2-5 救世主
まぁ、屍を超えろと言っているわけではない。
ただ会ってまだ少しの人間と、世界の壁を共に超えた中、どちらを取るのか、と聞いているわけだ。
会って数日の人間を救いに自分の命を投げ出す勇気を持っているからこそ、この選択は残酷に彼女の心に重くのしかかと、そう分かっているから。
「なんで、なんでそんなことを言うの!」
折原さんは声を荒げる。
正直、女子Bがここまで悪役になってくれるとは思っていなかった。
だが、俺の勝利条件は最初から変わらない。救援が来るまで、クラスメイト全員を城周辺に立ち入らせない。
それだけで、ここで友人を抑えるだけで勝てるというのに、ここから敢えて博打を打つ必要もない。
だがそれは逆に言えば、まだ平和ボケしている、ほかのクラスメイトが中に入ってしまった瞬間、俺はもう一度これをやり直さないといけないということでもある。
彼らは、彼女らは知らないだろう。この世界が、元の世界に比べて命の価値がとても低いことを。奴隷という制度があるほどに人権というものが重視された世界ではないことを。俺はまだ見てはいないが、男女平等だけは実現しているなんて言うことはないだろう。
それほどに、強者が弱者を食らうのが日常茶飯事な世界なんだ。
そう、俺だけが知っている。
だから、女子Bには頑張ってもらわないと。俺が体を取り返すまで。
取り返せば、あとは俺がいくらでも悪役になってやる。
――――クラスメイトの命と、この世界に連れてこられた元凶、どっちを助けたいのって言ったら良い
「十時くんって、結構性格悪いのね」
――――誉め言葉として受け取っておくよ
そう、女子Bもまだ、この世界の冷徹さを知らない。
だから、非情に振舞えない。
頭が良いだろうことは行動の節々からわかっている。
未だ言うか否かを思考して停止しているのがその証拠だろう。
だが、ここさえ乗り切ればもうすぐ救援が来る。
それを俺だけが知っている。
「ねぇ。選んで」
そして女子Bも、俺を信用してくれたようだ。
決定的な言葉を、未来を変える言葉を紡ぎだす。
「友達を守って王城を捨てるか、友達を見捨てて死にに行くか」
「――守りに行く選択肢はないの......?」
何故と、分からないと。
私は守りに行こうとしているのに、残酷な選択肢をどうして突きつける。
そう目線が訴えている。が、それが不可能だということを、それが叶うことはないと、それが無駄な死であることを俺が一番わかっている。
もし守れるなら、あの場所で一人戦意喪失をする意味もなかったわけだから。
その光景を、俺だけが知っているから。
「お願い。一緒に友達を守って」
「......その言い方は、ずるいよ」
絞り出すような声。
彼女を止めにかかったようだ。
狡く、賢い。
友情は壊れない。彼女も壊れない。
俺よりもよっぽど上手いやり方をしている。
「わかった。私、残るよ」
「ありがとう、本当にありがとう」
二人が涙を流し抱き合った。
綺麗な友情の形だろう。
俺がいなければ、もっときれいなものだっただろうに。
二人の隣にじっと立っている俺のゾンビ。
もっと空気を読めよ、と言いたかったがそれを言う口は持ち合わせてはいなかった。
さて、イレギュラーはまだ来るか、と幽霊状態ではあるが警戒を続ける。
王城の方を見た瞬間だった。
後方で破壊音が響いた。
なにが、と振り向いて姿を確認する。
そこにいたのは男。ただの一人の男だった。
そう、俺の勝利のお告げだった。
「お待たせ、あとは俺に任せてくれ」
救世主が到着した。




