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神様はとっても負けず嫌い

神様はとっても負けず嫌い3

作者: そえじろう

ここは都心から遠く離れたところにある神社。

もう何百年もの間、神職もおらず廃れに廃れきっています。

いや、今回は廃れていたというべきでしょうか。

ボロボロだった床は修繕が施され、ビリビリに破かれていた障子は綺麗に貼り替えられました。

あとは天井の雨漏りが無くなれば内装については完璧ですが、それもまあ近々何かしらやるのでしょう。


おや、縁側で日向ぼっこをしている少女の姿が。

お嬢さん、よければ一緒にお茶でもどうですか?


「あんたって本当に現金よね。でもお断りよ! 私はコーヒー派なの。それから三日月堂(みかづきどう)のおはぎも付けて出直してらっしゃい」


そう、ここにはとっても負けず嫌いでしぶとい神様がいるのです。

※注意)神様は少し力を取り戻したらしいので、今回は少女の姿をしています。




長いこと神様をやっていると、時として『見える人』に出くわすことがあります。


「ねえ、あなた一人なの?」


……。


「そっかぁ、あなた一人ぼっちなのね」


幼い女の子が神様の元へ近寄ってきます。

どうやら彼女には神様の姿が見えているようです。

女の子が話しかけていますよ。返事くらいしてあげたどうですか?

ほら、話はまだ続いているようですよ。


「じゃあ、あなた一人ぼっちでかわいそうだからわたしが一緒に遊んであげるね」


「可哀そう!? この私が!? ありえない! いい? 私は神なの! 神様はガキと遊んでる暇なんてないのよ。分かったら失せなさい。しっしっ!!」


「そっかそっかぁ。じゃあ、おままごとをしましょう。あなたは子供の役ね? わたしはお母さんの役」


ぷぷ、今度の相手は少々手ごわいようです。


「あんた今、鼻で笑ったわね? 覚えときなさいよ!」



そして――。


「ただいまー」


「おかえりなさーい、一人でクツを揃えられてエライわね。手を洗ったらおやつにしましょう」


「へーい」


「へいじゃなくてはいでしょ?」


「はい」


どうやら神様の子供役は様になっているようです。


しばらくしてカラスの鳴き声が聞こえた頃、女の子は今が夕方であることに気がつきました。


「あ、そろそろ帰らなきゃ! あなた明日もいる?」


「ああ、いるよ」


女の子は満面の笑みを浮かべると、元気よく帰っていきました。




次の日。

女の子がまたやって来ました。

神様は少し嫌な顔をしますが、おままごとに付き合ってあげました。

それから次の日も、また次の日も、そのまた次の日も女の子はやってきました。


そんなある日のこと――。


「ただいまー」


「ちょっと待ちなさい! クツが2ミリ曲がっているわ! 今すぐ直しなさい!」


「手を洗ってきたよー」


「そんなのあたりまえでしょう?」


「お母さーん、おやつはどこ?」


「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ーーーー!! も゛ー!! さっきからうるさいのよあんたは!!!! あんたはもうお姉ちゃんになるんだからそんなの一人で勝手に食べなさい!!!!!!」


「――!?」


女の子のそれとは思えない迫力に神様は目を目を見開きました。

そして女の子の目からはポツリポツリと涙が……。

やがて女の子はわんわん大泣きしてしまうのでした。




カラスの鳴き声が聞こえました。

女の子はずっと座ったまま俯いています。

しびれを切らした神様が女の子に話しかけました。


「おーい、もう夕方だぞー。帰んなくていいのかー?」


「いいもん」


女の子はつぶやきます。


「あのなあ……」


神様が次に何を言えば良いのか言葉を探していると女の子が口を開きました。


「ねえ、お母さんはわたしのことが嫌いなのかなあ……」


その一言が、女の子が抱える悩みの全てでした。


「さっきのあれ、お母さんに言われたの?」


「うん」


「そっか。……でもそれって本心じゃないと思うよ」


「なんで?」


「だってほら」


神様は鳥居の方を指差します。

すると群がっていたカラスがバサバサっと飛んでいき、一人の女性が現れました。


「さき!!」


そう呼ばれた女の子は女性の顔を見ます。そしてボロボロと涙を流します。


「うえーん!! お゛があ゛ざーん!!!」


「ごめんね。お母さん、さっき怒鳴っちゃったよね。本当はそんなこと思ってないんだよ」


母親は女の子を強く抱きしめ大泣きするのでした。




あれからしばらくの月日が経ちました。

神社は静まり返っています。

神様の姿がありません。

神様ー。神様どこですかー?


「うるさい! わたしはここよ」


どこですか?


「ここよ、ここ! 下を見なさい!」


は! いつもの幼い女の子。

お嬢ちゃん、神様を見てない?


「うるさい! わたしが神だ! しょうがないじゃない、ちょっと力を使い過ぎちゃったんだから!」


それはそうと参拝客が来たようです。

あの時の女の子でした。

今度は両親とそれから生まれたばかりの弟も一緒のようです。


因みに女の子の父親は長期出張で単身赴任が決まっていましたが、どういう訳かたったの1週間で出張が終わったらしくとんぼ返りをしてきました。


ずいぶんと楽しそうにはしゃぐ女の子に神様は問いかけます。


「どう? あれからお母さんとは仲良くやってる?」


女の子は見向きもしません。どうやら『見えなくなってしまった』ようです。

やがて帰っていく家族の後ろ姿に向かって神様は微笑みます。


「そっか、良かったね」


どうやらこの神様、とっても負けず嫌いで素直じゃないようです。

一応この物語はこれで完結です。

本当はギャグの要素をもっと盛り込むはずでしたが、これはこれで良かったかなと思っています。

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