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2-1 ハジメテノトモダチ

 翌日。交換条件の通りに、これからこの世界のことや戦闘について学んでいくらしい。

 今日は午前が座学、午後が実際に武器を手に取って戦闘訓練らしい。


「座学、とは言っても......歴史とかしたところで、眠たいだけだし......魔法でもするか」


 軽く飛び出したその二文字に、俺の心は急速に跳ね上がった。

 俺のスキルの欄には死神と時間操作といういかにも強そうな名前をしたスキルが並んでいるくせに、その能力はそこまで高くないし、地味だ。『書き込み』なんて見た目上ではどこにも影響を及ぼしていないし。

 魔法があれば少しは異世界っぽいことができる!


「あー、それでは始める」


 そう言って、少しやる気のなさそうな講師による魔法の授業が始まった。



「魔法はこうやって使うんだ」


 そう言って、右手を突き出した。


「風よ『風刃』」


 その瞬間、手から何かが飛び出したかと思うと奥の壁を大きく抉った。


「生身の人間ならこれで一撃だ。風魔法は隠密性と速攻性に優れている。反面、瞬間的な火力は低く、継続するにも魔力効率が悪い。まぁ、簡単に言ったらそうだな......攻撃してすぐ逃げるならこれがいいけど、ずっと戦闘しようと思ったらあんまり向いてない、ってことだ」


 風魔法はいつものゲームのように緑色をしていたりはしてなかった。当たり前だけど風に色はついてないよな......


「そして、このような特徴が火、水、土、風と存在する。これが四大属性だ」


 そう言って、講師の先生は球体を空中に浮かべた。


 燃えるようにに光る球体、水でできた球体、泥団子のような球体。きっと風もあるんだろうけど、やっぱり見えない。


「それじゃ、魔法の練習に入ろうか。それぞれ、スキルのところにある魔法をイメージしてくれ、きっと詠唱が頭の中に思い浮かんでいるだろう」


 え、俺魔法スキル、あったっけか?


「『ステータス』」


 小声でそうつぶやいて、ステータスを一度見るものの、どこにも魔法の欄は存在しなかった。


「先生、魔法ないです」なんて言えれば良いのだが、今言えば最初の契約の時の悪い空気と相まってさらに立場が無くなってしまう。これ以上居場所がなくなったらさすがにつらい。


「先生、少しトイレ行ってきます」


「あぁ、わかった」


 かろうじてのどを通ったその言葉を吐き出すと、俺はすぐに扉を開けてトイレへと向かった。






「はぁ......」


 現在トイレの大きいほうの個室。

 水洗トイレなんてあるはずもなく、底が見えないトイレだった。このトイレの名前、なんだっけか......まぁ、どうせ思い出せないか。


 一人、個室で頭を抱える。


「魔法がないとか、誰も想定してないだろ......」


 周りを見た感じ、みんな魔法をつかえたようだった。

 元の世界に存在しなかった力だからこそ、ごまかしがきかないのが面倒。

 いっそ、風魔法だと言い張るか......?


 スキルポイントを使えば習得できるのかもしれないけれど、今ポイントがないうえに時間操作のレベルを一刻も早く上げないといけないのにポイントをそう楽々と使えない。


「はぁ......」


 結局、出てきたのは大きなため息と、多少の便だけだった。






 午後は戦闘訓練。

 皆が講義の部屋から向かっているのを確認して、一番後ろをつけるようにして歩く。


「どうしたの、トイレ長かったけど大丈夫?」





 そう声をかけてくれたのは......見覚えがある。おそらく女子Aだろう。


「あ、大丈夫だよ、ありがとう」


 世話焼きな性格なのだろうか、昨日と変わらず接してくれるのは彼女だけだ。まぁ、接するような友達がそもそもいなかったから当たり前といえば当たり前だけど。


「ところで......名前聞いてもいい?」


「......ぷっ!」


 頑張って名前を聞いてみたところ、急に笑い出した。


「まさかと思ったけど、本当に名前を覚えてないと思わなかった!」


 我慢して声を抑えている彼女。だが時折「クッ」と声が漏れているのが聞こえてくる。


「ちょ、勇気だしたってのに......」


「ご、ごめん、そんなつもりじゃなかったの!」


 そう言って手をわたわたさせながら、彼女は俺の前に立った。


「それでは改めまして、折原 香澄です。よろしく!」


「これはご丁寧にどうも、十時 宗次です」


「知ってるよ! もうクラスメイトの名前、全員覚えてるから!」


 そう言って胸を張る女子A......折原さん。元から存在感を出していた胸がどんと突き出されているため、一瞬視線が持って行かれたが、すぐに戻す。


「それじゃあ折原さん......よろしく」


「香澄でいいのに......まぁ、いっか! よろしく!」


 これが、きっと初めての友達だった。

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