚することになりました。
ー…
結婚する前に同棲期間が設けられることになり、伯爵邸に連れ帰られて一ヶ月。めちゃくちゃ溺愛されています。
「プラム君!君が好きそうなチョコレート菓子が売ってたから買ってきたよー!ほらほらたくさんあるから食べさせ合いっこしようよ!どれから食べる?ほら、あーん!」
「プラム君!見てこれ!君にぴったりのドレスじゃない?一目惚れして買っちゃったよー!プラム君にはやっぱりこういうちょっと大人びた感じが似合うと思うんだよねぇ。まあ、でもほら、アクセサリーも揃えなくちゃねぇ?ってことで今から買いに行こう!すぐ行こう!」
「プラム君!君、歌劇とか経験ないだろう?行こうか!もちろん今から!すぐに!…まあまあ、細かいことは言いっこなしさ!さあ、私の手を取って!夢の世界へお連れしよう!」
「プラム君、君、マナーとかすごい気にするよね。家なんだからもっと気を抜いていいんだよ?…え。きちんと教育を受けてこなかったから不安?なぁんだ、そんなこと!任せてくれ、私が手取り足取り教えて差し上げよう!」
「プラム君。プラム君も大分食べられる量が増えてきたね。よかったよかった。ほら、肉付きもこんなに良くなって…いてて、手をつねらないでよ。なにもデブになったとは言っていないだろう?むしろ丁度いい肉付きだというのに…」
「プラム君!この刺繍、君が!?我が家紋じゃないか!嬉しいよ!ありがとう!え?もちろん私にくれるんだろう?…練習?いやいや、せっかくだからこれは貰っておくよ。もちろん本番用のも貰うからね!」
「プラム君も大分笑顔が出てきたねぇ。やっぱりお勉強が楽しい?プラム君は努力家だなぁ。そんなプラム君に今日はご褒美があるよ!…じゃーん!新しいチェス盤!君、こういうゲーム好きだろう?どんどんやろう!」
こんなに幸せでいいんでしょうか…。
「いいに決まってるだろう?」
「さらっと心を読まないでください!」
「あはは。ごめんごめん。けれど、君はこれから私の側でもっともっと幸せになるんだから、このくらいの幸せで不安になってたらきりがないよ?」
「…ルーカス様」
「プラム君。幼いあの日から、ずっとずっと愛してる。たくさんの幸せを君に捧げるよ」
「…はい、ありがとうございます!私もルーカス様をたくさん幸せに出来るように頑張ります!」
「ふふ。もう幸せだよ」